子育ては、日々の生活から、学校選び、習い事まで、実にさまざまな選択の連続です。子育てという「正解」のない営みについて、親が抱える不安や悩みをどう捉えていけばよいのでしょうか。ハーバード大小児精神科医の内田舞さんによる初の育児書『小児精神科医で3児の母が伝える 子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』から抜粋して再構成。

日々、大量の決断にエネルギーをそがれてしまう

 子育ては、びっくりするほどたくさんの、細かい判断の積み重ねです。そしてその判断に、大量の時間と精神的なエネルギーを使います。でも、おそらく自分以外の人には、そこにどれだけの時間やエネルギーを費やしているかは、なかなか伝わりません。

 少し前ですが、コロナ禍が収まってきたころ、引っ越しをしたこともあって、息子を転校させることにしました。この決断には、多くの時間や精神的なエネルギーを使いましたし、大変に悩みました。既にコミュニティが出来上がっているところに、転校生として入ってなじむことができるのか。

 今まで通っていた私立の学校は、比較的自由で子どもの自主性を育むという方針を掲げていましたが、引っ越した先の新しい地域の公立の学校は、よりきめ細かく子ども一人ひとりを見てさまざまなプログラムを提案してくれるところだと聞いていました。どちらも「方針」としては賛同できるものですが、実際どうなのか、そしてそれが息子に合うかどうかは、どんなにいろいろと下調べをしても実際に通ってみないとわかりません。

 悩みに悩みましたし、勇気も要ったのですが、引っ越し先の公立学校を試してみようと思い、最終的に変えることに決めました。今、息子たちは楽しそうにその学校に通っており、学業だけでなく、人生の芯となるモットーを学ばせてもらっていると感じるので、この小学校でよかったと思えます。しかし、それでも「もしかしたら、前の学校のままでもよかったのかもしれない」と思うこともあるのです。

 転校した後、友人に、いかに悩んで決めたのかについて話したのですが、「この大変さはちょっと伝わらないかもしれないな」という気もしました。このように、端から見ると「どっちでもいいじゃない」というくらいの小さな判断に見えることでも、親にとっては悩みに悩んだ末の一大決心であることも多いのです。

子どもに関する選択は「正解」がなく、悩みが尽きない。誰かに話してもわかってもらえないのではないかと思ってしまう(写真:koumaru/stock.adobe.com)
子どもに関する選択は「正解」がなく、悩みが尽きない。誰かに話してもわかってもらえないのではないかと思ってしまう(写真:koumaru/stock.adobe.com)
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 親には絶えず、さまざまな判断が求められます。子どもを何時に寝かせるか。約束の時間を15分過ぎるのはOKか、では5分はどうか。どんな習い事をさせるか、「やめたい」と言われてすぐにやめさせるか、少し様子を見た方がいいか……。一つひとつは小さいことのように感じるかもしれませんが、迷うことは多いですし、積み重なると膨大なエネルギーを消耗します。

 先日ネットで目にした漫画で、似たような悩みを抱える母親のストーリーがありました。子どもを塾に行かせているが、勉強が大変になってきた。習い事をやめさせて勉強に集中させる方がいいのか悩み、夫に相談しようとしたけれど、夫は仕事の帰りが遅く、帰宅しても「疲れているんだから、そんな小さなことで相談してくるなよ。子どものことは全部君に任せているんだから」とまともに取り合ってくれない……。

 似たような状況にあるご家庭は多いのではないかと思います。我が家は幸い、夫と相談しながら子育てをしていますが、それでも十分大変です。ただ少なくとも、こうした決断を担うことの大変さを、理解してくれる夫がいて、意見を言ってくれることは、大きな支えになっています。その意見が私とまったく違うこともあり、「そんな発想はなかった」と思って夫のアイデアを採用するとそれがうまくいくことも多く、ありがたいと思っています。

SNSでもつらさや喜びを分かち合えたら

 つらさや悩みを1人で抱え込み、孤立感を持つようになると、どんどん気持ちがネガティブになります。でも、子育ての大変さを少しでも理解し、共感してくれる人がいれば、負担感は随分軽くなるものです。

 そして、大変さだけでなく、子育ての喜びも分かち合う相手がいると大きな支えになります。それは本当に小さなことであって、例えば先日、一番下の息子が、最近もらったばかりのウサギの人形をギューっと抱きしめていた姿が本当にかわいかったのです。すぐに夫に「ねえ、○○がウサギさんをギューっとしているよ」と伝えて、2人で「かわいいね」と言いながら見ていました。本当に何でもないことですが、1人でかみしめるだけでなく、誰かとその喜びを共有できることが、本当にうれしかったです。

 こうした気持ちを分かち合う相手は、必ずしもパートナーでなくても、友達でも誰でもいいと思います。身近にそういう相手がいない場合は、本当はSNSがそういう場であればいいのにと思います。今、SNSではなかなか子育ての大変さや喜びをシェアしにくい状況になっているのは、本当に残念です。どんな投稿に対してもネガティブなコメントが付くことが多く、素直に共感しあったりねぎらったりできる雰囲気ではなくなっているからです。

日々起きていることを誰かに共有できることで、親の負担感は軽減する。SNSでも非難ではなく共感が広がることが望ましい(写真:naka/stock.adobe.com)
日々起きていることを誰かに共有できることで、親の負担感は軽減する。SNSでも非難ではなく共感が広がることが望ましい(写真:naka/stock.adobe.com)
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 例えば、SNSなどで自分の子どもを褒めると、それは相手より自分が上に立つことが目的なのではないか、「マウント」を取るために言っているのではないかと受け止められてしまうことがあります。でも、子どもへの「誇り」をシェアすることと「自慢」や「マウント」は違うものだと思うのです。誰かの上に立つとか、誰かを下に見るとかではなく、自分の子どもに対して素直に「すごいな」と思ったり、親としてうれしく感じたりしたことを、もっとシェアしながら、みんなで喜び、祝っていけたらいいのにと思うのです。なかなか外的評価を受ける機会のない育児、そして孤立しがちな育児だからこそ、自分が子育ての中で経験した小さな成功体験を共有して、みんなで「いいね」と言い合い、喜び合えたらいいのにと思います。

ハーバード大小児精神科医で3児の母でもある内田舞さん、初の育児書!

内田也哉子氏(エッセイスト)推薦「子育てを見つめると、多様な世の中が見えてくる。本書は、こどもを育てる人々への道しるべであり、心の所在をしなやかに探すための大いなるエールなのです」

内田舞著/日経BP/1760円(税込み)