人材獲得競争が激しくなり、新卒採用だけに頼っていては、優秀な人材を確保できない時代。ゆえに「戦略的かつ能動的な経験者採用」が必要と、この連載では論じてきた。ここで「中途採用」という言葉遣いに異議を唱えたい。このたび『世界標準の採用』を刊行した、小野壮彦氏が提言する。

「中途採用」には失礼な響きがある

 「外部から人材を獲得しよう」という主張を分かりやすく言い換えれば、「中途採用を強化しよう」ということになるのかもしれません。「新卒採用」の対義語として「中途採用」が使われるのは、長年の慣習であり、違和感を持つ方も少ないでしょう。

 しかし、よく考えてみると、「中途採用」という言葉はどこか失礼な響きを帯びていることに気づきませんか。

(写真:izzuan/stock.adobe.com)
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 『広辞苑』(第7版、2018年)によると、「中途」には「道のなかば。途中」といった意味があり、用例として「中途退学」が挙げられています。これではあまり前向きなイメージが湧きません。さらに「中途採用者」という言葉を引くと、「新規学校卒業者として採用された者以外の常用労働者」であるとされます。ここでの「以外」という言葉遣いからは、「外れ者」に近いニュアンスが感じられます。

 このような表現によって、外部から獲得した人材に対し、「正統ではない」「例外である」といった固定観念が形成され、それが引いては「忠誠心に欠ける」といったネガティブなイメージにつながり、多様な経験やスキルが正当に評価されにくくなっている可能性があります。

 近年では「中途採用」は「経験者採用」や「キャリア採用」といった表現に置き換えられつつありますが、気軽な日常会話などで、「中途社員」といった言葉が使われる場面はいまだ多いように思います。これはもはや、差別用語と見なすべきではないでしょうか。

 興味深いことに、英語には日本語の「中途採用」に直接当たる表現が見当たりません。

「中途採用」を、英語に訳したら?

 一般的には「experienced hire」(経験者採用)、「lateral hire」(横からの採用)、あるいは「external hire」(外部からの採用)と表現されますが、これらに「途中から」とか「例外的な」といったニュアンスは含まれていません。

 この違いには、文化的な背景や雇用慣行の違いが確実に影響しています。そもそも英語圏ではジョブ型雇用が主流であるのに対し、日本では長年、メンバーシップ型雇用が主流でした。

 ジョブ型であれば、採用における候補者は、学生であれ、社会人であれ、あくまで「担当する職務を果たせるかどうか」で評価されます。それに対して、メンバーシップ型の場合、「この組織の一員としてふさわしいか」という視点が、評価に入りやすくなります。

 そのため「途中から入ってきた人」を区別する発想も出てきたのでしょう。

 ここでも、プロスポーツの事例は示唆に富んでいます。

 たとえば、極めて人材の流動性が高いプロサッカーの現場では、「他のチーム(外部)から獲得した選手」を特別に表す言葉は存在しません(*)。

 今後はビジネス界においても、プロスポーツ同様、新卒から内部育成する人材と、外部から獲得した人材を必要以上に分けることなく評価するあり方が目指されるべきでしょう。

 やがて、「昔は新卒と中途で分けていた時期があった」とベテラン社員が懐かしむ日が来るのかもしれません。そうした未来が訪れることを強く願っています。

* 新人選手については、「高卒」「大卒」「アカデミー育ち」といった、入団経路を示す言葉はあるが、それらはポジティブでもネガティブでもなく、ニュートラルなコンテクストで用いられる。ちなみに、川崎フロンターレのサポーターはアカデミー育ちの選手を「風呂上がり」と呼ぶが、それはむしろ好意的な表現である。

日経ビジネス電子版 2025年5月28日付の記事を転載]

御社になぜ、優秀な人材が足りないのか? 今日の日本の人材難の背後には、米国企業が仕掛けたゲームチェンジがあり、乗り遅れた日本企業が今こそ実装すべきシステムと技術があります。世界のグローバルエリートを鑑定してきた著者が描く、逆転のシナリオ。大反響『人を選ぶ技術』著者、待望の第2作。ビジネスリーダー必読の「人材獲得の教科書」です。

小野壮彦著/日経BP/2970円(税込み)