MBAでの学びは、入学する前から始まっている。「神戸大学MBA入学前に読む本」後編ではMBAに必要な知識や学びの方法を知り、さらに理解を深めたい人のための本について、神戸大学大学院経営学研究科教授の栗木契さんに聞いた。

栗木 契(くりき・けい)
神戸大学大学院経営学研究科教授
1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。『エフェクチュアル・シフト:不確実性に企業家的機会を見いだすマーケティングの探求』(千倉書房)で「日本マーケティング本大賞2025」(日本マーケティング学会)を受賞

ビッグデータの時代に因果関係を読み解く

 MBA入学者に限らずビジネスパーソンにとって、MBAでは何を学ぶのか、そのベースとなる知識や思考方法はどのようなものがあるのかを知っておくことは、日々のビジネスにも有用です。企業の現場でもデータ分析は当たり前のこと。デジタル時代になり、データの入手が極めて容易になりました。エクセルでも基本的な統計分析はできます。しかし重要なのは、その結果を的確に読み解くことができるかです。

 MBAの教室では、経営に関わるさまざまなデータから、因果関係を読み解くことが必要です。そこでのデータの読み方の基本については、前回紹介した『 プレMBAの知的武装 』第4章で解説していますが、その先をさらに学びたい人は、『 データ分析の力 因果関係に迫る思考法 』(伊藤公一朗著、光文社新書)を読んでほしいと思います。

『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(伊藤公一朗著、光文社新書)/画像クリックでAmazonページへ
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 例えば、「このデータは、どのアクションが売り上げ増に効くことを示しているか」を読み解くためには、各種のデータ分析の結果を踏まえて、そこに働いていた因果関係を解釈することが必要です。さらにデータの収集方法のデザインも重要です。本書は豊富な具体例の下、データを踏まえてビジネスや社会に関わる因果関係を見極めていくための思考方法を教えてくれます。
 本書を読むことで、データ分析によって世の中のこういった現象が分かる、あるいは読み違いを防ぐことができるというイメージをしっかり持つことができるようになります。具体例も多く、読みやすく書かれた一冊です。

体系的に読み解き財務諸表を利用する人になる

 財務分析の分野では、『 財務諸表分析・第9版 』(桜井久勝著、中央経済社)が定評あるテキストとして挙げられます。

『財務諸表分析・第9版』(桜井久勝著、中央経済社)/画像クリックでAmazonページへ
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 企業経営の成績表ともいえるのが、財務諸表です。経営の良しあしを論じるには、財務データを体系的に読み解くことが欠かせません。MBAでは、さまざまな授業で財務諸表を読む必要に直面することになります。

 しかし、ビジネスパーソンの中には、会計に苦手意識を持つ人も少なくありません。神戸大学MBAでも、入学前のキャリアの中で会計との縁があまりなかったという人は少なくありません。そのような人は、まずは『プレMBAの知的武装』の第5章で財務諸表の骨格を押さえてほしいと思います。その上で、本書に目を通すことで財務諸表への理解を広げ、深めることができます。
 企業の中には、財務諸表をつくる人と利用する人がいますが、本書は財務諸表を利用する人に向けて書かれており、財務諸表の構成と読み方、そしてビジネス上の各種の意思決定に財務諸表を活用するための分析の方法を提示しています。「財務データを読むときに、参考書として手元に置いておきたい書籍」であり、この本で基本的な読み方を学ぶことによって、企業の財務状況を的確に把握できるようになるでしょう。

ビジネスモデルを網羅的に知る

 ビジネスモデルの構築については、井上達彦氏の『 ゼロからつくるビジネスモデル 』(東洋経済新報社)がお薦めです。

『ゼロからつくるビジネスモデル』(井上達彦著、東洋経済新報社)/画像クリックでAmazonページへ
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 MBAの授業では、実践的な企画や提言の発表やレポートを求められることが、しばしばあります。そこでは、データや財務諸表を読み解くだけではなく、その先に展開すべき新たなビジネスの仕組みを企画したり、既存の制度の改善を提言したりすることが求められます。この課題に備えてビジネスモデルの描き方をマスターしておくといいでしょう。

 ビジネスモデルの描き方は、1つではなく複数あります。ビジネスの企画や提言を行う際に示したい基本的な図式として、主なものを挙げると、(1)目標の実現を促す要因の組み立て、(2)オペレーションの流れ、(3)顧客とパートナーと自社が関わる主要な活動の3つがあります。この描くべき局面の違いに応じて、ビジネスモデルを描き分ける必要があります。

 『プレMBAの知的武装』の第8章で説明されているのは、この中の(1)に対応するビジネスモデルの描き方です。これは真っ先に描くべきビジネスモデルと考えられますが、発表やレポートを行き届いたものとするためには、(2)や(3)のビジネスモデルも用意する方がよいでしょう。
 本書の第3章~第4章を読み進んでいけば、この3つのビジネスモデルの描き方を、時間をかけずに学ぶことができます。その上で、さらに本書の他の章も読み進めていけば、ビジネスモデルを発想するための方法、プロセスの中でビジネスモデルの発展を導く方法などを、具体的な事例を踏まえながら学ぶことができます。本書はさまざまな類型を網羅的に紹介しているので、興味のある章を拾い読みするだけでも、入学後のプロジェクト研究に役立ちます。

説得力あるプレゼンのためのライティング作法

 MBAではレポートを作成することが非常に多いのですが、そこで必要な技術を、その背景にある論理を踏まえて学ぶことができるのが『 論理的思考とは何か 』(渡邉雅子著、岩波新書)です。

『論理的思考とは何か』(渡邉雅子著、岩波新書)/画像クリックでAmazonページへ
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 海外での情報発信に日本人が苦労するのは、語彙や文法を扱う語学力に加えて、論理的思考を巡る文化の違いがあるからです。英米の学校などで教えられているのは、パラグラフ・エッセイ、あるいは『プレMBAの知的武装』の第7章で紹介されているロジカル・ライティングという文章の書き方です。

 パラグラフ・エッセイやロジカル・ライティングでは、段落の最初に結論を述べ、続いて根拠を述べながら推論を展開していく文章の書き方が推奨されています。このような文章の書き方は、MBAでのレポート作成だけではなく、口頭発表などにも応用でき、実務においても説得力のあるプレゼンテーションにつながります。本書は、このパラグラフ・エッセイを、どのような目的に適した書き方かを踏まえて提示、説明しています。

 また、本書を読むことで、パラグラフ・エッセイが唯一最善の作文法というわけではなく、世界を見渡せば文化圏によって学校で教える文章の型は異なっていることが分かります。技術的なことだけではなく、作文法の違いの背景には、書くことの目的や、人間関係のつくり方の違いがあることに気付き、視野を広げることができるでしょう。

取材・文/中城邦子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/松田弘