経済学をビジネスに結びつけ、問題解決することを目指し、会社を共同で興した今井誠氏。彼は、経済学者たちとともに立ち上げた会社で唯一事業会社出身者として、企業の課題に向き合っています。そんな今井氏が、仕事をする人にとって役立つ、経済・経営学の書籍を5冊セレクトしました。前編の今日はビジネスだけでなく、人生にも役立つ本を紹介します。

 ビジネスに経済学を取り入れれば、「直感」「場当たり的」「根性論」から抜け出し、成果が出せる──そう信じて、私は2018年から「経済学×ビジネス」を考えるワークショップ「オークション・ラボ」を主催してきました。これは、研究者とビジネスパーソンが交流できる場として、無料で行ってきましたが、20年にはさらなる経済学のビジネス実装に挑むべく、3人の経済学者とともに(株)エコノミクスデザインを創業しました。

 今回はビジネスパーソンのみなさんに役立つ、「経済学とビジネスに生かす5冊」を紹介したいと思います。

経済学をビジネスに結びつけることで優位に

 私自身が経済学とビジネスのつながりを感じたきっかけは、(株)デューデリ&ディールでの不動産オークションに携わったときでした。

 不動産というものは、ある物件をどの不動産業者が扱おうと、その不動産の価値は変わりません。極論を言えば、どの不動産業者が扱っても結果は本来は同じはずです。しかし、顧客は無名の不動産ベンチャーと大手不動産会社のどちらに相談するかというと、大手不動産会社に依頼をする。大手不動産会社にはブランド力、組織力があり、なんとなく安心して依頼できるという雰囲気がありました。そこで、勝ち筋は何かと考えると、私たちの武器である「不動産オークション」の再設計による精緻化しかありませんでした。そこから経済学の分野であるオークション理論を学び、「経済学はビジネスに不可欠だ」と思うにいたりました。

 当時の私に必要だったオークション理論をはじめ、経済学の中には行動経済学など、ビジネスに直結する分野がたくさんあります。そして、せっかくなら研究された学問を実際のビジネスと結びつけ、世に送り出していったほうがいいという思いで活動していました。

経営学を取り入れれば、人生も変えられる?

 1冊目に紹介するのは山口周さんの 『人生の経営戦略─自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』(山口周/ダイヤモンド社) です。

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 「経営戦略」というと企業のものと思いがちですが、実は最も必要なのは「自分自身」かもしれません。この本では、「そもそも生きている意味が分からない」「仕事で失敗するのが怖い」「仕事ばかりしていてプライベートが悲惨」といった悩みに対して、「経営戦略」のコンセプトから解決策を示しています。

 私が「なるほど」と思ったのは、「自分ならではの組み合わせをつくる」という「ブルー・オーシャン戦略」です。これまでの時代は何か1つ自分の強みを見つけ、専門性を磨くという経営戦略で乗り切れました。しかし、これからの時代はさらにAIが進化し、10年後、20年後の仕事が様変わりするでしょう。そうなると1つの専門分野だけでは頼りなく、2つ、3つと自分の強みを掛け合わせていく必要があります。今まで学んできたことに新たな知識を掛け合わせたり、まったく異なるジャンルのものを掛け合わせたりして、自分のオリジナリティーを出していかなくてはいけません。

 特に20~30代の若手の人ほど、今の仕事の延長線上にキャリアが築けるとは限りませんから、自分の人生を思い描くために読んでほしいですね。企業の経営戦略も自分事として捉えると分かりやすいですし、読むことで経営学の勉強にもなる1冊です。

1冊は読んでおきたい行動経済学の大家

 2冊目に紹介するのは 『NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?上下巻』(ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー、キャス・R・サンスティーン著、村井章子訳/早川書房、リンクは上巻) です。

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 カーネマンといえば行動経済学の創始者として知られ、 『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?上下巻』 も有名ですが、こちらのほうがさらに進んだ内容だと感じました。

 今や行動経済学は、GoogleやAmazonなど世界的企業が経営戦略に取り入れている学問です。人は何か意志決定をする際、「不合理な選択」をしてしまいがちです。こういった行動は、従来の経済学では説明できなかったのですが、それを明らかにしたのが、行動経済学です。

 この本から例をいくつか紹介しましょう。

  • 採用試験で採用時の評価がAさんのほうがBさんより優れていたとしても、数年後の評価でAさんがBさんを上回る確率は55%にすぎない。
  • 保険料の見積もりでは、ある保険会社が2人の専門職に個別の見積もりを依頼し、2人の金額の差がどれくらいあるかを調査したところ、55%もの開きがあった。
  • ある裁判では、前科のない2人が偽造小切手を現金化し、有罪になった。詐取した金額は1人が58.40ドル、もう1人は35.20ドルだった。しかし、科された量刑は前者が懲役15年、後者が30日だった。

 なぜ、こうしたことが起きるのかというと、誰しもノイズ(判断のばらつき)やバイアス(認知の偏り)に影響されてしまうからです。この本では数多くの事例が取り上げられ、自らが意志決定する際にも役立ちます。今はさまざまな行動経済学の本が出ていますが、読むのであれば、創始者であるカーネマンの本を選べば間違いないでしょう。

 次回は続く3冊についてお話しします。

不合理な選択について考えるとき、カーネマンの書籍が役に立つ
不合理な選択について考えるとき、カーネマンの書籍が役に立つ
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(後編に続く)

取材・文/三浦香代子 構成/細谷和彦(日経BOOKプラス編集) 写真/小野さやか