秋といえば、読書です。本は読みたいと思っているけれど、本が多すぎて選べないという声をよく聞きます。そこで、「日経の本」の作り手である書籍編集者が30人以上も所属する日経BOOKSユニット第1編集部を率いる赤木部長に、秋の読書に全力でお薦めしたい同僚が作った本を聞きました。
中川ヒロミ(以下、中川):暑い夏から涼しい秋になり、がぜん本を読みたくなってきました。まさに読書の秋ですね。赤木さんが率いる第1編集部でも面白そうな本が続々発売されていて、読むのが追い付かないくらいです。
赤木裕介(以下、赤木):部員から新刊を1冊ずつもらえることになっているんですが、本当に面白い本がたくさんあるんですよ。部長になってよかったと思う数少ない特権の一つですね(笑)。できればここで全部取り上げたいくらいなんですが、さすがにそんな長大な記事は誰も読んでくれないでしょうから、厳選して皆さんにご紹介していきたいと思います。
中川:部長になってよかったこと、よくなかったことをじっくり聞きたいところですが、秋にお薦めの本をぜひ教えてもらえますか。今、読んでおきたいテーマは何でしょうか。

赤木:まず「これから先のテクノロジーと世界をのぞいてみる」です。2023年の出生数が80万人割れの昨年をさらに下回るペース、なんていうニュースが話題になるなど、日本にとって暗い未来を予感させる出来事が続いています。若い人たちの間にも、将来についての閉塞感が漂っているような話も耳にします。今回紹介する『 2050年の世界 見えない未来の考え方 』は、英経済紙のコメンテーター、ヘイミシュ・マクレイ氏が、30年後の日本と世界について、とても前向きなシナリオを描いています。これから活躍する若い世代にこそ、ぜひ読んでほしい本です。けんすう(古川健介)さんも「ここ数年で読んだ『未来予測系』の本で一番おもしろかった」と絶賛してくださっています。

中川:『2050年の世界』は400ページを超える分厚い本ですが、中国、イタリア、オーストラリアといった国ごとに気になったところから読めました。全部順番に読まなきゃと思うと厚い本は気が重くなりますが、この本はトーンも穏やかですし、とても読みやすかったです。
未来を知るという意味では、『 日経テクノロジー展望2024 世界を変える100の技術 』も、お薦めですよね。『100の技術』には毎年バラエティー豊かな技術が紹介されていますが、今年もサメ肌を模した飛行機の機体とか、体内の細胞を使うエイジング治療「エクソソーム治療」など初めて読む面白い技術にワクワクしました。


一歩先を読むためのテクノロジーの必読書
赤木:テクノロジー関連の面白い本もたくさんあるんですよ。昨今話題の半導体、そして謎に包まれた世界ナンバーワン企業のTSMCについて描いた『 半導体ビジネスの覇者 TSMCはなぜ世界一になれたのか? 』をご紹介しましょう。少し前まで、半導体不足でスマホがなかなか買えない、という話をしょっちゅう耳にしました。知り合いからは、クルマを買ったのに半導体が入らなくて納車されない、という愚痴を聞いたこともあります。これだけ我々の生活に入り込んでいる半導体、そしてその中で世界ナンバーワンに急成長した台湾のTSMCについて詳しく描いたのが本書です。
なかなかその内幕が表に出てくることのないTSMCですが、「台湾の守り神」と称される存在にまでどうやってのぼり詰めたのか、その秘密を創業者のモリス・チャン氏のエピソードとともに紐解(ひもと)いていきます。他の半導体企業と比べてどこに優位性があるのか、カリスマ創業者が去った後もなぜ強さを維持できるのか、という客観的な視点も加えて、さまざまな角度から解説しています。一歩先の世界を読むために、欠かせない一冊です。

中川:テクノロジーを巡るビジネスといえば、これまた大著の『The Power Law(ザ・パワー・ロー) ベンチャーキャピタルが変える世界』もすごく面白かったです。新しい話は 下巻 の方が多いのですが、私は 上巻 で描かれているソフトバンクの孫正義氏がヤフーに出資する場面がお薦めです。シリコンバレーでトップのベンチャーキャピタル、セコイア・キャピタルのマイケル・モリッツと渡り合う様子はドラマです。
赤木:20歳のマーク・ザッカーバーグが、セコイアとの面会にわざと寝坊したふりをして、パジャマ姿で現れて挑発する話も、面白いですよね(「フェイスブックのザッカーバーグ、パジャマ姿で遅刻して登場」)。ロックスターの伝記を読んでいるようなライブ感がたまりません。


