KPMGコンサルティングは世界4大監査法人グループに属するコンサルティングファーム。同社執行役員パートナーの佐渡誠さんは、新しいテーマや事業に取り組む一方で、人材開発も担当しています。佐渡さんは、日本の潮目は変わっており、コンサルティング業界もその潮流に乗って進化できるかどうか、危機感を抱いていると言います。コンサルティング業界の課題と、今後の日本の方向性を読むための本について聞きました。

4大監査法人グループのコンサル会社

 KPMGコンサルティングは、世界の監査法人「BIG4」の1つであるKPMGのグループ会社です。私はそこで人材開発部門の役員とビジネスイノベーションユニットを統括しています。

 日本のKPMGグループにはKPMGコンサルティングの他、監査業務などを行うあずさ監査法人、税務の専門家チームによるKPMG税理士法人、M&Aなどの事業支援を行うKPMG FASなどがあります。

 そのうちKPMGコンサルティングは、既存のコンサルティングサービスを行っていた法人を統合して2014年に設立された比較的若い会社です。そのため、監査法人系のコンサルティングファームとして会計や財務に強いのは当然ですが、グループ会社間での横の連携を武器に、過去にとらわれない新しいテーマや事業に取り組む「しがらみのない文化」はピカイチだと思います。企業のビジネスをリスクやコンプライアンスなどの面から支えるとともに、そこに先進テクノロジーを掛け合わせて何ができるのかなどを、日々探索しています。

目先の課題解決に追われていていいのか

 この「探索」はKPMGコンサルティングのキーワードの1つです。社内には従来型のコンサルティングビジネスを「深化」させていくユニットと、新しいサービス価値やビジネスモデルを「探索」していくユニットがあります。私が統括をしているのは後者で、ビジネスイノベーションユニットと呼んでいます。

 企業規模が大きくなるにつれ、どうしても目先の課題解決や仕事に追われていく、これはコンサルファームとて同じです。我々も1300名を超えるファームに成長してきたなかで、「従来のクライアント課題解決型のコンサルティングモデルだけでは、マーケットにインパクトを創出することが非常に難しくなってきている」と肌身にしみて感じているからです。

 例えば、コンサル業界においては、DX(デジタルトランスフォーメーション)の流れを受けて、クライアント企業から様々なシステム導入のご相談が入ります。自社の業務上の課題は何なのか、それをどのようにシステム活用を踏まえて解決していくのか……クライアント側から見れば、より良い“仕組み”にするために外部コンサルの知見・力を活用したい。こういったご相談はありがたく、それに全力で向き合うのも我々の重要な使命であり、今後もそれは変わらないでしょう。

KPMGコンサルティングで新規事業開発と人材育成を担当する佐渡さん
KPMGコンサルティングで新規事業開発と人材育成を担当する佐渡さん
画像のクリックで拡大表示

 しかしその裏で、企業という単位を超えた、より複雑化した課題が顕在化、重大化してきている事実も我々は無視できません。ESG(環境・社会・ガバナンス)経営や少子高齢化問題、ジェンダー配慮・女性活躍社会の実現、地方創生、ベンチャー起業市場の活性化などです。こうした国家戦略とも呼べる重要課題に対して、我々がどのように向き合っていくのか、どのような価値をもって変革を支援していくのか。

 コンサルファームの多くは、こうした未知の分野や成果が見えにくいご相談を手掛けるよりも、規模が大きく、課題がある程度明確になっている案件に取り組むというスタンスをメインに事業を展開・拡大してきました。そのほうが、リスクが小さく確実に収益に結び付くからです。

 もちろん、事業を行っている以上、収益を上げることは重要です。しかし、「企業や業界の枠を超えて共創して、今、何に取り組むべきなのか。何が問題なのか」から考え始め、その解決にコンサルファームが自ら先導役となって、大きく企業との、あるいは複数企業同士の協創を呼びかけていく、そういう役割も今の時代に求められているのではないでしょうか。

戦後日本の潮目が変わった

 SDGs(持続可能な開発目標)の推進や街づくり、先進テクノロジーを用いたDAO(分散型自律組織)社会の構築、日本の資産やコンテンツを生かした産業活性化――キーワードは躍っていますが、いったい何が本質的な問題で、それをどうやれば解きほぐせるのか。その難題を企業側に任せるだけではなく、我々自身も考えて、業界や企業、市場に提起していく。そういう「探索」を我々は求められていると感じています。

