東京一極集中是正は、資源配分の効率性や経済成長を阻害する恐れがある。大都市という環境は集積の経済に基づいた高い生産性や豊かな生活を実現できる場であり、東京に限らず都市への人、モノ、情報の集中が起きることには必然性がある。人口減少下で大都市化を受け入れながら地方部の維持可能性を高めるためには、都市集積を高める必要がある。『人口半減ショック 地域の新戦略 賢く縮み乗り越える』(田中秀明編著)から抜粋・再構成してお届けする。

都市集積は出会い、仕事にプラスになる

 大都市だけで構成される世界が「人口減少時代の豊かな生活」を支えられるのだろうか。物質的な豊かさのみならず、多様な自然、文化に根差した環境に住むことも、我々の幸福感の重要な要素である。そのような多様な豊かさを多くの人々が享受するためには、多様性のある地域の持続可能性が重要だろう。

 そのため都市のコンパクト化が、都市政策の大きなテーマになっている。都市のコンパクト化とは、理論的にはどんな意味を持つのだろうか。それは「失われようとしている都市の存在意義、『集積の経済』を取り戻すための措置」と考えることができる。

 集積の経済は、マッチング、シェアリング、情報スピルオーバーという要素によって構成されていると考えられている。

 様々なタイプの若者であふれている大都市の都心は、パートナーとのマッチングの場としてもすぐれているため、独身の若者をひきつける。同じように、大都市は多様なスキルを持っている労働者と、多様な活躍の場を用意できる企業との優れたマッチングの場でもある。つまり、東京大都市圏は充実した人生を送る相手、人生のやりがいと豊かな生活の基盤となる企業とのマッチングを巧みに行える重要な場所である。

 情報スピルオーバーとは、人々の間で繰り返し行われるフェイスツーフェイスのコミュニケーションを通じて、お互いの知識が共有され、新しい知識が生み出されることを指している。高い生産性を獲得するために必須と考えられる、イノベーションの背景にあるメカニズムである。

 最後にシェアリングであるが、典型的には、公共財や公共サービスのように多くの人が同時に消費可能なものによって説明することができる。つまり消費する人が多くなればなるほど、財・サービスの提供は効率的なものになる。

人口減少は地方都市の効率性を下げる

 市町村における行政サービスの提供には、資本集約的な技術を用いるもの(インフラや公共施設)と労働集約的な技術を用いるもの(介護・福祉サービス等)がある。前者は市町村の人口規模が、後者は人口密度がその効率性に影響を与える。市町村の行政サービスの一人当たりコストは、人口規模についても、人口密度についても当初は顕著に低下するが、ある水準を超えると、次第に上昇する傾向にある。つまりU字カーブを描く。

 人口減少は市町村の人口規模の縮小、人口密度の低下を通じて、行政サービスの一人当たりコストの大きな上昇をもたらす。図1は人口密度と一人当たり行政コストの関係を、全国の市町村を単位とした散布図で表したものである。

図1 市町村の人口密度と一人当たり歳出額
(出所)総務省「国勢調査」(2020年)、「市町村別決算状況調」(2020年度)より筆者作成
(出所)総務省「国勢調査」(2020年)、「市町村別決算状況調」(2020年度)より筆者作成
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 ここで人口規模、人口密度と行政サービスの一人当たりコストとの関係を、簡単な回帰分析で見てみよう。

(出所)『人口半減ショック 地域の新戦略』(田中秀明編著)
(出所)『人口半減ショック 地域の新戦略』(田中秀明編著)
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 上記の関係を基に、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2023年)」を用いて、2040年の一人当たりの歳出額をランク別の市町村数ごとに予測してみた。図2によると行政サービス提供の効率性の高い市町村数は低下し、効率性の低い市町村が大きく増加することがわかる。

図2 一人当たり歳出額別市町村数の予測
(出所)総務省「国勢調査」(2020年)、「市町村別決算状況調」(2020年)、国立社会保障・人口問研究所「日本の地域別将来推計人口(2023年)」より筆者作成
(出所)総務省「国勢調査」(2020年)、「市町村別決算状況調」(2020年)、国立社会保障・人口問研究所「日本の地域別将来推計人口(2023年)」より筆者作成
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 マクロな人口減少は、長い期間にわたって積み重ねられたものであり、今すぐ出生率を引き上げたとしても、この傾向を短期的に変えることはできない。それでも集積を促進して一定の人口密度を保つことは可能なのではないだろうか。それが、都市のコンパクト化を進める理由である。しかし、コンパクト化を実行するためには公共施設の統廃合が必要になる。

都市は出会い、知識が生まれる場になっている(写真はイメージ)(写真:SeanPavonePhoto/stock.adobe.com)
都市は出会い、知識が生まれる場になっている(写真はイメージ)(写真:SeanPavonePhoto/stock.adobe.com)
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地方創生の効果もむなしく、今後30年間で地方の人口は半減すると予想される。現実的な対応を取らなければ、行政サービスの安定供給すら危うい。経済学、財政学、政治学などの多面的な視点から真の改革案を提示する。

田中秀明編著/日本経済新聞出版/3630円(税込み)