6月7日に開催されたテレ東BIZ1周年感謝祭でライブ配信された「成長するには本を読め!~5年後の自分を作る本の選び方~」。評論家の宮崎哲弥さん、学びデザイン代表取締役の荒木博行さん、フリーアナウンサーの森本智子さん、日経BOOKプラスの常陸佐矢佳編集長の4人で、「ビジネスパーソンの成長において鍵となる読書」について議論を交わしました(以下、敬称略)。

読書家が語る、本の読み方、いい本との出合い方。「読書に失敗はない」という話も! 本が読みたくなる話が満載です。(番組の様子を記事でお届けします)

<出演者>
評論家 宮崎哲弥
学びデザイン代表取締役 荒木博行
フリーアナウンサー/起業家 森本智子
日経BOOKプラス編集長 常陸佐矢佳

本との出合い方が変わってきた

森本 皆さんは、どうやって本を選ばれていますか? 私は以前は週1、2回書店に行ってチェックしていましたが、最近ではアマゾンで買うことが多くて、どんな選び方をしたらいいのか悩んでいます。

宮崎 昔は買う本を決めて書店に行くのに、いつの間にか違う棚を見て回り、いっぱい本を買って帰るようなことがありました。最近はネット書店で買うことも多く、目的をはっきりさせて買うことが中心になってきました。

本の買い方も変化してきた
本の買い方も変化してきた
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森本 出合いが狭まってしまっている気がしますね。

宮崎 それを解消するために、週に1度はリアル書店に行こうと努めています。

森本 常陸さん、日経BOOKプラスは本との出合いの場になっているのでしょうか。

常陸 まさにサイトを通じて、本との接点を増やしてほしいと思っています。どんな本を読んでいいのか分からない、忙しくて時間がない、本から学びを得たいという方のニーズに応えるべく、コンテンツをたくさん用意しています。皆さん、失敗したくないという思いがすごく強いので、効率よく情報を入手できるような仕組みも展開しています。

森本 どんな項目があるのですか。

常陸 ビジネス、テクノロジー、ライフ、今を読む、という4つのジャンルで記事を紹介しています。弊社には書籍の編集者が数十人いて、人脈や知識の猛者といいますか、経済や情報など一つのジャンルをずっと極めている人が多い。その人たちが本気で作った本はやはり面白くて、それらも世の中に届けて活用してほしいと思っています。テキストだけでなく、音声、動画とコンテンツの幅も広げて、新しい読書体験ができる場になっています。

荒木 本選びは結局、自分を知るということに尽きるんですよね。自分はどんな文体が好きか、自分の知識レベルはどのくらいか、自分の興味関心は何にあるのかといったことを知らずして、いい本に出合うことはできない。

「本と出合うタイミングにもよりますよね」
「本と出合うタイミングにもよりますよね」
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荒木 こういうのは全然頭入らない、これは分かんないけどスッと読めちゃうなとか、そういうことを通じて自分はこうなんだなと理解するのは大事なことで、本を選ぶというのは自分を知るプロセスだという気がします。そのためには失敗することも大事。自分の好きなラーメンは何味かというのも、いっぱい食べた結果としてたどり着けるわけじゃないですか。

宮崎 読書に関しては、効率よく読むことも重要だけど、失敗から学ぶことも重要ですね。

積読は「失敗ではない」

常陸 私たちの調査では、興味があって買った本を積読にしてしまうのを解消したいという声が届きました。積読は失敗に入ると思われますか。

宮崎 失敗ではないと思います。この本はダメだと途中で思っても、荒木さんがおっしゃったように本を読むこと自体が自己発見のプロセスなので。だから、積読になったとしても嘆くことはない。それ以上に良書に出合えればいいだけで、試行錯誤は必要だと思います。

常陸 積読のリストから見えてくるものもあるかもしれないですね。

宮崎 積んでいた本の価値を後で再発見することもありますから。ただ、特殊かもしれないけど、私は途中でどんなにゲンナリしても、基本的に全ての本を読み通すんです。

「読み進めにくくなっても、とりあえず読み通してみる」
「読み進めにくくなっても、とりあえず読み通してみる」
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宮崎 私は途中で投げ出したくなるのは翻訳本が多くて、翻訳が悪いのか原著者の説き方が悪いのか分からないけど、とにかく謎の言葉がいっぱい出てきて意味が取れないことがある(笑)。そのときは真っ赤な付箋を貼り、最後まで読み通してみて、もう1回付箋のところに戻ってみると「あー、なるほど、こういうことが言いたいのか」と改めて分かったりすることもあります。それでもダメなら、原著に当たるしかないね(笑)。個人の癖で、皆さんにお勧めはしないけれど。

