「スピード感を持って意思決定をすることが生死を分ける」。年間200冊の本を読むKaizen Platform代表の須藤憲司さんは、 『OODA LOOP(ウーダループ) 次世代の最強組織に進化する意思決定スキル』(チェット・リチャーズ著/原田勉訳・解説/東洋経済新報社) からそう学んだといいます。須藤さんがどのように本と向き合い、その人生に影響を受けてきたのかを探る連載第3回。

ビジネスで勝因を分けるのは?

 連載第3回は、僕のビジネスの学びになった本を紹介します。それは『OODA LOOP(ウーダループ) 次世代の最強組織に進化する意思決定スキル』です。

 もう10年以上前ですが、リクルートに勤務していた頃に英語の勉強をしていました。そのときのコーチたちにはアメリカの退役軍人が多く、彼らからこの本を薦められたんです。でも、当時は翻訳版が出ておらず、2019年に出たので読んでみたら、本当に面白かった!

 この本は、元アメリカ空軍大佐のジョン・ボイドの意思決定理論を紹介したものです。ジョン・ボイドは戦闘機のパイロットとして実戦を経験したのですが、勝因を分けるのは「意思決定の早さ」だと確信します。戦闘機は敵に背後を取られたら撃墜されてしまう。スピード感を持って意思決定をすることが、生死を分けるんです。

 その後、ジョン・ボイドは軍事戦略家に転身し、ビジネスの世界にも軍事戦略の概念を取り入れました。それが「OODA LOOP」です。

 「OODA LOOP」とは「Observe(観察)」「Orient(情勢判断)」「Decide(意思決定)」「Act(行動)」の頭文字。

 よく知られている「PDCA」と何が違うかというと、「P(Plan)」ではなく、「O(Orient)」、つまり情勢判断が重要なんですね。そして、どうやって判断すべきかも丁寧に解説してあります。ビジネスの世界でも、勝つためには「PDCA」ではなく「OODA」を回すこと、それもスピード重視で回す「Agility(機動性)」が大事だと説いています。

「スピード感を持って意思決定をすることが、生死を分ける」と強調する
「スピード感を持って意思決定をすることが、生死を分ける」と強調する
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 では、ビジネスにおける機動性とは何か。それは、「今まで進んでいたA方向ではなく、新たにB方向に向かいます」と決めたときに、組織全体がパッとBに切り替えられる力。その時間が短い組織ほど勝てる可能性が高いんです。「えーっ、今までAっていってたのに」と、うだうだしている組織は負けてしまう。

 どうやって機動性を高めていけばいいのかというと、「組織の文化が大事だ」というのが、この本の答えです。「今までAっていってたのに」と反感を買わないためには、「組織の上下関係における相互信頼」や「現場の主導性を高めること」「的確な焦点と方向性」といった組織内の文化を育てる必要があります。ただ命令を聞くだけの人が増えるのは機動性を高めることにつながらないため、「組織全体のビジョンやミッションを明確にすること」も大事です。

 他にも「正攻法と奇襲法」といった解説もあり、いろいろとビジネス書を読んできたなかでも、この本は相当に面白い。ただし、分かりやすい理論ではないので、すらすらと楽に読める内容ではありません。そして、身もフタもない言い方ですが、実践するのが難しい(笑)。でも、ビジネスパーソンなら読む価値がある本です。

 僕も経営者として、この本には深く考えさせられました。他社に勝とうとすると、やはり機動性がものをいいます。Kaizen PlatformはB to Bの企業ですから、クライアントの機動性を高め、勝たせることを考えないといけない。デジタルトランスフォーメーション(DX)もサポートしていますが、やはりDXがスムーズに進む組織と、抵抗があってなかなか進まない組織があると実感しています。

「愛することは技術」と学べる本

 次に紹介するのは、『OODA LOOP』とは正反対のような『愛するということ』(エーリッヒ・フロム著/鈴木晶訳/紀伊國屋書店)。

 実はこの本は4人くらいから「絶対に読んだ方がいい」といわれながらも読む気にならず、昨年末にやっと手に取りました。読んでみたら、「めちゃくちゃいい本だな!」と感動しました。

 結局、人が仕事で悩むことのほとんどは人間関係だと思います。「チームや組織づくりをどうするか」「部下との信頼関係を築くには」「クライアントの心をつかむには」とか。

 人間関係の悩みを解決するには他者への「愛」が必要不可欠ですが、それもまた難しいですよね。でも、この本では、「愛することは技術」であり、「自分の努力でいかようにもできる」と説いていて、「なるほど!」と目からウロコが落ちました。きちんと他者への興味関心を持ち、「愛する」という技術を使えるようになればいいんです。

 でも、そもそも愛するという技術を知らなければできないし、難しい。そりゃあ、今までうまくできなかったはずだな、と納得しました。

「人の本質」「人の生き方」について書かれた本を通じて自分と対話する
「人の本質」「人の生き方」について書かれた本を通じて自分と対話する
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 実は、僕は子どもの頃から人と向き合うことが苦手で、どちらかというと1人でマイペースに作業することの方が好きでした。人間って不確実な存在だから、よく分からない。他人からの影響を受けたくない、と思っていた部分もあります。

 でも、仕事をするとなると、どんな仕事でも「人と関わること」が避けられないし、協力しないとうまく進まない。大人になって改めて「人を理解したい」と思って、遅ればせながら学んでいる状態です。

 そういう意味では、『愛するということ』も、 連載第1回 から挙げてきた5冊も、「人の本質」「人の生き方」について書かれた本だから、手に取ってきたといえます。本を読みながら、「こういう考え方もあるのか」「これにはすごく納得できる」と自分と対話ができるのもいい。

 今は「いつか引退したら読もう」と思う本が、積ん読の山になっています。まだまだ読む本があると思うと楽しみです。

「『いつか引退したら読もう』と思う本が、積ん読の山になっています」と語る
「『いつか引退したら読もう』と思う本が、積ん読の山になっています」と語る須藤憲司さん
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取材・文/三浦香代子 写真/雨宮百子(日経BOOKプラス編集部)