ゴールドマン・サックス証券を退職して起業し、今や時価総額1000億円を超えるGENDA(ジェンダ)の代表取締役社長を務める申真衣さん。急成長していく組織のマネジメントや企業経営には大きなプレッシャーも伴うが、これまでも未開の分野で新しいことにチャレンジし続けてきた。もともと「頑張っていさえすればいつか自信がつく」と思っていた申さんが、揺るぎない「自信」を持てた理由とは――。

「自信過剰」くらいでちょうどいい

 このクレア・シップマン氏とキャティー・ケイ氏の共著『 なぜ女は男のように自信をもてないのか 』(‎CCCメディアハウス)は、原題は「THE CONFIDENCE CODE:The Science and Art of Self-Assurance—What Women Should Know」です。つまり、女性が「自信」を得るためにはどうしたらいいか、科学的根拠に基づいてひもといていくという内容です。

 「女性は男性より自信を持てていない」という統計データを基に内容が展開していくのですが、私がこの本の中でとりわけ好きな実験があります。それは、被験者に「歴史上の人物名を記載したリストから、知っている人物名にチェックをつけてもらう」というもの。

「個人的にはもっといい邦題があるような気もするのですが(笑)、『自信』を科学的に解明する実験とその結果にはハッとさせられるものがあります」
「個人的にはもっといい邦題があるような気もするのですが(笑)、『自信』を科学的に解明する実験とその結果にはハッとさせられるものがあります」
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 実は、リストの中には「実在しない人物名」もランダムに入っていて、それは被験者には知らされていません。しかし、被験者たちの中には「実在しない人物名」にも堂々とチェックをつける人たちがいました。この実験は「自信過剰度」を測るテストだったんです。

 さらに、被験者たちを追跡調査していくと、自信過剰度が高い人たちは実験後、「キャリアで成功している」という相関が示されたといいます。つまり、自信を持つ・持たないは、実質的な能力や実績とは結びついていないということです。

 私はそれまで、「正しく頑張っていればいつか自信がつく」と思っていましたが、実は「自信を持っていることが成功につながる」ということがこの本から得た大きな学びになりました。

 自信過剰なことは、日本では「はしたない」と見られてしまう風潮があります。私ももともとは不安が大きいタイプで、自信がない自分を恥じてはいませんでした。ですが、この本を読んだことで、「自信を持つ」こともスキルの一つだと思えたんです。

「不安なこと」と「できないこと」は全くの別物

 そう分かってから、不安を感じたときには、「この不安は私の心の中だけで起きていることであり、客観的な事実ではない」と切り離して考えることで、新しい仕事や未経験の業務にも手を挙げられるようになりました。

 ゴールドマン・サックス証券時代には「昇進したい」と自分から言えるようになり、チャレンジングな仕事を振られても一歩踏み出してやってみようと思えるようになりました。

「根拠はなくても『自信を持つ』ことが、キャリアに好影響をもたらすことを実感したんです」
「根拠はなくても『自信を持つ』ことが、キャリアに好影響をもたらすことを実感したんです」
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 これまで働く女性たちは、主に「男性をサポートする側」に回ることが多かった。仕事そのものの実績よりも「細かい気配りや心遣い」が評価されることも少なくありませんでした。日本の女性は特に、「控えめで少し自信がないくらいがよろしい」と小さい頃から社会に刷り込まれてきた。男性と同じことをするにしても、「もっとたくさん準備をしないと」と思ってしまう傾向にあります。

 ただ、これからの人生100年時代は、社会も人も変化が求められます。誰かに声をかけてもらったり、誰かが評価してくれたりするのを待つのではなく、根拠のない自信を持って自らチャンスをつかみにいったほうが、広がる世界が格段に大きいと思うのです。

「やり抜く」ことでたどり着ける場所がある

 それに私は、「頑張ること」自体が結構好きなんです。

 この、アンジェラ・ダックワース氏の『 やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける 』(神崎 朗子訳、ダイヤモンド社)は、IQや才能ではなく、とにかく「やり抜いた人が成功する」ということを教えてくれる1冊です。

 「やり抜いたから成功した」のか「成功したからやり抜けたのか」のかは“鶏と卵”かもしれませんが、私自身は、「地道な努力を続けることでたどり着ける場所」は絶対にあると思っていて。

「どんなにうまくいかないときも、とにかくやり続けてきた。この『やり抜く力』は、自分で人生を動かすために大切な力だと実感しています」
「どんなにうまくいかないときも、とにかくやり続けてきた。この『やり抜く力』は、自分で人生を動かすために大切な力だと実感しています」
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 ゴールドマン・サックス証券時代には、同期の中では一番早くにマネージングディレクターを担当することになりましたが、実は、私は周囲から「できないヤツ」「いらないヤツ」の烙印(らくいん)を押されていたどん底の時期がありました(詳しくは第1回の記事 「GENDA申真衣 ゴールドマン辞め起業 後悔ない決断術を学んだ本」 で)。それでも辞めずに11年間働いたからこそ、マネージングディレクターという役職にも就くことができたんだと思っています。

「自分への言い訳」こそ見逃さない

 その後、私は起業するために退職しましたが、会社に残った同期たちもみな、順風満帆だった人は1人もいません。大変なことを乗り越えながらやり続けてきたからこそ、今は責任あるポジションで活躍しています。

 昨今は「コスパ」や「タイパ」が重視される風潮もあります。でも、すぐに結果が出ないからといって、「やり抜く」ことを放棄するのは違うと思っています。

 人は、簡単に自分自身に噓をつけてしまう。あれこれ理由を見つけて、自分を正当化するのはとても簡単です。だからこそ、今選択しようとしているのは、本当に正しいのか、「諦め」や「逃げ」ではないのかを見極める必要がある。「やり抜く」ためには、自分への言い訳にこそ、細心の注意を払わないといけないと思っています。

取材・文/金澤英恵 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 申さん写真/GENDA 本写真/スタジオキャスパー