「経営に携わるリーダーが本を通じて常に学び続けている」。家計簿アプリやクラウド会計ソフトを中心に事業を展開し、急成長を続けているマネーフォワード。創業者の辻庸介さんは読書家で、本を活用した研修がさまざまに行われています。同社の人材育成・研修の責任者を務める竹内富貴・Talent Growth部部長に、それらの取り組みの内容や効果などを3回にわたって聞きました。第3回は各部門の本部長を対象にした「読書セッション」について。

第1回 「マネーフォワード 本からの学びを最大限に生かす人材育成法」
第2回 「マネーフォワード辻庸介CEOが推す『共通言語』となる必読本」

各部門トップがテーマごとに本を厳選

 これまで、当社では本を活用した研修を通じて、急拡大する組織を支えるリーダーの育成につなげていることを説明してきました。

 部長層に関しては初心者からベテラン勢まで参加する研修で、当社が目指すリーダー像を伝える施策をそろえることができたのですが、その上の層に当たる本部長クラスのメンバーに対しては研修が追いついていない現状がありました。

 そこで、2024年から希望制でスタートしたのが、各事業部門の本部長を対象にした「読書セッション」です。

「本を活用した研修を通じて、急拡大する組織を支えるリーダーの育成をしてきました」と話す竹内さん
「本を活用した研修を通じて、急拡大する組織を支えるリーダーの育成をしてきました」と話す竹内さん
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竹内富貴(たけうち・ふき)
マネーフォワード People Forward本部 副本部長、Talent Growth部 部長
新卒で人材紹介会社へ入社し、キャリアコンサルタントとしてキャリア支援に携わる。その後、IT企業や食品メーカーで人事として採用や人事制度改定、組織開発などを経験し、2021年マネーフォワードに入社。組織と人の成長を支援するために、人材育成施策の企画・運営や人事制度改定、組織開発など多岐にわたるプロジェクトに携わる。2023年6月より現職。

 読書セッションは月に1回、全5回行うもので、当社の取締役や執行役員が1回ずつ講師を担当します。参加者は、担当する経営陣が設定されたテーマごとに厳選した本を1回1冊ずつ事前に読み込み、選者となった経営メンバーを迎えてセッションをする双方向型の研修です。

 これも、CEO(最高経営責任者)の辻庸介が常日頃からメンバーに向けて伝えている「リーダーは学び続けることが大事。学ぶ手段として読書を習慣にしてほしい」という思いを形にしたものです。

 第1回はCFO(最高財務責任者)の金坂直哉が「戦略」をテーマにセッションを担当しました。

 このセッションでは、「課題図書」として事前に推薦された本を読むことが参加条件になるのですが、金坂がピックアップした本は『 ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件 』(楠木建著/東洋経済新報社)。

『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』(楠木建著)
『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』(楠木建著)
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 ビジネスの最前線を熟知している経営学者・楠木先生が豊富な事例を交えながら、人をひきつけるストーリーとして戦略を語る意義を分かりやすく解説する本です。「戦略は正しいだけでなく、人々をわくわくさせることも重要。多くの人を巻き込むパワーがあってこそ、戦略は実行できる」という辻や金坂の考え方とも深く一致する内容になっています。

 この本を読んだ上で参加するセッションでは、プレゼンテーションの実演ワークを実施しました。プレゼンのお題は、ズバリ、「あなたの自組織の戦略を、5分間で資料なしでプレゼンしてください。聞いている人をわくわくさせるストーリーとして語ってください」というもの。全員が実演をした後にお互いにフィードバックを送り合って、さらにもう一度実演もするという充実した内容で、参加者の満足度は非常に高かったですね。

 「自分はこういう経験があり、こんな課題意識があるから、こんな戦略を実現していきたい」など、自組織の戦略を自分の言葉で立体的にストーリーで語れるようになる変化が劇的で、とても盛り上がったんです。

 本で書かれている手法を実際にアクションに移し、その体験をみんなで共有することで、読書で得られる学びの効果はさらに何倍にも高まるのだと実感できました。

「社内ビジネススクール」のメリット

 第2回は、CDO(Chief Design Officer)の伊藤セルジオ大輔が「デザイン」をテーマに担当し、選ばれた課題図書は『 経営とデザインのかけ算 企業を進化させる「デザイン思考」と「ブランディング」 』(尾﨑美穂著/合同フォレスト)でした。

『経営とデザインのかけ算 企業を進化させる「デザイン思考」と「ブランディング」』(尾﨑美穂著)
『経営とデザインのかけ算 企業を進化させる「デザイン思考」と「ブランディング」』(尾﨑美穂著)
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 当社が重視しているデザイン経営の基礎を解説するこの本の内容になぞらえながら、セルジオ自身がデザイン経営を社内でどう実践してきたかを振り返るセッションで、まさに「社内ビジネススクール」のような時間でしたね。

