30代でゴールドマン・サックス証券を辞めて起業し、アミューズメント施設「GiGO」などを運営するエンタメ企業・GENDA(ジェンダ)の社長を務める申真衣さん。創業5年で東証グロースに上場し、急成長を遂げる傍ら、女性誌のファッションモデルとしても活躍してきた2児の母でもある。計画的に動いてやりたいことを手に入れてきたように見える申さんだが、自身の経験から「ゴールから逆算して歩む人生には限界がある」と言う。自分らしく、自分の生きたい人生を歩むために、モチベーションを鼓舞し、「人生をエンパワー」してくれる2冊の本を教えてもらった。
「松岡陽子」という再現性のない生き方
プロテニス選手を目指して渡米後、ロボット工学者に転身して、現在はパナソニックの執行役員を務める“ヨーキー松岡”こと松岡陽子さん。以前、対談をさせていただいたのをきっかけに読んだのが、松岡さんの著書『 選択できる未来をつくる 』(東洋経済新報社)です。
この本を読むと、「松岡さんの人生は全く再現性がない!」と思えるほど、突き抜けた人生を歩まれていることに感動します。
松岡さんほどやりたいことがたくさんある人は、世の中を見渡してもそうそういません。やりたいことを見つけたら、まずはそこに行ってみる。そうすることで道が一気に開けてくる――。「計算しない」ことから生まれる可能性を、松岡さんは自身の人生を通して教えてくれます。
日本で働く女性たちは、「人生プランを逆算して考える」人が少なくありません。何歳で子どもを産みたいから何歳で結婚して、仕事は何歳までにこういう状況を作りたいから今はこれをやっている…そんな話をよく聞きます。
でも、私の経験からしても、計画通りに事が運ぶなんてほとんどありません。それに、逆算して考える人の多くは、「自分の考えが変わる」ということを考慮に入れていないものです。
世の中の「最適解」が幸せとは限らない
最近、大学生の子たちと話していて思ったことがあります。学生から社会人になるときって、価値観が大きく変わるタイミングのはず。それなのに、「これが幸せの最適解」と構築したイメージから、なかなか抜け出せない子が多いんです。
彼・彼女らにとって「最適解」から少しでも外れてしまうことは「リスク」であり、そこから外れた生き方はしたくない。だから、「逆算」した計画的な人生を歩もうとする。
色々なことを妥協すれば、全て計画通りに着地させることはできるかもしれません。でも、計画通りの人生は選択肢を狭めるだけでなく、そもそも「自分自身の幸せ」に心が向いてないように思います。
もしかしたらそれはSNSの影響かもしれませんが、「世の中でいいといわれるもの」「すてきなロールモデル」に一歩ずつ自分を合わせていく人生になってしまっている。
こう言うと失礼になるかもしれませんが、松岡さんは社会の「最適解」を全く見ていないんです(笑)。自分の中にだけ最適解を持っている。だから、突き抜けた人生を歩めているのだと思います。ノープランで導かれるがまま進んだ先に、何かがあるかもしれない――松岡さんの本は、そんなことを思い出させてくれると思います。
もう1冊、1人の人として、すてきな人生の歩み方をしている女性の本があります。
「ビル・ゲイツの妻」ではなく「メリンダ・ゲイツ」として
元夫であるビル・ゲイツと運営していた慈善財団の共同議長を退任し、次のステージへ進むことを発表したメリンダ・ゲイツ氏。メリンダの著書『 いま、翔び立つとき 女性をエンパワーすれば世界が変わる 』(久保陽子訳、光文社)は、世界で女性の地位向上に取り組むメリンダ氏の思いや、夫だったビル氏との生活についてつづった1冊です。
「ビル・ゲイツの妻」ということ以外に、メリンダ氏がどんな人物なのかを私は知りませんでしたが、この本を開いてみると、彼女自身もマイクロソフトで働いており、エンジニアとしても一流だったこと、実は猛烈な仕事人間だったということ、自分が得たものを社会にどう還元するか責任を持って取り組んでいること――。そうした等身大の彼女の姿を知ることができました。女性は「○○の妻」と見られることも多いですが、結婚後も変わらずに自立した人生を歩む姿は、とてもすてきだと思いました。
そんなメリンダ氏が、ビル氏との27年間の夫婦関係に続き、慈善財団のパートナー関係も解消して、正真正銘、自分だけの夢に向かってどんなネクストステージを進もうとしているのか。私も楽しみにしているところです。
人生を長く楽しむことが「成功」なんじゃないか
私が代表を務めるGENDAでは、「2040年に世界一のエンターテイメント企業になる」という目標を、20年かけて達成しようと考えています。私自身のキャリアにおいて、これほど長期的な目標を設定するのは初めてですが、人生の新たなフェーズを大いに楽しもうと思っています。
簡単な目標ではありませんし、まずは来年どうするかを考えないといけませんが、北極星のようにブレない目標があることで、自分の言動にも一貫性を持たせられる気がします。組織としても、メンバーで共通の北極星を持っていると、決断やアクションに迷いがなくなるように感じています。今日はどうやったらその北極星に近づいていけるのか。道のりはまだまだ長いですから、その過程を楽しむことを忘れないでいたいです。
ゴールドマン・サックスにいた頃の私は、誰より早く出世して40代でリタイアすることが「成功」だと思っていました。でも今は、人生を長く楽しむことが「成功」なんじゃないかと思っています。
取材・文/金澤英恵 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 本写真/スタジオキャスパー


