通信教育事業を中核に参考書・問題集の出版や塾経営などさまざまな教育サービスを提供するZ会グループ。Z会では、昇格試験のために階層別の課題図書を設定しているといいます。後編の今回は、マネジメント層に上がるための課題図書3冊を紹介。「経営学の父」ドラッカーや入山章栄・早稲田大学ビジネススクール教授の著書などが登場します。同社総務人事部の穴澤英美子さん、中島貴之さん、小林千晶さんに聞きました。
前編「
Z会 社内の「共通言語」を作る昇格試験の課題図書4冊
」
ブームの前からドラッカーは課題図書
日経BOOKプラス編集部(以下、──) 前回は社員が受ける昇格試験の仕組みと、一般社員内の昇格試験の課題図書4冊について聞きました。今回は、役職任用資格を得るための試験の課題図書について教えてください。さらに3冊増えるそうですね。
総務人事部人材開発課 採用・教育担当 中島貴之さん(以下、中島) はい。以下の3冊が追加されます。
『マネジメント【エッセンシャル版】 基本と原則』(P.F.ドラッカー著/上田惇生編訳/ダイヤモンド社)
『世界標準の経営理論』(入山章栄著/ダイヤモンド社)
『プロフェッショナルマネジャー 58四半期連続増益の男』(ハロルド・ジェニーン、アルヴィン・モスコー著/田中融二訳/プレジデント社)
2014年に新卒でZ会へ入社。大学受験生向けの世界史の通信教育教材や書籍の制作業務を経て、2018年に人事へ異動。人事としては新卒採用・中途採用といった採用領域と、昇格試験関連の運営に加え、若手・役職者向けの社内研修といった教育領域、従業員意識調査などの社内サーベイを主に担当。
「経営学の父」とも呼ばれるドラッカーの『マネジメント』は言わずと知れた名著ですが、こちらを選んだ理由は?
総務人事部人材開発課課長 穴澤英美子さん(以下、穴澤) マネジメントを仕事とする者の心構えとして、まず読んでもらいたいからです。当社ではドラッカーがブームになる前からもう30年以上、社内で読み続けています。時には社内で「ドラッカーはもう古い」という議論が交わされることもあったと聞いていますが、今でも使われ続けています。
1998年に新卒でZ会へ入社。通信教育の広告宣伝、マーケティング、企画調整、商品政策、企業向け営業などの業務を経て、2016年に人事へ異動。人事制度の運用・改定、採用・教育、昇格試験、キャリア支援、労務・安全衛生など、人材関係の業務全般を主管。
ドラッカーは「マネージャーこそが『社会の要』であり、社会の中核を担う崇高な存在である」と位置付けていますね。やはりそこは不変のため、課題図書として必要なのでしょうか。
穴澤 そうですね。時代が変わっても、マネージャー、つまり、チームをあずかる者が読む価値のある本だと思います。
総務人事部人材開発課 採用・教育担当 小林千晶さん(以下、小林) 当社の社訓として「不易流行」があります。変えてはいけない本質的なものを守り続ける一方で、変えるべきところは存分に変えていこうと。「流行」の姿勢は通信教育事業だけでなく、出版や塾経営という多角化経営に現れていますが、「不易」の部分はドラッカーの教えに重なります。
2020年に新卒でZ会へ入社し、人事へ配属。配属とともに採用業務に従事し、現在は新卒採用のリーダーとして企画・運営を担当。その他、パートタイム社員採用、内定者研修・新人研修、業務表彰・永年勤続表彰などの社内表彰制度の企画・運用を担当。
穴澤 『 マネジメント【エッセンシャル版】 』は、役職任用資格試験の課題図書ではあるのですが、その一歩手前の一般社員内での最後の昇格試験から課題図書になっています。最初はピンと来ないままに読み始めたとしても、複数の試験に繰り返し登場することで学びを結実させてほしいからです。
部下の立場で読んでいたときは、「自分の上司は全然ドラッカーの教えを実践していないのに、試験に受かってるじゃないか」と不満があるかもしれません(笑)。でも、いざ自分が部下を持つ立場になると、上司には上司なりの言動の理由があったんだ──と、相手の思考に思いをはせられるようになっているように見えます。そういう経験も、課題図書を通じた社内の「共通言語」になると思います。
そうすると、次の課題図書『世界標準の経営理論』はどういう位置付けですか。
