今の子どもたちが社会人になった時にはAIが今より普及し、多くの仕事をAIが代替するようになっているはずです。それを見据え、大人たちは子どもに何を教えるべきでしょうか。書籍『 わが子に教える AI時代に必要な7つの能力 』(日経BP)では、学校では教わらないけれども、親が子どもに教えるべき未来の能力を7つ挙げました。本特集では、7つの能力のうち1つ目に挙げた「ファクト眼」について解説します。今回は「ファクト眼」を養う前提として、「クリティカル・シンキング」と共に重要な「ロジカル・シンキング」について触れます。

論理的な説得ができるようにしてあげる

 ファクト眼を育てるために、もう1つ身に付けさせてほしいのが、ロジカル・シンキング(論理的な思考力)です。こちらもクリティカル・シンキングと同様に一見難しく感じられますが、シンプルに考えてください。

 ロジカル・シンキングを身に付けるコツは、第三者に話をするときに、「結論→理由」の順でわかりやすく話せるかどうかをチェックすることなんです。

 このロジカル・シンキングの大切さを、僕は社会人になってから身に染みて感じました。大人の世界では、物事をロジカルに考えられるかどうかが、頭の良さの重要な指標なんですね。ところがそれほど大事なロジカル・シンキングについて、僕たちは子どもの頃に学校でも家庭でも教わる機会がなかったんです。

 だからこれからは、せめて家庭ではロジカル・シンキングの大切さを教えてあげるべきだと思います。

 それではどうやって子どもにロジカル・シンキングを教えればいいのでしょうか。

 最もお薦めなのは、子どもにプレゼンをさせることです。子どもは新しい自転車が欲しいとか、ゲーム機が欲しいとか、あるいはスマホが欲しいなどと、いろいろな要求を出してきますよね。そのときに、頭ごなしに「ダメ、買いません」とか「他の子も持っているなら仕方ないわねぇ」などと対応してはもったいないです。こんなときこそ子どもにプレゼンをさせてロジカル・シンキングを身に付ける機会にするんです。

(写真:zilvergolf/stock.adobe.com)
(写真:zilvergolf/stock.adobe.com)

 わが家でも先日、小学校6年生になる長女が「子供部屋が欲しい」と言ってきたんですよ。そのとき、わが家では大きな要望があるときはプレゼンするように教えてありましたから、長女は自らパソコンで資料を作成して妻と僕にプレゼンしたんですね。ちなみに資料もしゃべる内容もすべて英語です。

 そこには、子供部屋が欲しいという「結論」があり、なぜ欲しいのかの「理由」が示され、しかも子供部屋があることで家庭にどんなメリットがあるのかという「効能・効果」までロジカルに説明されていました。

 さすがに妻も僕も十分に納得できましたので、子供部屋を作ってあげることにしたんです。

 今、パソコンを使ってプレゼンした例をお話ししましたが、さすがに子どもが最初からパソコンを使うのは難しいので、最初はスケッチブックに手書きで文字やイラスト、矢印などを描く方法から遊ぶようにして練習させるといいでしょう。親が一緒に考えながら描いてあげてもいいですよね。「うん、うん、それじゃあ、コレがあるとどんないいことがあるのかな?」みたいに語りかけながら描かせていくんです。

 あるいは口頭で話すだけでもいいんですよ。教育学者の齋藤孝氏(明治大学文学部教授)も、頭が良いというのは、できるだけ短い時間で、できるだけわかりやすい言葉で、100%誤解なく自分の考えを伝えることができる人だと言っています。僕も、子どもたちにはこのことの大事さを常に伝えています。

 このようにロジカル・シンキングを教えなければ、子どもはお小遣いが欲しい、あれを買ってほしいなどと、いつまでたっても自己中心的で感情的な表現しかしません。だから誰が聞いても納得できるように、感情的ではなく論理的な説得ができるようにしてあげることが大切なんですね。

親もロジカル・シンキングで

 ところでもう1つ、子どもからプレゼンまたはロジカルで上手な説得をされたときに大事なことがあります。それは、その話に対して賛同できたのかどうか、賛同できた場合はどこに賛同できて、その話がどんなふうに上手だったのかを伝えてあげることです。もし賛同できなかったとすれば、どの部分に納得できなかったのか、あるいはどの部分がロジカルではなかったのかをフィードバックしてあげることです。