 「今の自分はクライアントの課題を解決できている」「ちゃんと業績も上げている」と満足しているコンサルタントには、将来的な目線に立つと、個人的には危機感を覚えます。

 今や日本市場はかつてのような急激な成長が見込めない状況です。DX需要が一巡し、ポストコンサルタントが市場の末端にまで展開されていく向こう5年10年を見据えると、今までのような案件でコンサルファームにお金を払ってくださる企業がずっと存在し続けるとは思えません。既存の事業をさらに「深化」させ、新しい分野に進出する「探索」なくしては生き残れない。KPMGコンサルティングがビジネスイノベーションユニットを設立した背景にはそうした危機感があります。

 オペレーショナル・エクセレンス(卓越した業務遂行能力)、経済合理性を最上位として追求してきた戦後日本のビジネススタンス・潮の流れが、市場の飽和とテクノロジーの進展、人々の価値観の変容という多様な影響を受けて大きく変わりつつあるのです。この潮目の変化を当社のコンサルタントにはしっかりと理解した上で、「自分は何ができるのか」と自問自答するスタンスを持ってほしいと思っています。私は人材開発を管掌する立場でもあるので、このような考え方や視座の獲得ができるよう、KPMGコンサルティング内の研修制度をつくり上げていくのも重要な使命です。

超高齢社会の日本が生き残る方法は?

 日本の潮目はどう変わったのか、これからどのような方向に向かうのか。世の中の流れを読み解くには、やはり本を読むことが効果的です。その中でも、日本の未来を考えるヒントとなるのが、『 社会は変えられる 世界が憧れる日本へ 』(江崎禎英著/国書刊行会)です。著者の江崎禎英さんは元官僚で、個人情報保護法の立案や健康・医療政策に携わった方です。

元官僚が日本の未来を構想する『社会は変えられる』
元官僚が日本の未来を構想する『社会は変えられる』
画像のクリックで拡大表示

 日本は超高齢社会となり、医療費・介護費の増大に歯止めがかかりません。世界に冠たる国民皆保険制度の存続も危ぶまれています。経済も低迷するなか、いったい日本はどうなるのか──と暗い気持ちになる人も多いでしょう。しかし、江崎さんは人生100年時代、「人生が2周する」と考え、今までは60歳や65歳で定年を迎えていた世代が働ける環境を整えるべきだと説いています。そうすれば、「日本は最強の国に生まれ変わる」と。今は定年した世代を若い世代が支えることを当然としていますが、そうではなく、定年した世代が働き続け、活躍できる環境を整えればいいのです。

 生き生きと働ける環境があれば、個人のモチベーションも上がり、体の免疫も向上して、病気になる人が少なくなる。そうすれば、寝たきりになる人も減少し、医療費・介護費に使われている社会保障費を別のことに使えるのではないか。このように、医療や介護の分野にも言及されていて、読み応えがあります。

 とかく日本の将来を考えると「沈みゆく船」という暗いイメージがつきまといますが、逆転の発想が得られる1冊です。

担当分野以外にも目を向ける

 潮目が変わっている今、自分の持っているケイパビリティ(能力)だけでは課題を解決し、付加価値を出すことは難しくなっています。

 我々は、向き合うべき社会課題を「The Impact」と呼んでいますが、例えば地球温暖化問題に向き合うとき、ITコンサルタントとしての知識だけではCO2の算出システムを作るぐらいしかできないかもしれない。でも、他のメンバーとコラボレーションして自分以外の専門知識を組み合わせれば、化石燃料の使用を大幅に減らすスマートシティを構想するといったことも可能です。

 これからのビジネスパーソンは自分が担当している分野以外にも目を向ける、幅広い知識を得る、そして共鳴することが必要不可欠です。そのためにも、本は最も身近で、効果的なツールだと考えています。

「自分が担当している分野以外にも目を向けることが必要」と説く佐渡さん
「自分が担当している分野以外にも目を向けることが必要」と説く佐渡さん
画像のクリックで拡大表示

取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美