穴澤 『 世界標準の経営理論 』は本書が出版されてすぐに当社の社長から「ぜひ課題図書にしたい」と推薦され、2021年から課題図書になりました。おそらく、社長の考えと非常に近い内容だからではないでしょうか。私たちは人事なので日頃から社長と話す機会に恵まれる仕事ですが、部署によっては社長と物理的にも心理的にも距離が遠い社員もいます。この本で社長の考えを知り、社長との「共通言語」を持つことが、課題図書、そして試験を通じた社員と社長のコミュニケーションだと考えています。
そして、Z会の役職任用資格試験におけるプレゼンテーション試験では、社長も含めた経営幹部が面接官となります。
社長自ら面接官をされるのですか。
穴澤 はい。面接も行いますし、採点およびフィードバックも行います。試験は社長と直接コミュニケーションが取れる貴重な機会なので、大変でも受験する価値はあると思います。なお、試験によって受験者に無用な負担をかけないように留意はしています。例えば、この本から出題されるのは第1部だけです。本書の全832ページを読んでのぞむ必要はありません。他の部分は無理なく自分のペースで読んでもらえれば。
中島 なぜ第1部かというと、リソース・ベースト・ビュー(RBV)やゲーム理論といった内容が書かれており、会社の基本戦略や差別化、集中戦略を扱っているからです。当社の戦略と重なる部分も多く、朝礼でも社長からそうしたメッセージが発信されています。
穴澤 著者の入山章栄・早稲田大学ビジネススクール教授が言うように、この本で取り上げられている世界標準の経営理論は、時代を超えて普遍的に通用する、ビジネス・経営の原理原則とも呼べるものです。これからのビジネス環境は不確実性がさらに高く、複雑になる「正解のない時代」となりますが、そのような時代だからこそ、社長は「この本を『思考の軸』として、社員一人ひとりが考え続けてほしい」と伝えたいのだと思います。
理論を学んだ後は「実践」あるのみ
もう1冊の課題図書『プロフェッショナルマネジャー』はなぜ選ばれたのでしょうか。
穴澤 『 プロフェッショナルマネジャー 』も社長の推薦で2017年から役職任用資格試験の課題図書になりました。ドラッカーが「マネジメントの心構え」、『世界標準の経営理論』が「理論」だとしたら、この本は、マネージャーは考えるだけではなく行動を伴わなければならない、という「実践」です。理論と実践のバランスを担保するために課題図書になりました。
前編「 Z会 社内の「共通言語」を作る昇格試験の課題図書4冊 」で紹介した本で一般社員層向けの基礎的な知識を身に付けた上で、今回紹介したマネジメント層向けの3冊があるわけですね。よく練られたラインアップですね。
小林 当社の社是として、社員は「学習者」、「教育者」、「企業人」という3つの資質を持つべきだとしています。「学習者」は、単に勉強が好きであるということではなく、日々の経験を学びに昇華し、自分を変えていけるということです。「教育者」は、教育サービスを提供する者としての責任と高い志を持つことが求められます。これらの資質を大前提に、さらに、「企業人」としての事業感覚を身に付けるための1つの手段が課題図書だと思います。
中島 当社は教育にかかわりたくて入社する社員が圧倒的に多く、入社前からいわゆるビジネスに触れてきた社員は多くはありません。私自身も教養系の学部出身です。そのため、会計、経営、マーケティングといった知識に触れるのは初めてだったのですが、純粋に面白いんですね。私は役職任用資格試験まで受けていますが、課題図書を読むことで、「世の中のビジネスはこうなっていたのか」「こういう考え方だからうまくいく会社があるのか」という発見がありました。
試験の中でも特に役職任用資格試験は、社員自身が大きく変わるきっかけにもなりやすいものです。スムーズに通過する人、「自分には向いていない」と絶望に打ちひしがれる人、逆に「絶対に受かってやる」と発奮する人――とさまざまですが、課題図書を読むことで「他業界のビジネスではこうした知識やスキルが求められているのか」という学びになり、改めて自社での自分の仕事を俯瞰(ふかん)することもできます。これからも、課題図書や試験を、それぞれの仕事に生かしていきたいですね。
文/三浦香代子 写真/廣瀬貴礼






