これまでにないほど海外投資家から日本市場が注目されています。米国で40年余り、日米の両市場の投資家として活動してきたワイズマン廣田綾子氏の著書『海外投資家はなぜ、日本に投資するのか(日経プレミアシリーズ)』から抜粋、最も見るべきだという日本の創業者株について解説します。
創業者兼経営者に着目すべき三つのワケ
今、日本に注目している投資家のほとんどはバリュー投資の手法を取っています。市場が過小評価している企業銘柄を発掘することで収益を狙うバリュー投資にとって、最大の問題は、投資先の経営層自身が、企業の価値や市場の評価を引き上げるための行動を取ろうとしない「バリューの罠(わな)」に陥る可能性があることです。
このバリューの罠と格闘する中で、私が着目するようになったのが、創業者自身が経営する企業です。
私が、こうした企業に目を付けたのには三つの理由があります。まず一つ目に、彼らには株主と目線を合わせた経営が期待できるからです。
多くの大企業で経営の舵(かじ)取りを任されている雇われ社長たちは、古めかしいクローニー資本主義(縁故を基盤とする資本主義のこと)の組織文化に浸(つ)かりきっているので、株主の利益よりも自分や自分に近い人々の保身を優先しがちです。コングロマリット企業の雇われ経営者が、本業で赤字を出したときに言い訳をする「保険」をかけるために、コアビジネスと関連性のない部門を合理的な理由なく守り続け、結果的には企業全体の収益も株主利益もダメにしてしまうのです。
本来、経営者は「運命共同体」として株主と同じ目線に立って経営判断を下すことが求められます。経営者と株主の利害が食い違う利益相反が生じることは、コングロマリット形態を取る企業かどうかに限らず、株式市場において古くからある課題です。
アメリカなど各国で企業による開示ルールの強化が進められてきたのは、利益相反の問題を制度の力で克服する試みだと言えますが、最終的には、大切なお金を託す相手である経営者が本当に株主の利益を真摯に追求してくれるかどうか、投資家自身が入念に判断しなければいけないのです。
一人一人の経営者が本当に株主のために動いているか見極めることは、なかなか難しいものです。株主である投資家が目指しているのは、もちろん、投資から得られるリターンの実現です。このリターンは基本的に、企業がビジネスで獲得した収益を原資として株価上昇を通じて分配されるので、その意味では理屈上、企業の舵取り役を担う経営者と株主の目線は一致しているはずです。しかし、経営者たちが現実に置かれている立場は、良くも悪くも複雑です。特に雇われ社長のような経営者の場合、自分自身の保身や、身内の雇用を維持するよう求める外部からの圧力などによって、純粋な収益の追求という自らの役割を見失ってしまうケースが、残念ながら散見されます。
その点、自分が経営している会社の株主でもある創業者の場合には、当然ながら、他の株主と利害関係が一致しやすい立場にあります。自らが立ち上げ、手塩にかけて育て上げたコアビジネスに専念する真摯な姿勢だけでなく、いざというときには株主である自らの利益を守り、さらに拡大するため、事業ポートフォリオを果断に見直す決断力をも期待できます。
創業者だからこそのスピード感と責任感
二つ目の理由として、経営判断におけるスピードの速さが挙げられます。日本の大企業の多くは物事を合議制で決めていきます。民主的であるとか、一部の極端な意見で企業全体が振り回されるのを防ぐことができると言えば、多少聞こえはよいかもしれません。ただ、生き馬の目を抜く競争市場で勝ち抜くためには、合議制ではあまりにも時間が掛かりすぎるのも事実です。まして多角経営の企業では利害関係者が多岐にわたり、事業ポートフォリオの見直しに際して意見調整に膨大な時間と手間が費やされることになります。コングロマリット形態の脱却が遅々として進まない理由をよくよく調べてみたら、まさにコングロマリット形態下の合議制そのものが円滑な議論を阻害しているといった例は珍しくありません。
一方、創業者が経営のトップにいる場合には、実質的にその人物の一存で重要な物事を決定できるケースが多く、経営判断は桁違いにスピーディです。
ときどき、こういう反論が返ってくることがあります。「判断が速いこと自体は悪いことではないかもしれないが、誰も物申すことができない創業者兼経営者が暴走すれば、ビジネスが大失敗するリスクが大きいのではないか」と。
しかし、創業者兼経営者がしっかりとした現状把握力と判断力を持ち合わせていれば、失敗した事業からの撤退判断もスピーディに下すことができます。彼らは気楽なフリーハンドというわけではなく、経営判断の実質的な権限を掌握しているトップとして、自らが立案し、推進した計画が失敗に終わった際の責任を引き受けているのです。合議制と違って責任の所在が外部から見て明確であることも、投資家から見た、創業者がトップに就いている企業の魅力と言えるでしょう。
もちろん創業者兼経営者の中にも、自分の失敗を認めることができない、問題のある経営者もいないことはないでしょうが、投資先の経営者と直接面談し、過去の行動のデータを丁寧に精査すれば、経営センスのない経営者はすぐに見分けることができます。そこが、私たちプロの投資家の腕の見せ所(どころ)でもあるのです。
彼らに着目する三つ目の理由は、長期的な目線で経営判断をしている可能性が高いからです。創業者は、いずれ次の世代に会社を引き継がせたいと願っているケースが多く、短期的な収益を犠牲にしてでも、未来に投資するマインドがもともと備わっていると考えられます。
加えて、創業者がトップにいる企業群は、他の企業群に比べてROE(自己資本利益率)が高い傾向が見られますが、これも決して偶然ではありません。ビジネスを始めるときは当然、元手が必要ですが、日本では欧米に比べ、ベンチャーキャピタルのようなリスク資本が乏しく、新興企業はそもそも銀行融資を受けることが困難です。そこで往々にして彼らは、莫大な元手を必要としないサービス業を選択することになります。結局、固定資産を必要としないためマージン比率を高めやすく、効率的に収益を実現しやすいのだと考えられます。
こうした仮説をもとに私は、在籍しているホライゾン・キネティックス社で、アジア株のアナリストの小島詩子さんの協力を得て、独自のインデックスを立ち上げました。このインデックスは、創業者自身が経営し、しかも自社の株式を保有し続けている日本企業を抽出して投資します。
3900社ほどに上る日本の上場企業から、時価総額や流動性などの要素でふるいにかけた1600〜1800社程度の母集団のうち、創業者が経営層に在籍し、しかも自ら株式を保有していること、なおかつ創業者が法改正対応や税務上の合理的な理由なく自社の株式を手放していないことなどを条件に、最終的に140〜200社ほどに絞ります。インデックスのトラックレコード(運用実績)を見るとベンチマークを上回る収益を実現しており、私の仮説が正しかったことを証明できたと考えています。
ワイズマン廣田綾子(著)、日本経済新聞出版、1100円(税込み)、2025年5月10日発売



