スイスのトップビジネススクールIMD教授の一條和生さんと、TBWA HAKUHODOの細田高広さんがタッグを組んで執筆した『16歳からのリーダーシップ』。リーダーになりたいという若者が減っている今の時代に、なぜあえて「16歳」に向けたリーダーシップの本を書いたのでしょうか。日本の学校教育の現状や経営学の知見をふまえながら、本書を執筆した経緯を語ります。
日本の高校生は生き方について窮屈な捉え方をしている
日経BOOKプラス編集部(以下、――) まずは、この本の企画が生まれた経緯から教えてください。
一條和生氏(以下、一條氏) 僕は企業のコンサルティングや研修トレーニングをするかたわらで、約10年前から毎年、日本経済新聞社が主催する高校生向けキャリア教育支援イベント「日経エデュケーションチャレンジ」の校長先生役を務めています。そこで、彼らと将来の夢や就きたい仕事、それらをかなえるには大学でどんな勉強をしたらいいか、といったテーマでセッションを重ねているんですね。彼らと接して感じるのは、日本の高校生はみんな真面目で純真ということ。それはとても魅力的なことだけれど、生き方に関してはこうじゃないといけない、という窮屈な捉え方をしていて、そこから少しでもハズレたらダメだ、と思い込んでいる印象を受けるんです。
具体的にいうと、一流の大学、一流の会社に入ることが唯一の“正解”なんだ、と思い込んでしまっている。親や教師、世間に思い込まされているのかもしれませんが、本当はもっといろんな生き方があって、自分らしく、やりたいことを伸び伸びと実現していくのが生きるということのはず。現に、個としての生き方が問われるヨーロッパでは、自分がしたいことを第一に考えて、自分らしさを追求します。それをせずに自分は存在し得ない、というふうに考えるほどです。
そうやって「生き方は自分で選びとることができる」というのを、日本の高校生にも伝えたくて、いつか彼らの心に働きかけ、新たな視点と理解をもたらすような本を書きたい、と思うようになりました。そんな思いを、一橋大学の教え子の細田くんに会ったときに話したら共感してくれて、一緒に本を出版することになったのです。
細田高広氏(以下、細田氏) いつも、一條先生が勤務先のスイスから帰国されるタイミングでゼミ仲間が10~20人で集まっていて。本の話が出たときも楽しい宴席でしたね。
私は、クライアント企業の幹部候補生の育成に携わっていて、そこでは「もし社長に就任したらどんな指針やビジョンを打ち出すか」というテーマで作文をしてもらうんです。ところが、ほとんどの人が書けない。財務的なことは書けるんですけど、自分が社長になったらこうしたい、という主観ベースの「Will」は語れない。現・社長や会長の受け売りになってしまうんです。
「リーダーシップ」を知る機会を与えない日本の学校教育
細田氏 リーダーシップを見込まれた幹部候補生でもそうなってしまう現状を目の当たりにして、こうした傾向は、学校教育の影響も大きいのではないかと思いました。やらなきゃいけないことは分かるけど、やりたいことは考えても見つからない人ばかりという状況で、日本の未来はどうなってしまうのだろう、という問題意識も芽生えました。私も12歳の息子を育てる父親ですから、若い世代に向けて気づきを与える本を作りたい、という先生の意向に賛同したんです。
日本の学校では、リーダーシップについて教えていないのでしょうか?
一條氏 全然やっていないに等しいでしょう。日本の経営者教育の場で、「学校でリーダーシップについて学んだことはありますか?」 と聞いて「はい」と答える人は10%未満ではないかと。本当に数えるほどで、ほとんどの人はリーダーシップについて考える機会を持っていないと思います。
細田氏 その数字が日本の教育の現状だと思います。私は海外と日本のジョイントベンチャーに在籍し、ハーバード・ビジネススクールが参画するトレーニングプログラムに参加したことがあります。そのなかで、リーダーシップがテーマの回は、それぞれが、「自分が生きる意味や目的について考える」という内容でした。てっきりマネジメント理論などのセオリーを中心に教わるのかと思いきや、全く違ったんです。自分が人生で大切にしていることは何か、どんな仕事に就いて、どれぐらい稼げるようになりたいか、どういうところに住みたいか、結婚は? 家族ができたらどんな時間を過ごしたいと思っているのか、といったことをつまびらかにし、それらを実行するにはどうしたらいいか? ということを話し合っていくのです。リーダーには生き方が問われていることに気づかされる経験でした。
「リーダーに向いている人」はいない
一條氏 リーダーシップというのは、部下のマネジメントの仕方などのテクニック論よりも、どういうふうに生きたいか、ということに結構近いんですよね。なぜなら、自分らしく生きていないと、本当の意味でのリーダーシップは発揮できないから。
経営学の世界では、世界中の研究者たちがリーダーシップにとって何が重要なのかをずっと研究しています。ラルフ・ストックディルというアメリカの研究者は、20世紀に入ってから行われたリーダーシップの資質に関する研究を分析し、『Handbook of Leadership(リーダーシップのハンドブック)』を上梓(じょうし)しました。その中で、リーダーに共通する特性として創造性、人気、社交性、判断力、積極性、ユーモア、協調性、活発性などを挙げました。
確かに、どれもリーダーに求められる資質のように思えますよね。が、しかし、すべてをバランスよく兼ね備える“完璧”な人などまずいません。逆に、多くを兼ね備えていてもリーダーでない人はいるでしょうし、リーダーとして失敗した人も含まれます。つまり、資質に関する研究はリーダーの本質を突いていなくて、リーダーシップの発揮と資質の間に絶対的な相関関係はないということ。半世紀以上にわたるリーダーシップの研究が、一流のリーダーに共通する条件と呼べるものは一つもないことを明らかにしてくれたわけです。
細田氏 リーダーに向く人・向かない人の典型はないということですね。
一條氏 その通りです。これはリーダーシップ研究の最大の発見でもあります。現在ではリーダーたるものこうあるべき、という型に自分をはめ込むのではなく、ありのままの自分を表現できる人のほうが人に信頼されて、周囲を率いる影響力を手にしていることが分かっています。そうしたリーダーシップスタイルは、2000年代に入ってから「オーセンティック・リーダーシップ」と呼ばれるようになりました。
オーセンティックとは「本物の」「正真正銘の」という意味です。オーセンティック・リーダーシップの考え方の面白いところは、人生の中で培われた経験や価値観こそがリーダーにとっての資産で、生き方とリーダーシップスタイルはつながっていることを明確にしたことです。組織内やチーム内の問題にフォーカスするだけではなく、人生という視点からリーダーシップを考える時代になったのです。この点からも、自分がどんな人生を歩んでいくか考え始める10代のうちから、リーダーシップを学んでほしいのです。
取材・文/茅島奈緒深 取材・構成/石純馨(日経BOOKSユニット) 写真/小野さやか
社会を見渡して変えたいと思うことはありますか? 現代のリーダーは、上に立つより前に立つ人。それぞれが、自分のやりたい目標をみつけ、みんなに広げ、実現に向けて行動し、かなえていく。誰もが持てるそんなリーダーシップにこそ、世界を変える力があります。
一條和生・細田高広著/日本経済新聞出版/1760円(税込)



