日経クロストレンドの新刊『 コンペ荒らしが実践する生成AI「超」企画術 “問いの技術”で勝ち筋を導く7つの創造ステップ 』は、広告代理店、インターネットメディア、コンサルティングファームにおける著者の経験から、企画という仕事の一連のプロセスに、生成AIをどのように組み込むかを解説。企画の現場ですぐに使えるプロンプトも豊富に紹介しています。本書籍から第2章「アイデアを磨く──企画をとがらせる『仮説破壊』」を抜粋・再編集してお届けします。その第3回。[日経クロストレンド 2026年6月17日付の記事を転載]
反応は見えた。しかし、まだ浅い
擬似ユーザーに企画をぶつけたことで、違和感や不安は見えてきました。価格が高いのではないか、時間が取れないのではないか、効果が本当にあるのか疑わしい……。いずれももっともな反応です。
しかし、それらはまだ表層です。
「忙しくて続かない」
「効果があるか不安」
「値段が高いと感じる」
これらは行動の理由に見えますが、実際には顕在化している、本人がそこにいたとしたら説明可能な理由にすぎません。企画を強くするために必要なのは、まだ顕在化していない、本人も説明できない理由、すなわちインサイトです。
不満とインサイトは違う
まず整理しておきたいのは、不満とインサイトは同じではないということです。
不満は、本人が言語化できるものです。「時間がない」「面倒」「高い」といった言葉は、不満です。アンケートでも回収できますし、インタビューでもそのまま出てきます。
一方でインサイトは、その奥にある葛藤や矛盾です。例えば、「時間がない」と言う人の奥には、「自分を後回しにしていることへの罪悪感」があるかもしれません。「効果が不安」と言う人の奥には、「せっかく努力したのに失敗するのが怖い」という感情が潜んでいるかもしれません。
行動を促すのは、表層の不満ではなく、深層の意味構造です。企画が弱くなるのは、不満のレベルでとどまってしまうからです。
生成AIで「もう一段下」へ
インサイトを深掘りするためには、問いを変えます。
「上記の人物が、美容習慣が続かないと感じる背景にある、本質的な感情や葛藤を推測してください」
この問いに対してAIは、自己効力感の低下、他人との比較疲れ、完璧主義による挫折、成果を急ぎ過ぎる焦燥感などを提示するかもしれません。
ここで重要なのは、提示された内容が正しいかどうかではありません。「それはあり得る」とあなたが反応するかどうかです。インサイトはデータではなく、違和感への反応から見えてきます。
「なぜ」を重ねる
インサイトに近づく最も単純で強力な方法は、「なぜ」を重ねることです。例えば、「忙しくて続かない」という発言があったとします。
「なぜ忙しいと続かないのか」
「なぜ優先順位を下げてしまうのか」
「なぜ自分のことを後回しにするのか」
この往復をAIと行います。
「忙しくて続かないという発言の背景にある心理を、『なぜ』を3回重ねる形で整理してください」
AIは、時間の物理的不足から優先順位の低さ、さらに自己価値の認識へと掘り下げていくかもしれません。ここで得られるのは、行動の奥にある意味です。
感情と行動を切り分ける
インサイトを扱うとき、混同しがちなのが感情と行動と信念です。
「使わない」は行動です。
「面倒」は感情です。
「どうせ続かない」は信念です。
これらを混ぜると、設計がぼやけます。そこで、AIに整理させてみましょう。
「上記の要素を、行動・感情・信念の3つに分類してください」
この整理によって、「何を変えれば行動が変わるのか」が見えてきます。行動を変えるには感情に触れる必要があります。感情に触れるには信念を理解する必要があります。インサイトは、このつながりの中にあります。
インサイトは「共感」ではなく「緊張」を生む
インサイトは本人にとって、少し不快です。
例えば、インサイトとは、「欲しいもの」よりも「避けたいもの」に近いことが多いのです。恥をかきたくない、失敗したくない、責められたくない。こうした回避の感情は、購買理由としては表に出にくい。しかし、継続行動には強く影響します。
往々にして生成AIは整った言葉を返してきます。しかし、インサイトは必ずしも美しくありません。AIが「それっぽい」回答をしてきたときは、ぜひあまのじゃくな視点になって疑ってみましょう。違和感に触れたとき、企画は一段深くなります。

清水覚(著)/日経BP/2200円(税込み)

