経済学をビジネスに結びつけ、問題解決することを目指し、会社を共同で興した今井誠氏。彼は、経済学者たちとともに立ち上げた会社で唯一事業会社出身者として、企業の課題に向き合っています。そんな今井氏が、仕事をする人にとって役立つ、経済・経営学の書籍を5冊セレクトしました。後編の今日は「気合い」と「根性」から脱するための良書を紹介します。

 前回は経済学をビジネスに取り入れるための2冊についてお話ししました。今回は続く3冊を紹介したいと思います。

破壊的イノベーションを起こすことで勝機が見える

 3冊目に紹介するのは 『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』(クレイトン・クリステンセン著、玉田俊平太監修、伊豆原弓訳/翔泳社) です。

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 もともとの出版は2000年なので25年も前ですが、ビジネスのエッセンスが凝縮されているので、今読んでも役立つ部分が大きいと思います。この本ではある企業が技術的革新を行ったとしても、違う技術を使った企業による「破壊的イノベーション」が起きると、その企業は市場から淘汰されてしまう。破壊的イノベーションに対応するには、どういった組織づくりをすべきか、といったことが書かれています。

 みなさんも仕事をしていると「イノベーションのジレンマ」を感じることが多いのではないでしょうか。私が最初に感じたのは新卒で入社した金融機関から不動産のベンチャー企業に転職したときでした。2社目では「不動産の取引手法を変えたい」という思いがあり、まだ黎明(れいめい)期だった不動産オークションに携わりました。しかし、不動産オークションというイノベーションに関わったとしても、それが世の中に浸透するにつれて、その手法がしだいに古くなってしまう。イノベーションというのはずっと同じ形で存続しないのだと思い知りました。

 現在、私が代表取締役を務める(株)エコノミクスデザインでは経済学の知見をビジネスに生かすためのコンサルティングを行っています。企業の担当者と話すと「市場を拡大したい」「売り上げを伸ばしたい」という要望があるのですが、残念ながら日本市場が爆発的に成長することは難しい。市場自体が成熟し、経済が停滞している。少子化が進み、人口が減っていく中で、シェアを右肩上がりにするのは簡単ではありません。ただし、打つ手がないわけではなく、やはりそこに必要なのは「破壊的イノベーション」です。

 一昔前は車やPCなどハード面、有形資産に関わるビジネスが主流でしたが、今後はソフト面、無形資産の分野で破壊的イノベーションが起こせれば十分に勝機はあるはずです。そして、そのヒントを得るためにも、いま一度、イノベーションの原点であるこの本を読み返してみるといいと思います。

本当に経済学はビジネスに役立つ?

 4冊目に紹介するのは 『そのビジネス、経済学でスケールできます』(ジョン・A・リスト著、高遠裕子訳/東洋経済新報社) です。

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 この本はまさに私の仕事を体現しているかのようなタイトルです。著者のジョン・A・リストはUberのチーフエコノミストを務めた経済学者。スケールアップ(規模拡大)できるアイデアと、小さくしぼんでしまうアイデアの違いについて書かれています。例えば、なぜ、人気シェフのジェイミー・オリヴァーのレストランチェーンは失敗したのか。ドミニカ共和国が税収を1億ドルも増やせた秘策は何か、といった具体例が紹介されていて、読み応えがありました。

 また、個人的に興味深かったのは、米国での行動経済学者の企業への関わり方です。米国ではUberにしろ、Googleにしろ、行動経済学者が1社とがっつりタッグを組み、企業の中に深く入り込んで経営戦略を立てます。この本で米国での状況を知ると、実際に企業が成長するためにはどんな関わり方があるのか、ヒントになると思います。

 一方、日本では東京大学が出資しているコンサルティング会社・UTEconが代表例ですが、プロダクトごとに企業と連携するケースが多いようです。

ビジネス課題は「直感」と「根性」よりも経済学で解決できる

 最後は私も執筆者に名を連ねた 『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。 仕事の「直感」「場当たり的」「劣化コピー」「根性論」を終わらせる』 です。

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 ビジネスパーソンのみなさんは、毎日のように何かしらの課題にぶつかっていることでしょう。そんなとき「以前はこの方法で成功したから」「とりあえずやってみよう」、最後は「気合いで頑張ります!」といった方法で解決しようとしていませんか。しかし、実はその課題は経済学では「解決済み」なのかもしれません。一方、経済学も「研究」をとことん深めていくよりも、実際のビジネスで使われてこそ意味があります。

 そこで、この本ではなぜ経済学がビジネスに役立つのかをはじめ、「お金をかけずにマーケティングするには」「経験と勘ではなく、理論とデータで販促と宣伝を行うには」にまつわる実例や、経済学の初心者でも結果を出せる4つのツールなどを紹介しています。

 私は企業へのコンサルティングを行う中でも、「気合いと根性」で仕事を進めているところは意外に多いと感じています。解決策をアドバイスした際、「目から鱗です」「今まで気づかなかったことに気づきました」と言われると、経済学の研究を使うことで解決策が見つかったことに対し、自分にとってもクライアントにとっても幸せなことだと実感します。

 経済学だけを学ぶのであれば専門書もたくさんありますが、「この経済学は自分のビジネスに使えるかも」という視点を持つために、この本を活用してもらえればうれしい限りです。

 ぜひ、眠れる学知をビジネスに貪欲に生かすために役立ててください。

経済学をどんどんビジネス現場で使ってほしいと思います
経済学をどんどんビジネス現場で使ってほしいと思います
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取材・文/三浦香代子 構成/細谷和彦(日経BOOKプラス編集) 写真/小野さやか