ビジネスを成功に導くためには、自分や相手の心理を把握しておくことが最善の近道。ここでは、失敗の原因をすぐ自分以外のものに求め、いっこうに成長しない従業員を例にとります。言い訳とモチベーションの間には密接な関係があるのです。日経ビジネス人文庫『ビジネス心理学大全』(榎本博明著)から抜粋して解説。
自分は絶対に悪くない?
結論から言えば、言い訳とモチベーションの間には密接な関係があります。ただし、言い訳をする人物はモチベーションが低く、言い訳をしない人物はモチベーションが高い、というような単純なものではありません。言い訳の中身が問題です。
ある経営者は、モチベーションが低くて困る従業員について、次のように言います。
「何かにつけて言い訳が多いんですよ。先日も、顧客対応がまずくて相手を怒らせてしまったのですが、いくら対応のまずさを指摘しても、先方の言い分がおかしかったからというような言い訳ばかり。自分の落ち度に気づいて、そこを今後修正してくれればいいんですけど。なかなか反省してくれなくて困ります」
別の経営者も、モチベーションの低い従業員について、次のように嘆きます。
「他の従業員は、営業成績が悪いと、自分の営業の仕方をさらに工夫しようと頑張るんですけど、その人物は、担当している地域が悪いとか、今回は運が悪いことが重なってうまくいかなかったとか、言い訳ばかりで自分のやり方を振り返ろうとしないんですよ。あれじゃ成長しないし、ほんとにお荷物社員です」
このような人物の特徴は、ミスをしたり、ノルマを達成できなかったりしたとき、その原因を自分以外の要因のせいにすることです。そこで問題になるのが、原因帰属のスタイルです。
原因を自分のせいにする人、そうでない人
仕事でも勉強でもスポーツでも、成功や失敗の原因を何に求めるかを原因帰属と言います。
心理学者ロッターは、「ローカス・オブ・コントロール」(統制の位置)という概念を提起しました。自分の行動の結果をコントロールしている要因が自分の内側にあるか外側にあるかということです。
そう言われてもピンと来ないという人が多いかもしれないので、簡単に言えば、成功や失敗の原因を自分のせいにするか、自分以外の要因のせいにするか、ということです。
先ほどの例で言えば、客を怒らせてしまった際に、自分の対応がまずかったと考える人は、客を怒らせた原因は自分にあるとみなしていることになります。一方、「私に落ち度があるとは思えません」「あれは言いがかりです」というような言い訳をする人は、客が怒ったのは客の側の要因によるとみなしている、つまり自分以外の要因のせいにしていることになります。
営業成績が悪い従業員の事例でも、営業をかける際にまだまだ工夫が足りないとか、もっと商品知識を仕入れて信頼を得られるようにしないといけないなどと考える人は、営業成績が悪い原因は自分の力不足にあるとみなしていることになります。一方、「あの会社は何度訪問しても脈なしです」「私の担当地域はどうも資金的に余裕のない会社ばかりで、いくら営業をかけても無駄だと思います」などといった言い訳をする人は、営業成績が悪い原因を担当している会社のせいにしている、つまり自分以外の要因のせいにしていることになります。
このように、原因帰属のスタイルには、自分の能力ややり方のせいにする内的統制型と、他人や状況、運といった自分以外の要因のせいにする外的統制型があることになります。
このような原因帰属のスタイルは、個人の中でかなりの一貫性があるようです。何かにつけて自分の能力や取り組み姿勢、努力に原因を求める人は内的統制型ということになります。一方、顧客とトラブルになっても、自分の落ち度を認めずに相手のせいにしたり、ノルマを達成できなかったときに状況や運のせいにしたりしがちな人は、外的統制型ということになります。
そして、外的統制型の人よりも内的統制型の人の方がモチベーションが高く、勉強でもスポーツでも仕事でも成績が良いことが分かっています。
言い訳の仕方でモチベーションが分かる
内的統制型の人は、物事の成否を決めるのは自分自身の能力や取り組み方だとみなす思考習慣を身に付けています。すなわち、自分が能力を十分に発揮できれば良い結果が出るはずだ、一生懸命に頑張ればきっと良い結果がついてくるはずだと考え、うまくいかないときも、十分に力が発揮できていないからだ、やり方をもっと工夫すれば何とかなるのではないかなどと考えるため、高いモチベーションを維持することができます。
そして、成功確率を高めるために、仕事に必要な知識を身に付けようと勉強をしたり、視野を広げるために幅広く情報収集をしたり、地頭を鍛えるため直接仕事に関係ない読書をしたりして、能力開発に励みます。
それに対して、外的統制型の人は、物事の成否を決めるのは状況や運や他人の力であって、自分にはどうすることもできない力が働いているとみなす思考習慣を身に付けています。そのためモチベーションは低く、能力開発もおろそかになりがちです。自分の頑張り次第で成功への道を切り開いていけるといった発想がなく、思うような成果が出ないとすぐに諦めてしまいがちです。
ゆえに、どのような言い訳が多いかでモチベーションが高い人物かどうかを見分けることができます。
思うような成果が出ないとき、不景気だからとか、ライバル社の攻勢がすさまじかったとか、相手方の担当者との相性が悪かったなどと、外的要因を持ち出して言い訳する人物は、概してモチベーションが低いとみなしてよいでしょう。一方、やり方を間違えたとか準備不足だったというように内的要因を持ち出して言い訳をする人物は、モチベーションが高いとみなすことができます。
榎本博明著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)

