大人気ラジオ番組『安住紳一郎の日曜天国』(TBSラジオ)のアシスタントを務める、フリーアナウンサーの中澤有美子さん。癒やしになる笑い声や絶妙な相槌、時折入れる鋭いツッコミなど、番組には欠かせない存在になっています。その彼女の初の著書『 口下手で、大丈夫~2.4秒に1回頷く、最強傾聴力~ 』(ワニブックス)が3月19日に発売されました。プロフェッショナルとして傾聴の価値をどう捉え、スキルを磨いてこられたのでしょうか。最終回のテーマは、「読書愛」と、独特の読後感がクセになる本についてです。
1回目
中澤有美子 「日曜天国」名アシスタントの最強傾聴術 口下手で、大丈夫
2回目
中澤有美子 口下手な自分に自信をくれた、コミュニケーションの名著4冊
3回目
中澤有美子 「子育て過敏症」と呼ばれるほど迷っていた私を支えてくれた1冊
から読む
読書する時間をゼロにはしたくない
読書家を名乗れるほどではありませんが、もともと読書は好きなほうで、本とともに過ごす時間は多かったほうかもしれません。余暇として手に取るほか、何かの答えを求めているときや、現実逃避したいときなど。最近は、SNSや動画などのデジタルの誘惑に負けて、読書量が減っているような気もします。その自覚はありつつ、読書する時間をゼロにはしたくないと思っています。
SNSや動画には刺激が先行するものが多くて、心がザワつくことがあります。いっぽう、本はどんな衝撃作でも、自分のペースでゆっくりと心に入ってくる感じがします。読後に得られる満足感も大きい。また、SNSや動画は「時間を溶かしてしまった」と思うことがありますが、読書でそう思うことはまずありません。たとえ期待外れの内容だったとしても、違和感や引っかかりなど、何かしら残るものがあるからでしょうか。
紙の本の感触が好きで、すてきな装丁を見ると手に取らずにはいられませんが、最近はKindleで読むことが増えました。kindleだと暗いところでも読めて、寝る前でも読めるので。場所を取らず、収納の心配がないのも利点ですね。仕事の合間や移動時間にKindleを開いて読み、また閉じて、ということを繰り返しています。「積ん読」はあまりしません。基本的に読みたいと思って買うので、買ったらすぐ読むほうです。とはいえ、ビジネス書とかだと寝かせがちかもしれません。買って満足しがちというか、買っただけで内容が頭に入った気になるというか(笑)。
難解で読み応えのある分厚い本の場合、一気に読もうとすると挫折しやすいので、折に触れて開いて、気になった章や節を「今の自分のテーマ」として読んでいます。読書をしながら「はい、私は今回、これについて考えています」という感じで。そうやって、少しずつ読破していきます。
なぜか手放せない小説
新作が出たら絶対読む作家の筆頭は、桐野夏生さんです。人間の根源的な欲望を極限まで描いた「桐野文学」の金字塔と言われる『 グロテスク 』(文春文庫、書影とリンクは上巻)も、2003年の単行本の発売時にすぐ読みました。
社会人になってすぐのことで、学歴や容姿によるヒエラルキーや女性同士の残酷な比較、嫉妬、悪意、劣等感など、心理的にグロテスクな内容なのですが、目が離せなかったことを覚えています。人間の正気と狂気の境界はさほど確かなものではなく、気づかないうちにこんな闇の底まで沈んでしまうのか、という恐怖を感じました。
同様に、感情を揺さぶられて、体力を消耗するような読書体験として忘れられないのが角田光代さんの『 八日目の蟬 新装版 』(中公文庫)です。
主人公の女性は不倫の末に、不倫相手の子どもを誘拐し、逃亡生活を送りながら自分の子として愛情深く育てていました。しかしそんな生活が長く続くわけもなく、数年後、逮捕。娘と引き離されるとき放った言葉が「その子はまだ、朝ごはんを食べていないんです」。罪人だけど、この人は母親だったんだ。本当の親子ではないけど、本物の愛情は存在していたんだ……。そんなふうに感じられて、切なさややるせなさが一気に押し寄せました。
思うに、『グロテスク』も『八日目の蟬』もどちらもスッキリしない読後感が残る点が共通していますね。自分の日常生活とは無縁のストーリーだからこそ、小説の世界にトリップできる楽しさを感じます。
河﨑秋子さんの『 絞め殺しの樹 』(小学館文庫)も、息苦しくなるような余韻が残りました。親の顔を知らない主人公の女性は遠い親戚にもらわれて、ぼろ雑巾のようにこき使われ、本当につらい日々を過ごしました。それに耐え忍び、人の道を大きく踏み外すことなく静かに人生を閉じるんです。内面に抱えた欠乏感や執着心を思うと、どうしてそんなに控えめなの? もっと幸せに貪欲になればいいのに、と思わずにはいられませんでした。
好きな作家の本から、学びの世界が広がる
好きな作家として、三浦綾子さんを外すことはできません。三浦綾子さんの本はどれも大好きで、『細川ガラシャ夫人』や『塩苅峠』、『氷点』など。あるとき、まだ読んでないものはどれかな、と探していて見つけたのが、『 千利休とその妻たち 』(新潮文庫、書影とリンクは上巻)です。大学で茶道部に入っていたから目に留まった、というより「その妻たち」という点に引かれました。単数でなく複数って、どういうことよって(笑)。
先妻さんと後妻さんは全くタイプの違う人たちで、夫婦のマッチングというのはタイミングが大きく関係する気がしました。先妻も後妻もそれぞれの良さがあり、千利休がこれをしたい、あれをしたい、という思いをそのときどきで理解したからこそマッチしたのだろうな、と。ちなみに、三浦綾子さんはクリスチャンで、茶道にキリスト教との共通点を独自に見いだしているのが意外な発見で、興味深く読むことができました。
次世代にもおすすめの1冊
歳を重ねるごとに、日本人で良かったなと感じることが増えた気がします。総じて礼儀正しくて性格がよく、優しい。そうした日本人のルーツに触れられるのが、『 逝きし世の面影 』(渡辺京二著、平凡社)です。幕末や明治時代に来日した外国人の旅行記や滞在記に基づく内容で、異国の文化や技術が入る近代化以前の、日本人特有の素朴な暮らしぶりが浮かび上がります。
当時来日した外国人の目に、日本人は貧しくても親切で、朗らかでよく笑い、子どもがとても大切にされていてのびのびしている、と映ったようです。当時の西洋諸国は厳格な階級社会で、子どもの躾や規律も厳しかったようなので、異質で魅力的に思えたのでしょう。
もちろんカオスなところも書かれていて、いいとことばかりではありませんが、それを経て今があると思うと、自国のすごさを再認識することもできました。「日本人らしさ」を問い直しながら、改めて自分のアイデンティティーについて考えさせられる内容なので、若い皆さんにもぜひ読んでほしい1冊です。日本にもこんな時代があったのか、と時空を越えた旅行気分も味わえると思います。
取材・文/茅島奈緒深 構成/長野洋子、市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子






