職場におけるコミュニケーションの断絶を、才能という観点から鮮やかに斬り、物語にしたベストセラー『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』(日本経済新聞出版)。本書から抜粋する連載2回目は、「天才と秀才」「天才と凡人」「秀才と凡人」という二つの才能を掛け合わせたアンバサダーの役割について。彼らが媒介者になるからこそ、コミュニケーションの断絶が避けられている。
前回、ハチ公から、才能をめぐる「天才・秀才・凡人」の構図を学び、自らの「共感性」という強みを理解した青野。しかし、「凡人」の自分が、「天才」アンナをどのように支えていけばいいのか、わからないでいる。そこでまた、「ハチ公」は青野にアドバイスを贈る。
世界の崩壊を防ぐ人たち
「おめ、不思議ちゃうか?」
「不思議?」
「んだ。もし、この世に三つの才能があったとして、軸が異なるとコミュニケーションが成り立たないとしよう。そしたら、会社なんて、なんで成り立つんや?」
「たしかに。言われてみたらそうです」
「んだべな、実は、コミュニケーションの断絶を防ぐ際に、活躍する人間がいる。『アンバサダー』と呼ばれる人たちや(図1、図2)」
「アンバサダー?」
「そや、彼らは二つの才能を掛け合わせた人物や。たとえば『創造性と再現性』『再現性と共感性』というふうにな。
まず『エリートスーパーマン』と呼ばれる人種は、『高い創造性と再現性』を兼ね備えている。だが、共感性は1ミリもない。わかりやすいアナロジーで言うと、投資銀行にいるような人やな」
とにかく仕事ができまくるサイボーグのような人。そういうことだろうか?
僕は話を聞いた。
「次に『最強の実行者』と呼ばれる人は、何をやってもうまくいく、『めちゃくちゃ要領の良い』人物や。彼らは、ロジックをただ単に押し付けるだけではなく、人の気持ちも理解できる。結果的に、一番多くの人の気持ちを動かせ、会社ではエースと呼ばれている。そして、一番モテる」
後輩や周りから好かれ、人をたくさん動かせるリーダー。そんな感じだろうか?
「最後に『病める天才』は、一発屋のクリエイターがわかりやすい。高いクリエイティビティを持ちつつも、共感性も持っているため、凡人の気持ちもわかる。優しさもある。よって、爆発的なヒットを生み出せる。ただし、『再現性』がないため、ムラが激しい。結果的に、自殺したり、病んだりすることが多い」
感性が豊かなクリエイター気質な人。だろうか?
「まず、組織が崩壊していないのは、この『3人のアンバサダー』によるところが大きい。良い組織は必ず、お互いの才能を殺し合うのではなく、支え合いながら進化していく。そこで暗躍するのがこの3人や」
天才と秀才の橋渡し。創造性もあり、再現性もある。つまり、クリエイティブでロジックにも強い。一代で大企業を作り上げるような社長がわかりやすい。彼らは何よりビジネスが大好きで、常に研究者であり、挑戦者でもある。一方で、部下は彼らのスピードや思考についていけないこともある。したがって「外から見ると凄(すご)いが、部下につくと大変」であることも多い。
秀才と凡人の橋渡し。再現性と、共感性を武器に持つ。つまり、ロジックも強くて、人の気持ちもわかる。まさにどの会社にもいる「エース」。学生時代から常に組織の中心にいて、就職活動も器用にこなし、行きたい会社に行く。営業と開発、正社員とアルバイト、本社部門と現場などをつなぐ。プロジェクトマネージャーとしても大活躍する。ただし、新しいことをやらせると「既存のサービス」の焼き直しになり、革新的なものは生まれないのが弱点。
天才と凡人の橋渡し。創造性と、共感性を武器に持つ。クリエイティブなだけではなく、それが世の中の人々の心を動かすか? インサイト(潜在的な欲求)に届くかどうか? まで、直感的にわかる。自分らしさを表現しつつも、マーケットインの考えもでき、プロダクトや事業などの責任者に就任すると、圧倒的なスピードでサービスを拡大できる。ただし、構造的に捉えることが苦手なため、他部署との調整や、組織の拡大、部下への権限委譲で失敗することが多い。
「三人のアンバサダー……」
「ええか。今の君に必要なのは、パートナーを探すことや。もし組織の中でコミュニケーションがうまくいかないとしたら、相手のパターンと自分のパターンをつないでくれる人物を探すんや。君の場合やと、秀才との間に入ってくれる人物や」
「『秀才タイプ』と『凡人タイプ』をつなぐ人、ですか」
「んだ。つまり、間に入ってくれる『最強の実行者』を見つける必要がある。他人の意見もきちんと受け入れる耳もありつつ、それでいて、自分の主張もはっきりと述べることができる人物。思い当たる人物はいないか?」
僕は社内の人間を思い出した。
一人だけ思い当たる人がいた。
(回想シーン)
とりなすような後輩の言葉をさえぎり、
「でもよ、青野。仮に百歩譲って、そうだとしても、つまり、彼女が終わってないとしても、それをうまく見せるのがお前の仕事じゃないのかよ?」
「え? どういうことだよ?」
「広報って〝見せ方〞のプロ。そういう仕事じゃねえのかよ?」
「……まぁそうだけど……」
「だとしたら、お前のほうが無責任だろ」
同期の横田は、たしかに上納アンナに対して懐疑的だ。一方で相手の話を聞く耳を持っているし、弁が立つ。彼かもしれない。
「でも、質問が一つあります。仮に、最強の実行者を見つけたとしても、どうやったらその人の協力を得られるでしょうか? そもそも凡人タイプは論理性が弱いから、彼らを説得できないですよね」
「ええ質問やな。凡人が『最強の実行者』を巻き込む方法がある。それはな、キラークエスチョン、『あなたならどうしますか?』と聞くことや」
「キラークエスチョン……??」
「最強の実行者」を巻き込む方法
「ええか、そもそも、秀才タイプ、つまり再現性を大事にする人には、必ず『自分なりのベストなやり方やルール』が存在する。仕事の進め方を研究し、言語化しているわけやな。ただ、このやり方を他人にも伝えるか、自分だけのものにするかどうか。押し付けるか、押し付けないか、は、人それぞれや。勉強を教えてあげる秀才もいれば、自分のことだけ考える秀才もいる。学校でもそうやったやろ?」
「……イメージはつきます」
「そして、この二つは、その秀才が『共感性を持つかどうか』で決まることが多い。人の気持ちや、他人の感情を理解できる最強の実行者は、大体のパターンで『聞かれれば、誰かに教えること』を厭わへん。できない人の気持ちも理解できるからな。だからこそ、一番モテるわけやな」
「たしかに、ガリ勉ではなく、教えるのが得意な秀才は、一番人に好かれるイメージがあります。クラスや会社に一人は必ずいます」
「そしてそんな彼らに助けを求める最強の質問が『あなたならどうしますか?』と自ら教えを請い、その方法を愚直にやってみることや。これができへん凡人がホンマに多いんやけどな」
世の中には天才と秀才と凡人がいる。凡人は天才を理解できず、排斥する。秀才は天才に憧憬と嫉妬心を持つが、天才は秀才にそもそも関心がない――。職場におけるコミュニケーションの断絶を、才能という観点から鮮やかに斬った話題のベストセラー、いよいよ文庫化。
北野唯我著/日本経済新聞出版/990円(税込み)