自分の足元を見つめ直すときに役立つ本
赤木:ここまで未来予測やテクノロジーのビジネス書を紹介してきましたが、続いて自分の足元のこと、働くことや生きることについて考える本をお薦めしましょう。まずは、『 「こころ」がわかる哲学 』と『 人間として最良のこと as a person 』の2冊です。
このところChatGPTをはじめAI(人工知能)が改めて話題になっていますが、AIがどんどん進化すると「こころ」を持つようになるのでしょうか。そもそも「こころ」ってなんでしょうか。「こころ」とは何か、という問いには、2000年以上前の古代ギリシャの時代から、多くの哲学者たちが挑んできました。『「こころ」がわかる哲学』は、そんな「こころ」についての説を紹介しながら、「人と人は分かり合えるのか」「なぜ妬みの感情が生まれるのか」といった身近な疑問についても考えるヒントを与えてくれます。
ちなみにAIについていうと、「コンピューターはどんなに進化しても、しょせんは道具」という主張もあれば、「サーモスタットにだって信念はある」という考え方もあったりして、とても興味深いです。

続いて、韓国で60万部も売れたベストセラー『人間として最良のこと』です。精神分析医のキム・ヘナム氏が、大人になるとはどういうことか、豊かな生き方とはどういうものか、という人生にとって大切なことを、柔らかいトーンで諭してくれます。若手はもちろん、50歳を超えてもいまひとつ大人になりきれていない、私のような人間にも役に立ちます。「大人になるとは『つまらない大人になった』自分を受け入れること」なんて、本当にそうだな、と読みながら深くうなずいてしまいました。

中川:9割礼儀正しくて、たまにブラックなことを言う赤木さんは面白い大人だと思いますけれどね(笑)。生き方は年を取っても考えさせられます。『人間として最良のこと』からの抜粋記事「幼少期の記憶がない人は、その頃つらかったからかもしれない」を読むと、本人が気づいていないことが人間の行動を左右しているんだなと感じます。
『 子どもとの関係が変わる自分の親に読んでほしかった本 』にも、子どもとの関係に悩む親たちに、実は親自身の子ども時代の経験が影響しているという話が登場します。世界で200万部以上売れているベストセラーであり、子育ての悩みは世界共通なんだなあと感じました。子育てに悩みを感じると、自分を責めてしまう親は多いと思うのですが、私は私だけのせいじゃないと気が楽にもなり(笑)、そういう意味でもお薦めです。
赤木:そうですね。「服を着せ、食事をさせ、風呂に入れ、寝かしつけるだけで毎日不毛なバトルが起こる」なんて、世界共通の家庭の風景なんだな、と思いました。

嫌な仕事を角を立てずに断るには
赤木:最後に、働き方の良書を2冊お薦めします。1冊目は、『 それでも、「普通の会社員」はいちばん強い 40歳からのキャリアをどう生きるか 』です。これからの社会では会社に頼るのではなく、自分の強みを磨いて生きていけ、という話をよく聞きます。なんなら突出したスキルがあれば、サラリーマンなんかになるのは時間のムダ、という主張もあります。
ところが、この本の著者である人事コンサルタントの新井健一さんは、普通の会社で若手の頃に教えてくれる人としての振る舞い方やマナー、一見無駄に思える資料の作成技術などのごく当たり前の社会人基礎力がなければ、いずれ行き詰まってしまうよ、と語ります。実はAI時代こそ、企業で社会人をやっていれば自然と身に付くような基本スキルがないとまずいんです。
こうしたスキルをベースにしつつ、自分のやりたいことや生きがいが感じられることを柔軟に取り入れていく「ふにゃふにゃしたキャリア」を目指そう、と本書は教えてくれます。自分の生き方にちょっと自信をなくしているビジネスパーソン、必読の一冊です。

中川:本書の抜粋記事「迫る人生130年時代 人生充実のカギは仕事と○○活動」を読むと、やっぱり楽しく生きるのが一番だなと思います。
2015年に発刊、2018年に文庫化した『 最後はなぜかうまくいくイタリア人 』が今年急に売れているのも、楽しく生きたいと思う日本人が増えているからかなあと思います。私は今年の夏に久々にイタリアに旅行に行きましたが、電車が遅れようがあまり気にしない、地下鉄が毎日21時過ぎに止まっても文句も言わない、でもおいしいものにはこだわって楽しんでいる様子が素敵(すてき)でした。


赤木:仕事でも楽しいことばかりしたいところですが、嫌な仕事ってありますよね。そんな時にお薦めなのが2冊目の『 嫌な仕事のうまい断り方 』です。
コツコツ真面目に取り組むのはとても大切なことですが、できれば面倒な仕事は避けたいもの。でも、むげに断って空気の読めないヤツだって思われるのも困るな、という方にぴったりなのが本書です。角を立てずにできない理由を伝える。さらに、「そもそも嫌な仕事を振られなくて済む」ための方法まで書かれていて、とても役に立ちます。本書の帯にある「『いい人』だけでは詰む。」というキャッチコピー、身に覚えのある人は多いんじゃないですかね。

中川:この本は企画会議に出た時から、熱望していました。私も嫌な仕事をエレガントに断りたいですが、角が立ってエレガントにはできません(笑)。その点、赤木さんは冷静でいつもエレガントですよね。
赤木:おじさんが落ち着いて見えるのは元気がないだけです、というリリー・フランキーさんの名言がありましたが(笑)、私もそうなんじゃないかな、という気がしています。今日ご紹介した本を自分でももう1回読んで、改めて心のエネルギーを蓄えたいと思います。