森本 私は本の読み方を二つに分けています。10分か20分で速読する本と、自分の体に染みわたるように線を引き付箋を貼り、じっくり何日もかけて読む本と。

荒木 僕は買った時にまず3分でも5分でも目を通して、その上で本当にいい本だと思ったら、しっかり読みます。さっき積読の話がありましたが、積読が死蔵されちゃう場合と生きた積読になる場合がある。一通り3分でも目を通しておくと、自分の頭の中にある程度、引っ掛かりができているんですよ。すると、仕事などで何かあったとき、「あ、この本、そういえば」という適切なタイミングで適切な本を選べるようになる。どんないい本でもいいタイミングで読まないと、自分にとってプラスにならないということもあります。

読書家たちの人生を変えた本

森本 最後に、皆さんの人生を変えた本を教えてください。

常陸 私はアランの 『幸福論』 (日経BP)です。いろんなバージョンが出ているなかで、これは村井章子さんが訳された本で、深刻ぶるのはやめてのんきにいこうというメッセージが本の装丁からも伝わってきます。

「装丁の雰囲気もいい。人生で大事にしたい言葉が詰まっています」
「装丁の雰囲気もいい。人生で大事にしたい言葉が詰まっています」
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 パラパラと見るだけで、自分のコンディションによって、「この言葉が今欲しかったんだなあ」と。ちょっと迷ったり悩んだりした時にめくると、必ず何か言葉が見つかる本になっています。自分の機嫌は自分でとる必要があるから、この本に戻っている感じです。

宮崎 不確実性のなかでもなんとか未来を見通せるのではないかと思ったのは、『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリが一種のビジネス書として著した 『21 Lessons』 (河出書房新社)。21世紀の人類のための21の思考と題され、確実性を失っていく時代にどう生きていくかが示されていて、長い目で見て方向性が見えてきます。

「不確実性に満ちた時代のなかで、未来を見通せる本です」<
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 生き方の指針になると思うし、私自身にとって大変興味深かった。しかも最後のほうに、我々がやったほうがいいこととして、仏教の瞑想(めいそう)が出てきます。面白いでしょ。ぜひとも皆様におすすめしたいです。

荒木 僕の人生を変えた本は、遠藤周作の 『沈黙』 (新潮文庫)ですね。親の本棚に入っていて、中学生の頃に読んだのですが、その時には全然意味が分からなかったんですよ。キリスト教に縁がなかったし、ストーリーもなぜこの人を許すのかとか全く分からなくて、いまだに読みます。

 自分が経験を経ていくと、なんとなく分かってくるというプロセスを僕はこの本と共に歩んでいる感覚があって、意味の分からない本を読むのは、自分の成長の伴走役になってくれる側面もあると思うんですよね。問いを明らかにしたいというモチベーションにもつながると感じています。

森本 最後に、ビジネスパーソンの方々にメッセージをお願いします。

常陸 日経BOOKプラスは月間約100本の記事を出しています。皆さんの「この1冊」を見つけていだけるように情報をお届けしていきますので、ぜひご覧ください。

宮崎 私は時々、読書が嫌いなんじゃないかと思うことがあるんですよ。じゃあ本を読むのをやめようかなと思うんだけど、やっぱり読んでしまうのは、自分に染みついて自分を培ったものがここにあるとしか思えないから。確かにウェブサイトやSNSやYouTube、テレビやラジオも重要だけど、私にとっては読書によって培われた自分がとても貴重で、軽んじることができないとしか言いようがない。仕事をしていく上でも、きっと読んだ人のためになると思うので、いい読書経験を積み重ねていきましょう。

荒木 読書が嫌いな人の話を聞くと、本はこう読むべきみたいな「べき論」に支配されちゃっている人が多いんですよね。そんなのは全て捨てて、みんな自分が好きなように文字と接して、想像を膨らませるといういい経験をしていくことが大事じゃないかな。自分なりの付き合い方で楽しんでもらえればと思います。

構成/佐々木恵美

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