他人から見るとどう考えても無謀だという行動をとって、大失敗する人がいます。あるいは、まさか自分は詐欺にあうわけがないと思っていても、簡単に引っかかることがあります。その深層心理とはどのようなものでしょうか。日経ビジネス人文庫『ビジネス心理学大全』(榎本博明著)から抜粋して解説します。

第1回 「言い訳の2つのタイプ モチベーションが高いのはどちら?」

Question
新聞やテレビで報道されている企業の失敗事例を見ると、なぜあんな軽率な判断をしてしまうのだろう、まずいことになるのは目に見えているのに、と思わざるを得ないことがあります。自分だったらそんなことはしないと思うのですが、そこには誰もが陥りがちな心理的要因が働いているのでしょうか。

愚かな判断をしてしまうのはなぜか

 企業の不祥事の事例や、企業が詐欺的な手法にはめられる事例についての報道を見ると、なぜそんな愚かなことをしたのだろうと誰もが思うものです。不祥事の事例では、そんなことをしてなぜばれないと思えるのかが不思議でならないという人が多いはずです。詐欺に簡単に引っかかってしまった企業の事例では、なぜもっと慎重に判断しなかったのだろうと思うでしょう。

 第三者として見る限り、そのような冷静な目で判断することができるでしょうが、当事者になると、どうも冷静さを失ってしまうようです。

 うっかり不祥事に手を染めてしまった人たちも、詐欺にはめられて大損害を被ってしまった人たちも、まさか自分がそんな浅はかな判断をするとは思っていなかったはずです。でも、いざとなると、慎重さを失い、愚かな判断をしてしまうことがあります。そのような事態に陥らないようにするには、そこに働きがちな心理メカニズムに通じている必要があります。

 このような心理に陥ってしまう心理メカニズムについて知っているだけでも、誤った判断を防げる確率が大いに高まります。

不都合な情報には目をつぶってしまう

 経営戦略上、非常に重要な案件について検討する際に、後から振り返るとなぜまずいことになると気づかなかったのかと不思議に思うような誤判断をしてしまうことがあります。

 例えば、今ここで事業を拡大するだけの資金的余裕がないことを示す財務データが手元にあるにもかかわらず、それを無視して大胆な事業拡張計画に乗り出し、痛い目にあう。あるいは、商談を持ちかけてきた相手について、慎重に情報を集めていればその怪しさに気づいたはずなのに、ついそれを怠って、痛い目にあう。そのようなことがしばしば起こっています。

 そこで知っておきたいのが、私たちには心地よい情報環境をつくろうとする心理傾向があるということです。もう少し詳しく言うと、自分にとって脅威となる情報や不都合な情報には目をつぶり、自分にとって都合の良い情報ばかりを選択的に取り込もうとする認知傾向を持つということです。

 これは、心理学者フェスティンガーの認知的不協和理論で証明されたものです。例えば、新車を買うにあたって、T社のAにするか、N社のBにするかで散々迷った末にAに決めました。H社のCは、当初は候補に入れていたものの、途中で候補から脱落し、最後はAとBに絞られたとします。

 そのような状況の人たち、つまり新車を買って1カ月以内の人たちを対象として、ある調査が行われました。それは、自動車の広告の認知度についての調査です。

 その結果、新車購入者たちは、自分の情報環境を心地よいものにすべく、情報の流入をコントロールしていることが証明されました。

 各自が購読している雑誌や新聞を事前に聴取し、最近1カ月分を持参し、そこに出ているA、B、Cの広告を示し、「気づいたかどうか」を尋ねました。すると、最後まで購入を迷い検討したAとBの広告は、よく気づいていました。「Aを買ってやっぱり良かった」「Bの方が良かったかな」などと思うなど、強く意識していたのでしょう。Cの広告は、あまり意識していないため、見過ごしがちでした。

 さらに、気づいたという広告に関して「読んだかどうか」を尋ねました。すると、おもしろい傾向が見られたのです。Aの広告は、気づくとほとんど読んでいました。Cの広告は、あまり気づかないのですが、気づいたものについてはある程度読んでいました。ところが、Bの広告は、よく気づくのに、あまり読んでいませんでした。そこには、自分にとって都合の良い情報は積極的に取り入れようとし、都合の悪い情報は極力取り入れないようにする、といった心の動きが反映されています。

 そもそも広告には良いことばかりが書かれています。自分が選んだAの広告を読めば読むほど、自分の選択は正しかったと思い、安心することができます。しかし、最後まで迷ったけれども選ばなかったBの広告を読むと、「あっちの方が良かったのかもしれない」といった思いが脳裏をよぎり、気持ちが落ち着きません。そのため、Aの広告は積極的に読み、Bの広告は極力読まないようにするのです。

 私たちは、このような情報の取捨選択を無意識のうちに行っています。

いざとなると、慎重さを失い、愚かな判断をしてしまうことがある(写真:metamorworks/stock.adobe.com)
いざとなると、慎重さを失い、愚かな判断をしてしまうことがある(写真:metamorworks/stock.adobe.com)
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自分の認知のゆがみを意識しよう

 自分の考えを裏づける証拠となる情報にはよく気づくのに、矛盾する証拠となる情報には目をつぶる認知の癖のことを確証バイアスと言います。

 確証バイアスのせいで、自分が何かを提案したいと思うとき、それが危険であることを知らせてくれるマーケティング・データや財務データが手元にあるにもかかわらず、ちゃんと参照せず、その存在を忘れてしまったりすることがあります。そして、都合の良い情報ばかりに目を向けるため、リスクを無視した判断をしてしまったりするわけです。ときに、それが致命的な失策になることがあります。

 そのような誤判断を防ぐには、都合の良い情報ばかりに目を向け、都合の悪い情報に目をつぶりがちな認知の癖を誰もが持っていることをたえず意識するように心がけることが必要です。それによって、自分の認知のゆがみに気づき、あらゆる情報に目を向けることができるようになります。

日経ビジネス人文庫『 ビジネス心理学大全
心理学は、最強のビジネススキルだ! マズロー、アドラーからカーネマンまで。モチベーションから人間関係まで。すべてが1冊で読める。理屈だけではなかなか動かなかった仕事が、これで動き出す。

榎本博明著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)