日本総合研究所(日本総研)の調査部は、数多くのリポートを発表して経済を分析したり政策提言を行ったりしており、大きな存在感を示しています。同社調査部マクロ経済研究センター所長、西岡慎一さんに、部下に薦めたい本を聞きました。前編の今回は、調査部の社員の特徴や風土を説明し、それを踏まえた、特にマネージャー層に読んでほしい本を紹介します。
ハイブリッド型雇用が生み出す風土
私は1999年に新卒で日本銀行に入行し、2018年から2年間、日本経済研究センターに出向しました。2021年にSMBCグループの日本総合研究所に入社し、現在は調査部マクロ経済研究センターの所長を務めています。
日本総合研究所の事業はシンクタンク、コンサルティング、ITソリューションから成り立っており、私が所属する調査部はシンクタンク部門の一部となります。調査部の業務内容は大きく2つに分かれます。1つは私のいるマクロ経済研究センターで、景気動向を分析する部署。そして、もう1つが社会課題に対して政策を提言する部署です。ジョブローテーションとしては、調査部に新卒で入社をするとまずは景気動向を分析する部署に配属され、経済学全般の知識や、データから経済情勢を読み解く手法を学びます。そして、中堅になると政策提言を行う部署に異動するのが一般的です。
そのため調査部の雇用スタイルはメンバーシップ型とジョブ型のハイブリッド型です。景気動向を分析する部署は若手が多く、これから専門知識を身に付けていく段階ですので、OJT(職場内訓練)を通じて人材育成するメンバーシップ型が主です。一方、政策提言を行う部署では、自分の専門分野についてリポートを執筆し情報発信をするなど、一人一人がプロフェッショナルとして働くジョブ型に近い雇用形態をとっています。
日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター所長、主席研究員
なぜ、当社の調査部がハイブリッド型の雇用スタイルを取り入れているかというと、深い知見を持つ人材を育て上げ、多角的な議論が交わされる組織にしたいという思いがあるからです。社内では若手も自由に意見を述べることができ、社外に発信するリポートも基本的には組織の意向にとらわれず、自身の考えを自由に発信できる雰囲気があります。
さらに言えば、ほかの研究員とテーマが重なったり、同じ分野の研究員と意見が違ったりしても差し支えありません。上司からのトップダウンで方針が決まる企業も多いと思いますが、当社では立場を問わず、個人の主張が尊重され、率直な意見交換がしやすい環境が整っていることが特徴です。
私は若手には、社会課題の解決に向けた熱意を養ってほしいと思っています。そして自ら問題を設定して独自性のある研究を行い、政策提言ができるようになってほしい。社内では自己研鑽(けんさん)を奨励しており、海外の大学で留学生や研究員として学んだり、官公庁に出向して政策立案に携わったりする機会もあります。
私から部下や若手に本を薦めることもありますので、今回はそうした本の中から特に読んでほしいものを紹介します。経済の専門書は当然読んでほしいのですが、今回は視野を広げるため、あえてそうした分野以外から選びました。
義父と上司から薦められた名著
1冊目は特にマネージャー層に読んでほしい本ですが、デール・カーネギーの『 人を動かす 』(山口博訳/創元社。リンクは改訂新装版)です。実はこの本は25年前、私が妻と結婚したとき、義父から「これを読むと結婚生活の役に立つよ」と薦められたものです。ただ、当時はその言葉がすっかり記憶から抜け落ちてしまい、まったく目を通しませんでした。その後、当社に転職したときに、当時の直属の部長からも本書を渡され、「うちはこういう方針でチームメンバーとの関係を構築しているから、読んでおいてほしい」と言われ、4年前に初めて読みました。調査部ではこの本を読んでいるマネージャー層が多いと思います。
言わずと知れた名著ですが、一番のポイントは「人間関係をいかに円滑にし、相手に動いてもらうか」だと思います。そのためには相手への批判を避け、誠実な関心を寄せ、意見を尊重することが重要です。
この本には「命令をしない」「わずかなことでもほめる」といった相手のモチベーションを上げる原則が書かれており、それを無視すると仕事のパフォーマンスが下がってしまうのだと気づかされます。
また、私のように若手を指導する立場の者にとっては、「思いつかせる」の原則が心に響くのではないでしょうか。会社としては当然、若手にやってもらいたい仕事があります。そこをいかにして命令ではなく若手自身が思いついたかのように仕向け、その仕事へと導くか。やはり人は誰かに押しつけられたことよりも、自分で思いついたことを大事にします。私の経験でも、トップダウン型のリサーチよりも、ボトムアップ型のリサーチの方がはるかに面白いことが多いです。この本を読むと、相手にひらめきを与える方法が分かります。
若手のうちは、自分で独自のテーマを見つけるのは難しいかもしれません。私自身もずいぶん苦しい思いをしましたが、そんなときはあえて自分の担当とは少し外れる本やリポートを読んでいました。そうすると、視野が広がって新たな発想が生まれるものです。また、歩きながら考えるのもいいですね。職場であれこれ考えても何も思い浮かばず、がっくりして帰宅する途中にふと新しいアイデアが生まれるということもよくありました。歩くことが脳にいい刺激を与えてくれているように思います。
今は若手に、1on1ミーティングなどの場で、その人が関心を持ちそうなテーマをそれとなく提案したり、リサーチのアイデアを話し合ったりしています。そのうち本人が自らテーマを見つけられるようになると、「この若手はすごく伸びたな」と上司として喜びを感じます。
次回は若手に薦めたい4冊を紹介します。
(後編に続く)
取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美


