東京一極集中を是正すれば、出生率を大幅に引き上げることができるという「東京ブラックホール論」が注目されている。しかし、合計特殊出生率の計算方法を詳しく検討すると、東京が人口を吸収しているとは言い切れない理由が見えてくる。東京の合計特殊出生率の値が低くなる仕組みを解説する。『人口半減ショック 地域の新戦略 賢く縮み乗り越える』(田中秀明編著)から抜粋・再構成してお届けする。

平均出生率を見ると東京都心は2位に

 「ブラックホール型自治体」の象徴は東京だが、急速な人口減少を所与とした効率的な国土空間マネージメントに関する議論が本格的に進まない理由のひとつとして、日本全体の出生率が低い原因が東京にあるという仮説(いわゆる「東京ブラックホール論」)も関係している。

 すなわち、仮に低出生率の原因が東京にあり、この理論が正しいなら、東京一極集中の是正を強化すれば、日本全体の出生率が上昇する可能性があり、人口減少を前提とする空間的な「選択と集中」を直ちに行わずとも、人口減少のスピードが緩むことから、従来型の延長の施策で国・地方がしばらくは対応できる余地が存在するためだ。

 しかしながら、この「東京ブラックホール論」の真偽については、中里(*1)や中里(*2)が鋭い指摘をしている。2023年の日本全国の合計特殊出生率(TFR)は1.20で、東京都のTFRは0.99だが、国別のTFRの比較と異なり、地域別のTFRを比較することは適切とは限らず、地域別のTFRの計算方法の特性から引き起こされる誤解も多い。この理解にはひとつの指標で判断するのではなく、複合的な視点が必要になるので、中里(*1)や中里(*2)の指摘も参考に、いくつかの簡単な事実を確認しておこう。

 まず、東京都のTFRが都道府県ランキングで最下位というのは事実だ。厚生労働省の2023年の「人口動態統計(概数)」では、47都道府県のうちTFRが最高位なのは沖縄の1.60、最下位なのは東京の0.99で、2020年の人口動態統計(確報)でも、若干数値は異なるものの、東京は最下位の47位だ(図1)。だが、別のデータを見ると、異なる風景が広がっている。

図1 合計特殊出生率(2020年)
(出所)厚生労働省(2022)「令和2年(2020年)人口動態統計(確定数)の概況」から筆者作成
(出所)厚生労働省(2022)「令和2年(2020年)人口動態統計(確定数)の概況」から筆者作成
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 例えば、「国勢調査」(2020年)のデータだ。このデータにより、都道府県別などの平均出生率(出産可能な15-49歳の女性人口1000人当たりの出生数)を計算すると、この値が最高位なのは沖縄の48.9、第2位は宮崎の40.7だが、東京の平均出生率も31.5で、最下位でなく42位だ。

 平均出生率の計算では未婚の女性も含むが、東京の前後では、40位の岩手(32.4)、41位の青森(32.2)、43位の奈良(31.4)、宮城(31.1)、京都(31)、北海道(30.8)が並び、最下位は秋田(29.3)となる(図2)。しかも驚くべきことに、東京都心3区(千代田区・港区・中央区)の平均出生率は41.7で、既述の47都道府県の値と比較すると、東京都心3区は沖縄に次ぐ2位になる。この都心3区のうち中央区の値は45.4にもなっている。

図2 出産可能な女性人口(15-49歳)1000人当たりの出生数
(出所)総務省(2021)「令和2年(2020年)国勢調査」から筆者作成
(出所)総務省(2021)「令和2年(2020年)国勢調査」から筆者作成
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ブラックホール論の裏の見せかけの数字

 では、合計特殊出生率(TFR)と平均出生率(出産可能な女性人口(15-49歳)1000人当たりの出生数)で、このような違いが発生する理由は何か。それは、TFRの計算方法の特性にある。TFRの定義は「一人の女性が生涯に生む平均的な子どもの数」だが、具体的には年齢別出生率を合計して計算している。この計算方法から奇妙なことが起こる。

 例えば、仮想的な例だが、いま20代と30代の女性しかいない2地域があり、地域Aでは20代の女性100人が赤ちゃん30人、30代の女性100人が赤ちゃん60人を出産、地域Bでは20代の女性20人が赤ちゃん20人、30代の女性80人が赤ちゃん20人を出産するとしよう。また、TFRの厳密な計算方法は、1歳刻みでの年齢別出生率を合計することで求めるが、議論を簡略化するため、以下では、10歳刻みの出生率を年齢別出生率ということにする。

 この時、地域Aの20代の年齢別出生率は0.3(=30÷100)、30代の年齢別出生率は0.6(=60÷100)なので、地域AのTFRは、その年齢別出生率の合計であるから、0.9(=0.3+0.6)となる。同様の計算で、地域BのTFRは1.25(=20÷20+20÷80)となるが、女性一人当たりの平均出生率は、地域Aが0.45(=90÷200)、地域Bが0.4(=40÷100)で、地域Aの方が高い。

 このような仮想的な例も参考に、平均出生率のランキングで比較すると、東京都や都心3区のイメージが変わってくるが、地域間で人口移動があると、より奇妙な現象が起こる。この簡単な事実を確認するため、上記の事例とは異なるが、地域1と地域2しか存在せず、以下の出産可能人口が居住していたとする。

