盛り上がりを見せる経験者採用。日本でも「ビズリーチ」を筆頭にダイレクトリクルーティングが活発化している。米シリコンバレーから始まった、この採用革命の波に「日本企業も乗るべき」と、本連載では論じてきたが、新しい手法をどの程度、取り入れるべきかといえば、企業ごとに異なる。『世界標準の採用』の著者、小野壮彦氏が分析する。

経験者採用の費用対効果

 一方で、はっきりとさせておくべきことがあります。それは、本稿が推奨する新しい採用モデルを、「すべての企業」が「完全に」取り入れる必要はないという点です。

 たとえ採用革命の大波が日本全体に広がったとしても、個別の企業にもたらされる影響は、置かれた状況や戦略によって異なり、どの程度この波に乗るべきかにも差がありうるのです。

 そこで、まずは全体像を捉えつつ、ケース別に見ていきましょう。

 今日、大企業、中小企業を問わず、日本の企業で主流とされている採用モデルは、昭和の高度成長期に形成されたもので、主に次の3つの活動のミックスで成り立っています。

A. 人材調達の中心的な活動である「新卒採用
B. 新卒採用を補う「第二新卒採用
C. さらに補完的かつ限定的な「経験者採用

 本稿が提案するのは、これらA、B、Cを捨てることではありません。それに加えて、もう一つの柱を立てていくこと、すなわち、

D. 戦略的かつ能動的に取り組む「経験者採用

 の追加、となります。

「昭和型の維持」が合理的な企業とは?

 本格的な経験者採用の導入には、相応のリソースが必要です。そのため、採用の重要性がそれほど高くないと判断される企業などでは、費用対効果が見合わないケースもあるでしょう。

 たとえば、以下のようなケースが考えられます。

  • 国内市場に強固な収益基盤を持ち、海外企業との直接的な競争にさらされる機会が少ない大企業
  • 地域密着型ビジネスで、地域社会において確固たる地位を築いている中小企業

 こうした企業にとっては、昭和型の従来の採用モデルを維持することが合理的な選択肢となるかもしれません。ただし、今のこの時代において、どれほどの企業がそのような恵まれた状況にあるでしょうか。

 「D」の選択肢として示した経験者採用は、あらゆる企業に必須ではなく、自社の置かれた状況や戦略に応じて導入の必要性を柔軟に判断すべきものです。単純にゼロかイチかで判断することは、少し乱暴でしょう。この議論にはグラデーションが存在するからです。

 そこで、「経験者採用」機能の必要性を可視化してみました。次の図をご覧ください。

 横軸は、企業の規模や成長ステージの違いを表し、縦軸は、冨山和彦氏の論考(*) を基に、グローバル(G型)かローカル(L型)かという違いで分類しています。

 G型企業は世界市場を狙い、規模の経済を生かしてスケールを追求する企業群です。一方で、L型企業は国内や地域市場のニーズに特化し、スケールを追うというより、持続可能な成長を目指す企業群を指します。

* 冨山和彦(2014)『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』PHP新書

「楽天・メルカリ」と「サントリー・JT」の違い

 もし御社がG型企業であれば、経験者採用の必要性などを議論するまでもありません。世界で起きた採用革命への追従は、もはや待ったなしです。競合する海外企業に対して、すでに約10年の後れを取っているのです。今すぐ行動を起こさない理由は存在しないといえるでしょう。

 G型スタートアップとしては、楽天メルカリスマートニュースキャディといった企業が挙げられます。これらの企業は、すでにモデルシフトを完了させ、日本国内では最先端の取り組みを行っています。

 次に、G型中小企業について考えてみます。このカテゴリーには、特定分野で世界トップシェアを握るいわゆるグローバルニッチトップ企業が該当します。これらの企業を調べてゆくと、日本本社は昭和型の採用モデルを踏襲しつつ、海外支社での採用はまったく別のオペレーションでしのいでいる。ということが多く、必要性が高いわりには、進化はまだまだな企業が多いようです。逆に言えば、採用モデルを革新することで、業績面でも劇的なブレイクスルーを果たす可能性を秘めています。

 一方で、サントリーJTなどのG型大企業では、大規模な海外買収を契機に、本体でも経験者採用に積極的に取り組んでいるという先行事例がすでにあります。これらに追従する形で、モダンな採用システムを導入する企業が広がりつつありますが、現時点において、明確な成功事例は多くありません。

 いずれのタイプにおいても、G型企業群はその規模や成長ステージを問わず、グローバル市場で熾烈な人材獲得競争に直面しており、採用に限らず、マネジメントの難易度も日増しに高まっています。海外支社のみならず、日本本社においても採用革命への適応は必須だといえるでしょう。

 翻ってL型企業について考えてみましょう。

 L型企業にこれが必要かといえば、多くの場合、G型企業ほどの緊急性や重要性はないかもしれません。どれほどの必要性があるかを正確に判断するためには、自社の現状を緻密に把握、分析することが不可欠となります。また、費用対効果も検討しながら戦略的に考えてゆく必要があります。

 ここで注意すべきは、L型企業にも例外が存在する点です。

 特に、L型スタートアップの動向は注視すべきです。

 シリーズAの資金調達を終え、製品やサービスが完成し、売り上げが急激に伸びはじめるステージにあるスタートアップ企業では、L型であっても毎年のように組織規模が倍増するケースが少なくありません。このような企業にとっては、採用の高度化を進めることが必然となります。実際、国内市場を主戦場としながらも、「必要は発明の母」とばかりにTA(タレントアクイジション)モデルの実装によるヘッドハンティングを積極的に進めているL型スタートアップも存在します。

大手テレビ局からアベマに人材流出したように

 ここで考慮すべきは、こうしたスタートアップの動向が、同じくL型に分類される中小企業や大企業へも波及する可能性があるという点です。たとえば同じ業界でスタートアップが急成長し、業界内で存在感を高めていくと、そのスタートアップによるヘッドハンティングによって、国内人材の流動化が進みやすくなります。その結果、L型企業としてグローバルな人材獲得競争とは距離を置き、余裕を持っていたはずの企業が、自社の社員を引き抜かれたり、採用に苦労したりする事態が起こりうるのです。たとえば、大手テレビ局から「U‒NEXT(ユーネクスト)」や「ABEMA(アベマ)」へ人材が流出していったような例を想像していただければと思います。

 まとめますと、やはり置かれた状況によって変革の必要性には濃淡がありますが、採用革命がもたらす影響と完全に無関係な企業は限られているといえます。やはり現実的には多くの企業にとって、TAモデルの導入や、人材獲得競争への適切な対応は、避けられない課題だといえるのです。

(写真:Kiattisak/stock.adobe.com)
(写真:Kiattisak/stock.adobe.com)

日経ビジネス電子版 2025年5月21日付の記事を転載]

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