MBAは、社会人を対象にビジネス社会の中核となる人材の育成を目的にプログラムが組まれている。経営戦略、マーケティング、会計、ロジカルシンキング、データ分析など実務に直結するスキルも多く、ビジネスパーソンの関心も高い。「MBAの課題図書」シリーズ第2弾として、神戸大学MBAで入学前に読む本を紹介する。カリキュラムの体系化、高度化が進む中、入学前にどんな本を学生たちに推薦しているのか、神戸大学大学院経営学研究科教授・栗木契さんに聞いた。

栗木 契(くりき・けい)
神戸大学大学院経営学研究科教授
1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。『エフェクチュアル・シフト:不確実性に企業家的機会を見いだすマーケティングの探求』(千倉書房)で「日本マーケティング本大賞2025」(日本マーケティング学会)を受賞

3つの柱を持ち1年半で完結するカリキュラム

 神戸大学は、1949年に日本最初の経営学部が設置され、1989年に国立大学で初めてMBAプログラムを設置しました。

 「神戸方式」と呼ばれる神戸大学MBAのプログラムは、3つのコンセプトで構成されています。「プロジェクト方式」「働きながら学ぶ」「研究に基礎をおく教育(Research-Based Education)」の3つです。

 「プロジェクト方式」は、昨今は他大学でも採用が増えていますが、神戸大学MBAでは開設時より産業界から要望が多いその時々の経営課題について、社会人学生のチームが知恵を出し合いながら解決策を探り、提言していくアクティブラーニングを積極的に採用してきました。神戸大学MBAでは1年目の前半で最初のプロジェクトに取り組み、後半でチームによる2つ目のプロジェクトを実施します。そして最後の2年次に個人で修士論文に取り組み、自分で見いだした課題に対し事例を掘り起こしデータを集めながら、会社や社会に意味ある提言を行う。合計3つのプロジェクトを通じて、段階的に自立性を高めていく設計になっています。

 そして2つ目の柱として神戸大学MBAでは「働きながら学ぶ」ことができるように、社会人学生が1年半で取得可能なカリキュラムを組んでいます。キャリアを中断することなく、仕事を続けながら学べるよう、土曜日は朝から晩まで講義を提供し、夏休みはなく1年52週のうちほぼ50週を使う濃密なスケジュールです。金曜など平日の夜には、専門科目をオンラインで提供しています。これによって通学は土曜日だけで済むため、大阪や神戸だけでなく、京都などから通学する学生も多いですし、東京、広島、四国、九州からやって来る人もいます。

 MBAで学ぶ学生の中には小さな子どもがいる年齢の人も少なくありません。神戸大学ではシッターサービスを提供し、預かり保育を利用できる体制を整えています。さらに、近年は家族の参観日も開催しています。子どもたちが父親や母親が学んでいる姿を見に来る「逆参観日」は好評で、現在ではさらに「こどもMBA」を開設し、地域の子育て世帯に体験型の教育プログラムを提供するようになっています。

 3つ目の柱は「研究に基礎をおく教育」です。社会人同士が経験に基づいた知見を交換することは確かに価値があります。しかし、それだけであれば、企業の社内研修や産業界での交流でも可能です。大学で学ぶことの意味は、最新の経営理論に触れ、経営学が培ってきた理論体系としっかり向き合えることにあります。神戸大学MBAが研究に根差す学びを重視しているのはそのためです。

全ての学生が最初の一歩から走り出せるように

 この1年半という神戸大学MBAでの学びの期間を有効に使い、いち早く濃厚な学習に入ることができるようにしたいと考え、出版したのが、『 プレMBAの知的武装 』(神戸大学専門職大学院[MBA]編、中央経済社)です。MBAでは、前提としてケーススタディーへの取り組み方、財務諸表の読み方、統計学的なデータの見方、レポートの書き方などの基本的なスキルが求められます。

『プレMBAの知的武装』(神戸大学専門職大学院[MBA]編、中央経済社)/画像クリックでAmazonページへ
『プレMBAの知的武装』(神戸大学専門職大学院[MBA]編、中央経済社)/画像クリックでAmazonページへ

 学生のみなさんは、所属する企業や部署、これまでの職歴になどによって、それぞれの分野についての知識量が違います。優秀な方たちですから入学から1、2カ月でキャッチアップできるのですが、それまでの時間が惜しい。時間のロスを防ぎ、事前に準備できる本を読んでの学びを活用していただくことで、いいスタートを切っていただきたい。それが本書の最大の狙いです。

 『プレMBAの知的武装』は、神戸大学MBAの教授陣が、入学に先立つMBA学生の事前学習のために執筆した本です。入学してくる学生たちが、高度な学びに戸惑うことなく、入学直後から全力疾走できるよう、MBAの教室で使う知識や思考方法をコンパクトに学べるようにしたいとの思いで執筆しています。

 本書の第Ⅰ部では、「いかに学ぶか」と題して、MBAでの学びでは理論やデータをどのように活用していけばよいかの方法を提示しています。第Ⅱ部では、「何を学ぶか」と題して、経営学の9つの主要領域を取り上げ、各領域の理論を鳥瞰(ちょうかん)しています。事前学習は必要ですが、そのために10冊も20冊の本を読まなければならないのは負荷が高い。MBA入学の備えとなる知的武装を1冊で提供しようというのがこの本です。

MBAでの学びや体験を生の声で知る

 『プレMBAの知的武装』の出版は、神戸大学MBA創立30周年記念事業の一環として、OBたちからの寄付を活用することで実現したものです。さらに、神戸大学MBAでの学びの全体像を知るには、創立25周年記念で出版された『 人生を変えるMBA 』(神戸大学専門職大学院[MBA]編、有斐閣)が最適だと思います。この本は神戸大学MBAに入学した人たちは、何を得て、何を体験していくのか、教員がどんな学びを提供しているのかを紹介しています。

『人生を変えるMBA』(神戸大学専門職大学院[MBA]編、有斐閣)/画像クリックでAmazonページへ。リンクはKindle版
『人生を変えるMBA』(神戸大学専門職大学院[MBA]編、有斐閣)/画像クリックでAmazonページへ。リンクはKindle版

 『プレMBAの知的武装』が知識や方法の習得に焦点を当てているのに対し、こちらは、体験や学びの質に焦点を当てています。両方を読むことで、神戸大学MBAの全体像が立体的に理解できるはずです。

 神戸大学MBAの毎年の学生アンケートでは、「入学前には期待していなかったが、卒業時に最も価値を感じたもの」として、「良い仲間と出会えた、良いネットワークができた」という回答が常に上位にあがります。仕事に役立つ知識や分析能力など以上に、人とのつながりが最大の収穫だと感じている学生が多いのです。これは昔から変わらないポイントであり、プロジェクトを一緒にやることで生まれる絆や、卒業生と在学生のつながり、ネットワークの強さは神戸大学MBAの大きな特徴の一つです。

取材・文/中城邦子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/松田弘