成長するためには、自分自身の課題に対して周囲から耳の痛い助言を受けることも必要です。多くの人がそのことを理解してはいるのですが、素直に受け止めるのはなかなか難しいものです。自分の中にある拒絶反応を理解し、コントロールするための方法を『 フィードバック経営 「沈黙の組織」から「高め合う組織」へ 』より、抜粋して解説します。

(写真:WesJVR/peopleimages.com/stock.adobe.com)
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 成長意欲はある。自分は変われると信じてもいる。それでも、厳しい一言を前にした瞬間、身体が先に反応してしまうことがあります。

 会議が終わったあと、上司がさらっと言いました。「今回の提案、ちょっと準備が甘かったですね」

 言われた瞬間、胸がひやりとする。「いや、ちゃんとやった」と言い返したくなる。同時に「評価が下がるかもしれない」という不安もよぎる。「認めたら立場が弱くなる」という計算も走る。思考が混線して、肝心の中身が耳に入らなくなってしまいます。

 こうした反応に心当たりがあっても、自分を責める必要はありません。厳しい指摘を受けたとき身構えるのは、人間として自然な反応です。

 感情をなくそうとしなくて構いません。そうした反応が起きたあとで、冷静さを取り戻す方法を持っておく。それだけで十分です。

まずは冷静に受け止める

 反論したくなった瞬間、最初にやるべきは口を開くことではありません。自分のなかで何が起きているかに気づくことです。

 「あ、いまカッとなっている」「否定された気がして、怖いんだな」「悔しい」「見透かされた気がする」

 名前は何でもかまいません。一言でいい。「カッとなっている」と気づいた瞬間、あなたは「カッとなっている自分」を一歩引いて見ています。感情の渦中にいるのと、渦を眺めているのでは、次の一言がまるで違います。

 気づいたら、間を取ります。

 「ありがとうございます」「伝えてくれて助かります」

 反論でも同意でもありません。ただ受け取ったことを示す。このわずかな間が、自分の頭を冷やす時間になります。

 カッとなりやすい人は、意識して深呼吸をひとつ挟んでみてください。アンガーマネジメントの研究では、怒りの衝動は数秒で峠(とうげ)を越えるとされています。その数秒をやり過ごすだけで、反射的な言い返しを防げます。

「事実」と「解釈」を分ける

 感情が少し落ち着いたら、次は「自分はいま、何に反応しているのか」を確かめます。

 先ほどの場面に戻ってください。上司に「準備が甘かった」と言われた直後、頭のなかでこんな声が走り始めていませんか。

 「能力がないと思われた」「もう信用を失った」「評価が下がるかもしれない」

 上司が口にしたのは「準備が甘い」の一点です。ところが数秒のうちに、「能力」「信用」「評価」にまで話が膨らんでいる。膨らんだ部分はすべて、自分が付け足した「解釈」です。

 「提案の準備」という行動への助言だったはずが、「自分の能力や人格」への否定にすり替わってしまっています。苦しくなるのは当然です。

 ここで2つ、自分に聞いてみてください。

相手は、具体的に何を見て、そう言ったのか。
自分は、それをどう解釈して、反応したのか。

 この2つに答えようとするだけで、相手が言った「事実」と自分が付け加えた「解釈」の輪郭が見えてきます。

 相手が口にしたのは、あくまで今回の準備についてです。「あなたは無能だ」とは言っていません。その区別がつくだけで、胸のつかえが少しほどけます。

 さらに一歩踏み込んでみてください。指摘されているのは「今回の行動」であって、「あなたの人格」ではありません。準備の仕方は次回変えられます。しかし人格への否定と受け取ると、「自分はダメな人間だ」と結論づけてしまい、身動きが取れなくなります。

 「これはやり方への指摘だ。やり方は変えられる」。その一言が、次の行動を開いてくれます。

 頭のなかだけで整理しようとすると、堂々巡りになりがちです。そんなときは紙を一枚出してください。

 左に「相手が言ったこと(事実)」、右に「自分が感じたこと(解釈)」。並べて書き出すと、自分のなかで曖昧だった区別がはっきりしてきます。書いているうちに、感情が少しずつ落ち着いていきます。

認知の歪みを知る

 事実と解釈がうまく分けられないのは、意志の弱さではありません。ストレス下で脳が自動的につくり出す「認知の歪み」が原因です。自分がどのパターンにおちいりやすいかを知っておくだけで、対処のしかたが変わります。

* デビッド・D・バーンズ著『いやな気分よ、さようなら 自分で学ぶ「抑うつ」克服法』(野村総一郎ほか訳、2004年、星和書店)。「10の認知の歪み」は増補改訂2版のバーンズの分類に基づく。

代表的な10の認知の歪み
代表的な10の認知の歪み
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 代表的な認知の歪みは、10種類に整理されています。すべてを覚える必要はありません。

 フィードバックの場面で特に引っかかりやすいのは、3番のレッテル貼り、7番の結論の飛躍、9番の白黒思考です。いずれも、部分的な指摘を「人格の否定」や「もう終わりだ」という結論へと拡大してしまうパターンです。

 歪みそのものは、消そうとしなくて構いません。「あ、いまレッテル貼りをしているな」と気づけるだけで、事実と解釈の切り分けがぐっとやりやすくなります。

 認知の歪みは大なり小なり誰にでも起こりえます。リストにある歪みがいくつか当てはまっても、悲観する必要はありません。

 私自身の場合は、8番の「べき思考」がとても強く出ていました。「自分はこうあるべきだ」「相手はこうすべきだ」。

 その枠に収まらないと、自分を責めてクヨクヨしたり、相手に苛立ったりしていました。ギャップフィードバックを受けると、「こんなことまで指摘されるなんて、自分はまだまだだ」と落ち込んでしまう。

 しかしあるとき、この思考パターンそのものが認知の歪みなのだと気づいてから、受け止め方がずいぶん楽になりました。指摘はダメ出しではなく、まだ伸びる余地を教えてくれている。そう受け取れるようになりました。

 先ほどの「事実と解釈」の2欄メモに、もう2欄足してみてください。

 「どの歪みか」と「それに気づくと受け止め方がどう変わるか」です。

 自分がどのパターンに引っかかりやすいか、見当がつきます。

認知の歪みに気づくための4欄メモ
認知の歪みに気づくための4欄メモ
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