目的達成のために最適な空間デザインをどう考えるか――。書籍『 結果を出す空間デザイン マーケティング理論や心理学が握る成功の秘訣 』では、「集客」や「長期利用」といった目的を果たすために、空間デザインに「マーケティング」の手法を取り入れて結果を出した実例を中心に紹介しています。本特集では書籍から抜粋し、筆者が手掛けたドローンスクール運営会社・ハミングバードにおける店舗の空間デザインの事例を示します。第6回では、ドローンが発する音を生かす工夫について説明します。
Promotion(宣伝)施策でバカにできないウオークインとSNS
ここまでで記憶に残りやすい空間のロジックについて説明しました。ここでは立ち止まって入ってみたくなる仕掛けや写真を撮りたくなる工夫とその効果についてお伝えします。
ドローンスクールから出る「音」は弱点にも武器にもなります。トイドローンであっても、無音にはならず、スクールで使う大きさのドローンであれば、騒音レベルの音が出ます。そのため、商業施設では周囲の状況に応じて、ネットでの仕切りではなく、壁やガラスパーティションなどの防音対策を求められる場合があります。
一方で、音をうまく使えば最大の武器にもなります。音がコンコースの歩行者に対して存在感をアピールするからです。分かりやすく言えば、焼肉屋の匂いと同じです。肉を焼く香ばしい香りに誘われて店に吸い込まれてしまう。そんな効果が音にもあるのです。これは、場合によっては、店の門構え以上の効果を発揮します。
そこで、音を意識してショップのフロント空間にはトイドローンを試しに飛ばせるゲージを設置しました。ドローンがどこかに飛んでいってしまうと困るので、ゲージ状にする必要がありましたが、中の視認性を高めるためにワイヤで囲ってオブジェのような形としました。ヘリコプターの発着所を彷彿(ほうふつ)とさせるHマークサインの入ったテーブル台の什器(じゅうき)に、多数のステンレスワイヤを天井まで固定しました。壁を設けずにワイヤだけで仕切ったので、音が周囲に聞こえます。
とはいえ、飛ばすのは小さなトイドローンなので、周囲からクレームが出るほどの騒音にはなりません。焼肉屋のいい匂い程度の塩梅(あんばい)です。配置もショップの入り口部分を選び、ウオークインの顧客との接点をつくりました。
音に引き寄せられた来訪者が店員に声をかけると、店員がすかさずトイドローンを紹介、実際に飛ばしてみないかと誘います。こうして興味を持ったドローンが1万円程度であれば、買ってみようかと思う人が出てきます。また、ドローンショップかと思って入った顧客は、実はドローンスクールなのだと教えられます。音を起点に、こうした流れをつくるのです。
ドローンスクールのコートではかなりの音が出るので、ガラスのパーティションを設けました。コートの方を振り向けば、アミューズメントパークを思わせる、空に浮かぶような空間が視界に広がります。そして、生徒がドローンを飛ばしている姿を目にします。実際のスクールでは、音の効果と視覚的な面白さ、物珍しさから観光客や子どもも見に来ていました。
商業施設という立地ですから、ドローンに興味がない来訪者が多いのは仕方ありません。それでも、目の前に面白い空間が現れれば、立ち止まったり、写真を撮ったりする人が現れます。
こうした来訪者の大半は写真だけ撮って帰りますが、中にはSNSで発信してくれる人も出てきます。特に旅行者などはその傾向が強いかもしれません。こうした来訪者が宣伝してくれれば、その分、広告費の削減につながります。
例えば、SNSを見てドローンスクールのウェブサイトにたどり着いた人がいたとします。これをGoogle(グーグル)広告に置き換えると、1人を集客するために約300円のコストがかかります。仮に毎月1000人の人がSNSから自社のホームページなどにたどり着いてくれれば、年間360万円程度の広告効果があることになります。
五感を揺さぶる仕掛け∝集客数
(書籍『結果を出す空間デザイン マーケティング理論や心理学が握る成功の秘訣』を基に再構成)
[日経クロステック 2026年5月25日付の記事を転載・改題]
萩原浩(著)/日経BP/2640円(税込み)