■地域1 20代の女性 20人→うち9人の女性が赤ちゃん9人を出産
             → 9/20=0.45
     30代の女性 10人→うち8人の女性が赤ちゃん8人を出産
              → 8/10=0.8

■地域2 20代の女性 20人→うち9人の女性が赤ちゃん9人を出産
             → 9/20=0.45
     30代の女性 10人→うち8人の女性が赤ちゃん8人を出産
              → 8/10=0.8


 TFRの計算では1歳ごとの刻みで計算するが、ここでは、簡略化のために10歳刻みで計算すると、両地域のTFRは1.25(=赤ちゃん9人÷ 20代の女性数(20人)+赤ちゃん8人÷30代の女性数(10人)=0.45+0.8)となる。しかし、上記の計算で、地域1で出産していない20代の女性11人のうち10人が地域2に移動するだけで、出生数が変わらないにもかかわらず、地域1のTFRは上昇し、地域2のTFRは低下する。

■地域1 20代の女性 10人→うち9人の女性が赤ちゃん9人を出産
             → 9/10=0.9
     30代の女性 10人→うち8人の女性が赤ちゃん8人を出産
             → 8/10=0.8

■地域2 20代の女性 30人→うち9人の女性が赤ちゃん9人を出産
             → 9/30=0.3
     30代の女性 10人→うち8人の女性が赤ちゃん8人を出産
             → 8/10=0.8


 簡単な計算で確認できるが、実際、地域1のTFRは1.7(=赤ちゃん9人÷20代の女性数(10人)+赤ちゃん8人÷ 30代の女性数(10人))となる一方、地域2のTFRは1.1(=赤ちゃん9人÷20代の女性数(30人)+赤ちゃん8人÷ 30代の女性数(10人))となるが、両地域の出生数の合計は人口移動前の17人のままで何も変わらない。

 このような人口移動により、見かけ上、地域別のTFRが低下または上昇することは実際に確認でき、例えば、大学生(女子学生)が多い京都市のほか、練馬区や豊島区のTFRが低い理由もここにあり、そもそも地域別TFRの比較で、出産や子育てのしやすさを判断することは容易でない。

東京以外の地域の出生率低迷が原因

 なお、そもそも、日本の出生率が低迷している理由は、東京都以外の出生率も低いためである。この事実は、TFRが地域別に決まっているとの仮定に基づき、東京都の人口をゼロにしても、日本全国のTFRは1.20から1.23までしか上昇しないことから分かる。

 この計算は簡単だ。直近(2022年)の日本全国の出産可能人口(15-49歳の女性人口)は2414万人、東京都の出産可能人口は295万人であるから、東京都以外の出産可能人口は2119万人である。

東京に人口が流出するのは若年層の就職の時点だ(写真はイメージ)(写真:健二 中村/stock.adobe.com)
東京に人口が流出するのは若年層の就職の時点だ(写真はイメージ)(写真:健二 中村/stock.adobe.com)
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 TFRが地域別に決まっている場合、東京都以外の地域のTFRの平均をZとすると、東京都と東京都以外の地域に居住する出産可能人口の加重平均から、「1.20(全国のTFR)=0.99(東京都のTFR)×295÷2414+Z(東京都以外の地域のTFR)×2119÷2414」という関係式が成立する。この式から、Zを計算すると、Z=1.23となる。これは、東京都の人口をゼロにしても、日本全体のTFRは1.20から1.23までしか上昇しないことを意味する。

 なお、余談だが、テレビや新聞等で、「地方の若者が東京に流入する主な段階は、大学等の進学時点である」と指摘する有識者もいるが、これも誤解だ。これは、「住民基本台帳人口移動報告」(2024年)からすぐに分かる。2024年での東京への流入超過は男女計で約7.9万人(年齢階層別の流出超過2.6万人と流入超過10.5万人との差)だが、この流入超過10.5万人のうち、15-19歳が占める割合は13.6%に過ぎず、20-24歳が占める割合は60.8%、25-29歳が占める割合は23.4%で、20-29歳の合計が84.2%も占めている。

 大学等の進学は通常は18歳、就職は22歳や23歳が多いことから、地方の若者が東京に流入する主な段階が大学等の進学時点というのは誤解であり、就職時点であることは明らかだ。加えて、「令和5年度学校基本統計」(2023年)のデータを精査すると、東京都内への大学進学者のうち、1都3県の高卒者で既に約7割、関東圏の高卒者で約8割弱も占めていることも分かる。

*1 中里透(2024)「東京は「ブラックホール」なのか?(その1):少子化にまつわるエトセトラ」SYNODOS  https://synodos.jp/opinion/society/29122/ (最終閲覧日2025年3月9日)
*2 中里透(2024)「東京は「ブラックホール」なのか(その2):「東京国」と「地方国」で考える」SYNODOS  https://synodos.jp/opinion/society/29131/ (最終閲覧日2025年3月9日)
地方創生の効果もむなしく、今後30年間で地方の人口は半減すると予想される。現実的な対応を取らなければ、行政サービスの安定供給すら危うい。経済学、財政学、政治学などの多面的な視点から真の改革案を提示する。

田中秀明編著/日本経済新聞出版/3630円(税込み)