日経クロストレンドの新刊『 コンペ荒らしが実践する生成AI「超」企画術 “問いの技術”で勝ち筋を導く7つの創造ステップ 』は、広告代理店、インターネットメディア、コンサルティングファームにおける著者の経験から、企画という仕事の一連のプロセスに、生成AIをどのように組み込むかを解説。企画の現場ですぐに使えるプロンプトも豊富に紹介しています。本書籍から第2章「アイデアを磨く──企画をとがらせる『仮説破壊』」を抜粋・再編集してお届けします。その第4回。[日経クロストレンド 2026年6月18日付の記事を転載]
なぜ人は自分の企画を守ろうとするのか
多くの企画者は、反論を恐れます。会議で否定されること、粗を突かれること、穴を指摘されること。しかし、反論は敵ではありません。さらに企画を良くしてくれる材料です。
企画が弱いから反論されるのではありません。反論に答えられない企画が弱いのです。
「価格が高い」「差別化が弱い」「市場が小さい」「実現性が低い」││。これらは典型的な反論ですし、どれも予想できるものです。予想できる反論に準備がないということは、そもそも考えが甘いということです。
生成AIを「反対派」にする
ここで生成AIを使います。今度は整理役でも、擬似ユーザーでもありません。社内の否定役になってもらいます。
「この企画に対して想定される厳しい反論を、この企画を決裁する立場で列挙してください」
AIは、収益性への疑問、差別化の弱さ、既存商品とのカニバリゼーション、実行コストの増大などを提示してきます。ここで重要なのは、出力の内容そのものよりも、「自分が一番嫌だと感じる反論はどれか」を知ることです。嫌な反論こそ、弱点に近いのです。
反論は、カテゴリーごとに見ることです。多くの場合、反論は大きく3つに分けられます。
第一に、「数字」に関する反論。市場規模、収益性、投資回収期間といった定量面の懸念です。
第二に、「戦略」に関する反論。既存商品との整合性、ブランドとの適合性、長期方針との一致といった文脈の問題です。
第三に、「実行」に関する反論。人員負荷、オペレーション変更、社内調整コストなど、実装面の懸念です。プロンプト自体にそれらの視点を入れてしまうのも手です。
AIが提示する反論をこの3つに分類すると、「どのカテゴリーが弱いのか」が見えてきます。すべてに均等に答えようとするのではなく、最も致命的になり得るカテゴリーを特定します。
反論を深掘る
列挙された反論に打ちひしがれそうになりますが、そのまま流してはいけません。表面的な言葉に反応するのではなく、その奥にある構造を探ります。さらに掘っていきましょう。
「価格が高いという反論の背景にある本質的な懸念を整理してください」
するとAIは、「価格に見合う価値の説明不足」「投資回収の不透明さ」「顧客が比較する代替手段の存在」などを提示するでしょう。
反論の奥には、必ず懸念があります。懸念は、論理的なものもあれば、感情的なものもあります。反論を表面的に潰すのではなく、「反論する人は何を恐れているのか」「何を守ろうとしているのか」という視点で構造を理解することが重要です。
こう考えると、次のような問いかけも有効です。
「この反論が出る背景には、どのような過去の経験や失敗事例が想定されますか」
反論は、単なる否定ではなく、過去の学習の結果であることが多いからです。価格に敏感になるのは、過去に投資回収が失敗した経験があるからかもしれません。差別化に厳しくなるのは、類似企画で苦い経験をしているからかもしれません。
反論を受け入れた上で改善点を探る
反論を否定したり、反論に対する対策を練ったりするのは当然です。一方で、反論の本質的な懸念を踏まえると、受け入れたほうが妥当なこともあります。
「上記の反論が正しいと仮定した場合、企画を成立させるために何を変更すべきですか」
この問いによって、議論は防御から設計へと移ります。価格が高いのが事実なら、提供形態を変えるのか、段階的導入にするのか、補助的なサービスと組み合わせるのか。反論を前提に再設計することで、企画はもう一段強くなります。
重要なのは、「反論を消す」のではなく、「反論と共存する設計を考える」ことです。すべての反論を完全に無効化する必要はありません。むしろ、どの反論を受け入れ、どの反論と戦うのかを選ぶことが、軸を明確にします。
時に反論は弱点ではなく、方向性を明確にするヒントになります。価格が高いと言われるなら、「安さで勝つ企画ではない」と宣言する転機でもあります。
最も痛い反論をさせる
すべての反論に均等に対応する必要はありません。むしろ、それをやろうとすると企画は弱くなります。重要なのは、致命傷になり得る1点を見つけることです。
「この企画を否決に導く可能性が最も高い反論は何ですか」
AIは、最もクリティカルな論点を提示するでしょう。市場規模、収益性、競合優位性などが候補に挙がるはずです。
ここで得られるのは、守るべき急所です。そこが弱ければ、企画は通りません。逆に言えば、そこが揺るがなければ、他の細かな反論は致命傷になりません。ここで一歩進めます。
「なぜこの反論が最も致命的だと判断されるのか、背景にある評価基準を説明してください」
この問いによって、単なる論点ではなく、意思決定の基準が見えてきます。
例えば市場規模が問題視される背景には、「短期的な投資回収を重視している」という組織の前提があるかもしれません。収益性が懸念される背景には、「既存事業の利益率を下げられない」という経営判断があるかもしれません。
致命的な反論とは、企画そのものの問題というより、組織の評価軸と衝突する論点です。

清水覚(著)/日経BP/2200円(税込み)