 このフィードバックがないままに「やっぱりダメなものはダメ」的な反応をしてしまうと、子どもからすれば「自分なりに精いっぱいロジカルに話したつもりなのに、もう最初から親の答えはNo!って決まってたんじゃん」とロジカル・シンキングをやめてしまいます。もちろん、賛同したときも、「最初は反対意見だったけど、話の●●の部分に納得したから考え方が変わったよ!」と伝えてあげれば、子どもも「やっぱりロジカル・シンキングは大事なんだな」と考えるようになっていきますよね。

 つまり、子どものロジカル・シンキングに対しては、親もロジカル・シンキングで返してあげることが大切なんですね。

 こうして子ども自身がロジカルに考えたり話したりできるようになると、次第に相手がロジカルに考えて話しているかどうかが気になるようになりますから、その話のファクトをチェックできるようになるんですね。自分がロジカルでない人は、相手がロジカルでないことにも気が付かないんです。

 さて、ここで再び練習問題です。

 以下のニュースは、実際にネット上をにぎわせたものですが、皆さんはこのニュースをロジカルに分析できますか?

オランダの公園でムクドリ約337羽が突然死した事件

 2018年10月にオランダのハーグにある公園で、ムクドリ約337羽が死んでいるのが見つかりました。当時この公園付近で5Gアンテナの動作テストを行っていたため、「5Gの電波が鳥を殺した。人体にも悪影響だ」というニュースが瞬く間に広がりました。

 ここでちょっと事実関係を調べてみるんです。

  • 5Gアンテナの動作テストは4カ月前の6月に終了していた。
  • 世界中では5Gアンテナ付近で鳥を含め生物が大量死した報道がない。

 これだけの情報を冷静に調べれば、5Gの電波で鳥が大量死したニュースがフェイクであることが明らかになります。

 ちなみに鳥が大量死したこと自体は事実だったようですが、原因は判明していません。外傷があり木や壁にぶつかった可能性が高いそうです。鳥類は大きな音などに瞬間的に反応し一斉に壁や木にぶつかることがあるようなので、そのせいかもしれませんね。

 このニュースはSNSを通じてあまりに世界中に拡散されたため、各国のファクトチェックサイトで「フェイクニュース」と断定されました。

 アメリカのファクトチェックサイトSnopes
(https://www.snopes.com/fact-check/5g-cellular-test-birds/)

 イギリスのファクトチェックサイトFull Fact
(https://fullfact.org/online/birds-5G-netherlands/)

 インドのファクトチェックサイトFactly
(https://factly.in/no-297-birds-did-not-die-in-the-netherlands-due-to-a-5g-test/)

 ちなみに日本の主要ファクトチェックサイトである以下のサイトでは掲載されていませんでした。

 ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)
(https://fij.info/)

 日本ファクトチェックセンター(JFC)
(https://www.factcheckcenter.jp/)

 そもそも日本ではこのフェイクニュースが有名ではないからだと思います。

 他にも5GアンテナをめぐってはCOVID-19を助長させたというフェイクニュースが拡散して、イギリスでは5Gアンテナが放火されたり、壊されたりする事件も起こって逮捕者も複数人出ています。

 モバイル専門調査機関の大手であるMMD研究所とマーケティングリサーチ会社であるテスティーが2019年に行った調査によると、スマホを所有する中高生のうち26.3%はフェイクニュースにだまされた経験があるそうです。生成AIが進化する未来で、この数字はますます大きくなることが容易に想像できます。

 「フェイク眼」を養うことは、とても大切だとわかりますね。

(書籍『わが子に教える AI時代に必要な7つの能力』を基に再構成)

日経クロステック 2026年5月20日付の記事を転載]

AI時代でも価値が劣化しない「人間の力」とは? AIの浸透で、フェイクが増え、技術が答えを教えてくれ、情報も人も個性を失い、分断が進み、先人の知恵が役に立たず、お金を稼ぎにくく、変化が激しい時代がやって来ます。本書はこの現実を直視し、親が家庭で教えるべき7つの能力「ファクト眼」「クエスチョン・デザイン」「スピークアップ」「ソーシャルスキル」「レジリエンス」「マネーユース」「ライフハンドリング」を提示します。

友村晋(著)/日経BP/1980円(税込み)