 外部講師を呼んでの研修や社外のビジネススクールの講義に参加するのとは違って、社内のリーダーが講師を務めることで、普段社内で使っている言葉とのズレも生じないので、より理解が深まりやすいと感じています。

 続く第3回は、CTO(最高技術責任者)の中出匠哉が「テクノロジー」をテーマに、生成AI(人工知能)がビジネスに変革を起こした後の社会についてイメージを共有したり、Q&Aを通じて議論をしたりするセッションを行いました。課題図書は『 AI 2041 人工知能が変える20年後の未来 』(カイフー・リー、チェン・チウファン著/中原尚哉訳/文藝春秋)です。中出は、「エンジニア以外の人でも分かりやすく、本質的な本を探したい」と1カ月ほどかけて真剣に選んでいました。

『AI 2041 人工知能が変える20年後の未来』(カイフー・リー、チェン・チウファン著/中原尚哉訳)
『AI 2041 人工知能が変える20年後の未来』(カイフー・リー、チェン・チウファン著/中原尚哉訳)
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 第4回は、「組織」をテーマにビジネスカンパニーCOO(最高執行責任者)の竹田正信が担当し、課題図書は『 1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え 』(エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著/櫻井祐子訳/ダイヤモンド社)でした。

『1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』(エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著/櫻井祐子訳)
『1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』(エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著/櫻井祐子訳)
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 セッションでは、組織や人の育成をテーマにしているこの本の中で登場するキーセンテンスを拾いながら、竹田の解釈や日頃実践していることを伝えて、参加者どうしでも対話を広げる時間がとても有意義でした。

 例えば、本の中にある「支援・敬意・信頼を通じて、メンバーの幸せと成長の環境をつくっていくことが大事である」という説明に関連して、竹田が「僕の場合は、『目の前の相手を信じること』から始めます」と解説を加えるんです。

 そしてさらに、信頼関係を築くためのコミュニケーションの取り方やバイアス(先入観)の解消法まで、自身の工夫について詳しく解き明かし、竹田のリーダー観が凝縮したセッションになり、参加者からも非常に好評でした。

リーダー自身が本で常に学び続ける

 トリの第5回はCEOの辻が担当しました。課題図書は前回「 マネーフォワード辻庸介CEOが推す『共通言語』となる必読本 」で紹介した『 HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント) 人を育て、成果を最大にするマネジメント 』(アンドリュー・S・グローブ著/小林薫訳/日経BP)です。

『HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント) 人を育て、成果を最大にするマネジメント』(アンドリュー・S・グローブ著/小林薫訳)
『HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント) 人を育て、成果を最大にするマネジメント』(アンドリュー・S・グローブ著/小林薫訳)
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 「マネジメントの役割はアウトプットの最大化にこだわること」という観点に立って、実践的なセッションを行いました。参加者が、本書を読んで最も学びになったこと・実践したいことなどをまとめる事前ワークに取り組みグループでシェアした後に、辻とのQ&Aを実施しました。

 「時間の使い方や意思決定のときに考慮していることは?」「パフォーマンスの高いメンバーのパフォーマンスをさらに上げるには?」といった質問が次々に出て非常に盛り上がり、当初予定の1時間を大幅に延長して約2時間も続いたほどです。ずっと課題に感じていたことに解決のヒントを得られたという声もあり、参加メンバーの満足度がとても高い内容でした。

 5回の「読書セッション」を通じて、参加メンバーにとっては、普段自分が選ばない推薦図書を読めて視野が広がり、トップマネジメントの考え方や価値観を理解する良い機会になりました。メンバーどうしの仲も深まり、組織の壁を越えて相談できる仲間ができた人もいます。今後も「読書セッション」を継続していきたいですね。

 ただでさえ多忙な経営陣が、これほど時間と手間をかけて研修にコミットする会社も珍しいかもしれません。それだけ本を活用したトレーニングの価値を知っているということであり、経営に携わるリーダー自身が常に学び続けている証しなのだと思います。

 これも役得なのか、研修施策に携わる私自身も非常に濃い読書体験を積めています。推薦される本の中には、グローバルで躍進する巨大企業の事例も多く、「私たちはこういうライバルと同じステージを目指していくべきなのだな」という意識が自然と芽生えました。

 本の内容が染み込むほどに視座が上がる。そんな効果を個人的に実感しています。

マネーフォワードのオフィスには、社員の手形で作成したロゴマークがある
マネーフォワードのオフィスには、社員の手形で作成したロゴマークがある
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取材・文/宮本恵理子 写真/品田裕美

マネーフォワード3000日戦記

誰も使ってくれないプロダクト、接続先からアクセス拒否、訴訟、サービス全停止の危機、仲間の反発、ユーザーからの大反発、事業撤退。胃がキリキリする“黒歴史”が、起業家をタフに変え、強いチームと成功を生み出した。

辻庸介著/日経BP/1760円(税込み)