目的達成のために最適な空間デザインをどう考えるか――。書籍『 結果を出す空間デザイン マーケティング理論や心理学が握る成功の秘訣 』では、「集客」や「長期利用」といった目的を果たすために、空間デザインに「マーケティング」の手法を取り入れて結果を出した実例を中心に紹介しています。本特集では書籍から抜粋し、筆者が手掛けたドローンスクール運営会社・ハミングバードにおける店舗の空間デザインの事例を示します。第7回(最終回)では、ウェブサイトなどを活用したPR手法について解説します。
空間がウェブサイトからの会員を呼び込む

ウオークインの話をしましたが、入会に至った人の大半は、入会前にウェブサイトを閲覧しに来ます。そのため、ウェブサイトも他社との差別化を図らなければなりません。商業施設の話を多くしましたが、実際にウェブサイト上で比較する場合は、ライバルのサイトとの比較となります。
サービスの内容や価格、選ばれる理由などの長所はどのサイトにもしっかりと記載してあります。また、施設の特徴や写真なども掲載しています。我々建築設計者はどんなデザインでも「美しくありたい」、と思ってしまいがちです。しかし、抽象的な美しさよりも大切なことがあります。空間デザインとウェブサイトのデザインは連携することも多く、建築設計者がウェブデザインに携わる機会も増えています。そのような場面に備えて、以下のポイントを押さえておきましょう。
自分が面白いと思わないのに、利用者が面白いと思うはずがない。多くの空間デザインに当てはまる考え方です。ただしショッピングの場合は、そうとは限りません。ハイブランドの店舗空間は美しいものの、現実的な買い物をする際は家電量販店のような雑多な空間を選ぶ人も多いでしょう。
ウェブサイトも同じです。限られた商品をかっこよく配置するデザインのサイトよりも、とにかく多くの写真を並べるサイトの方が、商品がよく売れる傾向があります。ひたすらペルソナである鈴木さんが気に入りそうな情報を載せるべきなのです。以下のような内容です。
■ウェブサイトに載せるべき情報
- トップページ 定量化した特徴、受講者数が1位だった期間、資格の合格率や合格者数など
- 選ばれる理由 具体的な理由で説明
- コースの説明 金額や時間、内容
- 補助金 いくら安くなるといった情報
- 他社との違い 定量化したデータで説明
卒業後のサポートと卒業者の声/ニュース、コラム/メディアに取り上げられた実績/よくある質問/紹介動画
情報量が多くなるので、サイトデザインをかっこよく仕上げるのは難しいでしょう。しかし、鈴木さんが欲しいと思う情報はすべて詰まっています。
選ばれる理由やサービス内容、他との差別化──。こうした内容を書く際には、必ず定量的な数字を使うべきです。形容表現といった文字だけでの説明だと、説得力を欠くためです。単なる形容表現では、多くの商品で説得力がゼロになると思った方がよいでしょう。それくらい数字での表現は重要です。ハミングバードのサイトでも、ドローンの需要が高まる将来像を示す数字として「年平均32.6%」といった記載をするなど、たくさんの数字を記載しています。
なお、ハミングバードには優秀なSEO(検索エンジン最適化)対策の担当者がいます。ドローン業界の話や利用者が知りたい情報を定期的にコラムとしてまとめ、ブログで発信しています。そのため、ブログからの流入によるアクセス者数が多く、グーグルなどの広告費の最小化に成功しています。
ちなみに、その担当者が手掛けた某左官会社のサイトは、ブログでの発信に成功し、広告費に1円も使っていないのに、かなりのアクセス数を稼いでいます。サイトからの仕事依頼が数多くあるそうです。職人の募集においても人材仲介会社などによる求人の必要もなく、サイトから応募があるという状況です。ブログからの発信で、営業や採用に要するコストの削減に成功しています。
定量化した数字=唯一の説得力
社会的意義が経営者のハートをつかむ
このような戦略で空間をデザインしたハミングバードのドローンスクールお台場は集客に成功し、2022年から多店舗展開に乗り出します。その後、知名度が上がったこともあり、多数の企業から「FC契約を結びたい」との要望が出るようなりました。
こうしてドローンスクール東京として、東京近郊は直営店、それ以外の地方はFCという区分けで、現在もFC化を進めています。FC化の成否は売り上げが握ります。FC店がフランチャイズ費用を母体に払っても利益を出せるようであれば、FC店を出したい企業が現れます。ただ、ドローンスクールというニッチな産業で、ハミングバードがFC化に成功した秘訣は売り上げ以外にもあります。
ハミングバードは、災害時の調査などドローンを活用した支援に関する協定を行政と多数結びました。こうした社会的意義が経営者のハートをつかみ、FC化を成功させる要因となりました。FCを希望する企業は、ドローン業界とは関係のない本業を持つケースが多いものの、本業にプラスになるようなストーリーづくりが、利益や売り上げ以上に経営者の心を動かしたのです。
これからの日本では、少子高齢化がより一層加速します。内閣府が発表している「令和5年版高齢社会白書」によると、約10年後の2035年には約3人に1人が65歳以上になります。また、日本全国で大規模地震の発生が予測されており、特に南海トラフ地震は今後30年以内に発生する確率が60~90%程度以上と見込まれています。災害対策が国家の重要課題になっているのです。
これらの課題を解決する手段の1つとして、ドローンが注目されています。観測、輸送など、人の代わりに安全かつ効率的に働くドローンが、少子高齢化による労働者人口の不足への対応や多様な災害支援活動に役立ちます。支援活動を実行するために最も必要なことが、連携や情報共有です。
スムーズな連携や情報共有をするために必要なのはネットワークです。そこでハミングバードは、FC店をベースとしたスクール店舗を整備することで、店舗を起点とした地域自治体との災害時連携、迅速な情報共有や人材派遣など、面での活動ができる仕組みを構築しました。店舗が増えれば増えるほど、被災地に対する人材や機器の総量が増え、支援の輪が広がります。FCなので、機器に互換性があるなどスムーズな連携が見込めます。個別の店舗で支援するよりも、警察や自衛隊のような共通フォーマットを持つ団体や組織の支援に近くなり、支援効果が上がります。
一方でFC企業にとっては、こうした活動によって公的な機関や地域の団体など、本業での交流が難しい組織とつながりを持てるというメリットも得られます。
こうした社会的意義のストーリーを持たせることも、空間をマネタイズする事業を成功させるカギを握っているのです。
社会的意義=企業PR+人脈づくり
(書籍『結果を出す空間デザイン マーケティング理論や心理学が握る成功の秘訣』を基に再構成)
[日経クロステック 2026年5月26日付の記事を転載・改題]
萩原浩(著)/日経BP/2640円(税込み)

