KPMGコンサルティングは世界の4大監査法人グループに属するコンサルティングファーム。同社執行役員パートナーで新規事業や人材開発を担当する佐渡誠さんは、日本の潮目は変わっており、従来と同じようにビジネスを続けることに危機感があると言います。では、新しい潮流にどのように対応すればいいのか。そのために役立つ本を紹介してもらいました。
問題そのものを構想する力
前回「 KPMGコンサルティング 変わった潮目を読むための1冊 」では、今や日本の潮目は変わっている、そんな中で従来通りのビジネスを展開しているコンサルティング業界への違和感と危機感をお話ししました。
では、新しい潮流に対応するためには、具体的にどう考え、行動すればいいのか。そのヒントとなるのが山口周さんの『 ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式 』(ダイヤモンド社)です。この本は読みながら、もう本当に「我が意を得たり!」と感じる部分ばかりでした。バイブルにしたい1冊です。
特に、「正解を出す力にもはや価値はない」という部分に感銘を受けました。受験勉強のような「正解探し」だけをずっと続けてきた経営者は、これから先は必要とされないでしょう。「分析」「論理」「理性」のみに軸足を置いた考え方では、結局生産性は上がらないのです。例えば、メーカーがものを作り、販売会社が売るという構造。それは、マーケットが広がっている時代には正解だったビジネスモデルですが、マーケットが縮み始め、さらにデジタル技術が普及してメーカーが直接消費者と向き合える環境下にあって、そのモデル自体が本当に最適なのか、というところから問い直す必要があります。
経営者に限らず、これからのビジネスパーソンに必要なのは、こうした問題を発見し、提起する力です。「正解を探すオールドタイプ」ではなく、「問題を探すニュータイプ」にならなくてはいけません。問題の答え探しをするよりも、問題そのものを構想する力が必要なのです。そのためには、「リベラルアーツの知識やアート思考で物事を捉えることが大事だ」と山口さんは説いています。
また、そうした力を身に付けた上で、「自分が勝てる分野」に移ることも選択肢の1つとなります。一昔前は転職というとジョブホッパーのように思われて良い印象を持たれませんでしたが、ここでも潮目は変わっています。
私は人材開発部門の担当役員として部下に「どんどん転職せよ」とはさすがに言えませんが(笑)、転職とまではいかなくても、他分野に「越境」して、自分のスキルを積極的に磨くことには賛成です。前回もお話ししましたが、今や自分のケイパビリティ(能力)だけで価値を出し続けることは難しい。他分野の刺激を受け、学び続ける姿勢は大事です。
本書では、ニュータイプに変化するための思考と行動様式が具体的なアクションにまで落とし込まれているので、すぐに役立つはずです。
日本の将来を読むための1冊
続いては、「どうして日本は古いままなのか」「未来は変えられないのか」と思ったときにお薦めの1冊、『 JAPAN TRANSFORMATION 日本の未来戦略 』(新経済連盟著/KADOKAWA)です。こちらは楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史さんが代表理事を務める一般社団法人新経済連盟(新経連)による本。新経連では、「イノベーション、アントレプレナーシップ、グローバリゼーションの推進」を指針として、「ジャパン・トランスフォーメーション(JX)」を掲げて活動しています。
本書では、新経連のメンバーや注目の経営者ら18人が、岩盤規制の撤廃といった政策提案や、国際化、教育、DX(デジタルトランスフォーメーション)、テクノロジーといった分野で日本の未来を考える提言を行っています。今後の日本が向かう方向性を読み、コンサルティングで新たな価値を提供していくための根本となる考え方がこの本から学べると思います。
何より三木谷さんやサイバーエージェント社長の藤田晋さん、メルカリ社長の山田進太郞さん、星野リゾート代表の星野佳路さんら名だたる経営者の提言がまとめて読めるので、読み応えがあります。
「自分の軸」を見つける
そして、最後に紹介するのは、森岡毅さんの『 苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」 』(ダイヤモンド社)です。こちらは今まで紹介した本とは少しトーンが違い、森岡さんが就職活動をしている娘さんへ宛てた手紙という形式となっています。
森岡さんは経営破綻寸前ともいわれたユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を業績回復させたマーケターですが、その森岡さんでも苦しく思い悩んだ時期があったのだと分かります。そうした実体験から語られる「失敗しない人生そのものが、最悪の大失敗」「苦労や失敗こそが、自分を磨くための最高の砥石になる」「後ろは一切、振り向かなくていい」といったアドバイスは、就活生だけではなく、ビジネスパーソンが読んでもグッと心に響くことでしょう。どんな仕事でも、働くには「自分の軸」が必要。その軸の見つけ方をこの本からは学べます。
KPMGコンサルティングでは、自分の軸を持ち、ビジネスで目標を達成することを「Journey」と表現することがあります。個人の目標はJourney、KPMGグループ全体の目標は「Our Journey」です。ぜひ一人ひとりが自分の軸を持ち、豊かなJourneyとなるようにと願っています。
取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美