「ユニクロ」などを運営するファーストリテイリングを創業した柳井正氏は、常識を疑うことを勧めています。柳井氏が社内で経営者を育てるために書いた『 経営者になるためのノート 』(PHP研究所)を、コーン・フェリー・ジャパン前会長の高野研一さんが読み解きます。『 ビジネスの名著を読む〔リーダーシップ編〕 』(日本経済新聞出版)から抜粋。
業界の常識は未来の顧客の創出を妨げる
目標を高く持つことに加えて、柳井氏が発想を広げるために勧めていることが、常識を疑うことです。ファーストリテイリングの使命にも「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」とあるように、柳井氏は「経営者は常日ごろから常識と言われているものを疑い、常識にとらわれないで物事を考える思考習慣を持つようにしなければいけない」と語っています。
その背景には、会社の成長や社会の発展を妨げるものが「常識」であるという考えがあります。柳井氏自身、常識的な意見に幾度となく進路を妨げられてきたようです。
「フリースは、登山やアウトドアメーカーがやるものだ」
「ヒートテックのような商品はスポーツ店で売るものだ」
「ブラトップのような商品はインナーだ」
こうして勝手に線引きをして、自分たちのポテンシャルを自分たちで封じ込めてしまうことに警鐘を鳴らしています。柳井氏はこうした常識を打ち破ることで、新たな顧客を創出してきました。「業界は過去、顧客は未来、ライバルではなく顧客に集中する」と語るように、業界の常識は未来の顧客の創出を妨げるだけと考えています。
柳井氏はセブン-イレブンを例に挙げ、常識を疑うことで、「夏におでん」「冬にアイスクリーム」を食べるという新たな顧客層を創造したことを絶賛しています。セブン&アイ・ホールディングス会長だった鈴木敏文氏は、「明日のお客様が何を求めているかについて仮説を立てる」ことを重視していますが、柳井氏と同じ思想を共有していたことが分かります。
顧客の期待を超えた先にあるもの
もうひとつ、柳井氏が発想を広げるために実践していることとして、顧客の期待を超えることが挙げられます。顧客の要求水準が絶えず進歩していくことを踏まえ、それを上回る基準を設定せよと説いています。組織の中で行われるすべての仕事の基準をそのラインに設定し、絶対に妥協してはいけないと言っているのです。
お客様というのは、一度あるものを手にしたり、体験をしたら、そこが基準になります。そして次からは、その基準でものを見ていきます。
その結果、100円ショップであれ、回転寿司であれ、以前は考えもつかなかったぐらいに質が改善してきています。このため、自己満足に陥っていると、気がついたときには破壊的なイノベーションに巻き込まれ、自社の商品やサービスが顧客にとって存在感を失ってしまうという危機感を持っているのです。
そうならないためには、「世界で一番」の質の高さを自ら目指し、他社が追いつけないところまで到達すべきだと言います。そうした挑戦的なプロセスから、新たな収穫や学びが生まれると考えているのです。そして、自分たちがつくった基準がお客様の常識になることによって、その基準に達しないライバル企業を淘汰していくことを追求しています。これが圧倒的なポジションを獲得するということです。柳井氏はそれに成功した企業の例として、グーグルやアップル、ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーを挙げています。
顧客の期待を超えようと努力した結果として、ファーストリテイリングは新しい価値を次々と創出してきました。その代表例としてヒートテックが挙げられます。2003年にはじめて商品化したときは、保温性・発熱性を売りにし、150万枚を売り上げました。その翌年には、抗菌機能とドライ機能が加わっています。さらに、2005年には、保湿機能を加え、肌の乾燥を防ぎたい女性から圧倒的支持を受け、450万枚を売り上げました。
その後もさらに機能性、バリエーション、ファッション性を進化させるに至っています。いまや「冬といえばヒートテック」が新しい常識になり、男性・女性にかかわらず、あらゆる年代の人が買う市場を創造するに至っています。まさに社会的イノベーションといえるでしょう。
人気輸入商品の扱いをやめる
さらに、柳井氏はリスクを取ることも、発想を広げる上で必要だと考えています。「安定志向は経営をダメにする」と公言し、「会社を危険にさらしたくない」という思いが、実は逆に会社を危険にさらすと警告しています。会社を経営したことのない人は、追い風を受けて前に進んでいる状態が「正常な経営」だと勘違いしてしまうとまで述べています。
リスクがあるところには、圧倒的に一番になれる可能性があります。それは、多くの人がそれを恐れて、最初からあきらめてしまうからです。柳井氏は人が手をつけないからこそ、自分たちで商売を全部コントロールし、利益を独占できると考えます。
ファーストリテイリングは1998年にユニクロ原宿店をオープンするときに、販売するすべての商品を自社商品にすることを決断しました。ナイキやアディダスなどの輸入商品の扱いをやめたのです。当時のユニクロにおける人気商品の売り上げを返上するというリスクをあえて取ったのです。
リスクを避けようとすれば、売れる可能性のある商品は幅広く取り扱うという判断になるでしょう。しかし、その結果どれも中途半端な売り上げにしかならず、10%、20%増ならまだしも、売り上げを3倍増にすることなど遠い夢となってしまいます。実際、こうした状態に陥っている企業は少なくありません。
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