「リーダーシップ」と言われると、自分には関係ないと思いがちです。でも、チームはもちろん、自身の目標を達成させるのに、必要不可欠なスキルなのです。リーダーのための4つのチカラを学ぶ慶應義塾大学の講義「リーダーシップ基礎」は学年や学部はもちろん、理系や文系、大学院生も問わず受講希望がある人気講義です。その内容を書籍化した『日経文庫 リーダーシップのきほん 聴く 話す 決める 動かす』(田村次朗・古山彰著)から、抜粋して紹介します。第3回は、「リーダーのまわりで起こるコンフリクト」についてです。
コンフリクトを避ける日本人と気にしないフランス人
私たちは、Win-Winの結果を得ることを目指して交渉を行います。しかし、交渉が常にうまくいくとは限りません。必ずと言っていいほどトラブルや対立が起きることも事実です。交渉が決裂してしまうこともしばしばあります。このように交渉のさまざまな場面で生じるトラブルや対立を「コンフリクト」と呼びます。
「コンフリクト」という言葉は、日本では好意的には受け止められていません。コンフリクトとは「和を乱す」行為だと考えられているからです。その結果として、日本人の多くは、できるだけコンフリクトが生じないよう行動することになります。
一方で、コンフリクトをあまり気にしない国もあるようです。例えば、フランス人は、他人と異なる意見(つまり「オリジナリティー」)を重視し、反論は当然であり、他人にどう思われるかをあまり気にしないと言われています(スティーブン P・ロビンス著・ 『【新版】組織行動のマネジメント』ダイヤモンド社 )。
そもそもどんなに注意深く行動しても、コンフリクトが生まれないことはありえないと考えたほうがいいようです。つまり私たちの身のまわりでは、常に、どこかでコンフリクトが生じているということです。
コンフリクトの芽が生まれるのは、配慮が足りないから
コンフリクトはなぜ生じるのでしょうか。「人間は5つの核心的な欲求を持っていて、その一つがほんのわずかでも満たされない時に、コンフリクトの芽が生まれ、それが次第に大きくなる」――ハーバード大学のダニエル・シャピロ准教授はそう指摘しています。
人間が持つ核心な欲求とは、「価値理解」(Appreciation)、「つながり」(Affiliation)、「自律性」(Autonomy)、「ステータス」(Status)、そして「役割」(Role)です。興味深い考えなので、少し詳しく説明します。
例えば、自分の考え方や行動に意味がないという趣旨の発言がなされたり、自分を蔑(ないがし)ろにするような行動を相手がとったりすると、人は自分の「価値」が理解されていないと感じます。相手から敵としてみなされたり、ぞんざいに扱われたり、あるいは距離を置かれたりすると、人は相手との「つながり」がないと感じます。
自由に意思決定できないような状況に置かれると、自らの「自律性」が奪われていると感じ、自分の位置が他者よりも明らかに劣っているような扱いを受けると、自分の「ステータス」が無視されていると思ってしまいます。そして、自分に与えられている役割や活動が個人的に満足できない時には、十分な「役割」が与えられていないと感じるのです。
多くの場合、コンフリクトはこのような人間の核心的欲求への配慮の欠如から生まれると考えて間違いはありません。逆に言うと、相手の核心的欲求への配慮を怠らなければ、コンフリクトは生まれないかもしれないということです。しかし、コンフリクトの種はあらゆるところに蒔(ま)かれているので、注意が必要です。
コンフリクトへの直面でよく見られる4つの行動
コンフリクトに直面した時に、人は次のいずれかの行動をとりがちになると言われます。「競争」「回避」「譲歩」「分配」という4つです。
「競争」とは、相手と戦い、勝利することで解決しようとすることです。相手に圧力をかけて一方的に譲歩を迫ったり、さまざまなテクニックを使ったりして相手を翻弄し、屈服させようとするようなケースです。
「回避」とは、コンフリクトが生じた時、あるいはコンフリクトが生じる直前に、相手と距離を置くことです。例えば、対立が鮮明になった時点で、コンフリクトを避けるために相手との話し合いや交渉を打ち切ってしまうようなケースがそれにあたります。
「譲歩」とは、コンフリクトを避けるために、相手の利益を優先させて、収拾を図ろうとするものです。
そして、「分配」とは、双方が問題となっている事項を細分化して、それぞれの取り分を決めて解決しようとすることです。例えば、双方の金額の提示の間を取って合意額とする場合や交換条件を提示して解決しようとするようなケースがあります。
4つの行動が解決に結びつかない理由
相手との間で何らかのコンフリクトが生じた時に、相手に納得してもらえるように説得する対話のプロセスを「コンフリクト・マネジメント」と呼びます。
ただ、先ほどの4つの行動はいずれも望ましいとは言えません。なぜでしょうか。
まず、コンフリクトが生まれている相手との力関係が拮抗している場合には、「競争」が望ましい対処法ではないことは、容易に理解できるはずです。「競争」で対応すると、相手も同じような行動をとるはずです。したがって、コンフリクトはさらに激しくなるだけです。仮に「競争」に勝ったとします。負けた相手には敗北感が残るだけで、納得することはありません。コンフリクトが解消されることはないということです。
「回避」はどうでしょうか。「回避」すれば、一見コンフリクトは消滅したように見えるかもしれません。しかし、それは逃げたために見えなくなっただけであり、コンフリクトを根本的に解消したことにはなりません。
「譲歩」にしても同じことです。確かに、ちょっとしたいさかいであれば、自分が少し譲歩することでコンフリクトを解消できるかもしれません。しかし、多くの場合、互いに譲歩できないからコンフリクトが生じるのです。簡単に譲歩できるのであれば、そもそもコンフリクトは起きないはずです。
では「分配」はどうでしょうか。コンフリクトへの対処法として妥当であるように思えるかもしれません。しかし、コンフリクトの原因となっている要素を分配することで解決できるのであれば、そもそもコンフリクトは起きません。深刻なコンフリクトが起きている時には、双方のステークホルダーが納得できる「分配」を考えるのがきわめて難しいはずです。
リーダーシップに不可欠なコンフリクト・マネジメント
では、コンフリクトが生まれた時にはどうすればいいのでしょうか。
その答えは、「協調」です。「協調」とは、まずは、双方の利害の相違がコンフリクトを生んでいる状況を直視することです。そうすることによって問題を共有できます。その際に必要なのは、相手の話によく耳を傾けて、丁寧に質問を繰り返すことです。そうすれば、対話が生まれます。生まれた対話によって、双方が納得できるような新たな解決策を探るのです。
対話による新たな解決策とは、価値を新たに創造することを意味します。コンフリクトの対処法としては、それが最も望ましいと言えます。つまり、協調によって解決することが「コンフリクト・マネジメント」なのです。
コンフリクトはあらゆる状況下で発生すると考えていいでしょう。そういう時に「協調」して解決する能力は、リーダーシップにとって欠かせません。
田村次朗・古山彰著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)

