ハチやテントウムシは、その派手な色で自分の存在の危険性を知らせ、敵から襲われるのを防いでいる。植物は動物たちに種子を遠くに運んでもらうために果実を色づけている。生き残るために進化してきたのだ。地球の歴史と共に進化を続けてきた色にまつわる不思議な世界を、最新科学に基づき解説した『 手術をする外科医はなぜ白衣を着ないのか? 色の不思議を科学する 』から抜粋・再構成してお届けする。

毒々しい色は危険を知らせるため

 動物が生き抜くために携えた体の色は、大きく分けて2通り。1つは、棲(す)んでいる環境などに合わせてできるだけ目立たないようにした隠蔽色。もう1つは、目立つようにした警戒色だ。隠蔽色をした動物には、バッタなどのように体の色が変わらないものと、カメレオンなどのように棲む場所によって体の色を変えるものがある。

 カメレオンは木の上では緑色をしているが、土の上では褐色へと体の色を変化させ、背景が変わってもその色に溶け込むようにしている。これにより捕食者から発見されにくくなるし、被食者からも見つかりにくくし獲物を捕らえやすくなるからだ。さらに、カメレオンは気分によっても色を変える。怒ると赤く、おびえているときは灰色になる。カメレオンの体の色は構造色と呼ばれ、皮膚表面の凹凸の間隔を変化させて色を変えている。これは、CD(コンパクト・ディスク)が角度によって色が異なって見えるのと同じ仕組みである。

 コウイカは海のカメレオンと呼ばれ、構造色により狩りや敵から身を守るときに色を変える。ただし、コウイカ自身は色覚が発達していないため、色が変化したことを自身は十分にわからないといわれている。

 季節によって色を変える動物もいる。本州中部の高山に棲むライチョウは、夏は岩肌の色に合わせて褐色となり、山が雪で覆われるころになると羽毛の色が白くなる。天敵のキツネなどから見つからないようにするためだ。

 成長するに従って色を変える動物もいる。アゲハチョウの幼虫は、卵からかえってしばらくの間、体が小さいときは黒色をしている。目立ちやすいと思うのだが、鳥の糞(ふん)に似せることで捕食者の鳥から見つからないようにしているといわれる。そして、体が鳥の糞より大きくなると今度は、ミカンの葉の色に合わせて緑色に変化する。

 熱帯地方に住む毒をもつヘビやクモは、赤や黄などの派手な色をしているものが多い。他の動物から見つかりやすいのに、なぜ目立つ色をしているのか。毒や不快な味や臭気をもつ動物の色が非常によく目立つ場合、その色を警告色という。いちど刺されたり、それを食べてひどい目にあったりした捕食者に、同様な色彩の動物を食べることを避けるよう警告しているのだ。

 テントウムシはよく目立つ色をしている。実は、テントウムシが出す黄色い液体はとてもまずく、食べた鳥が吐き出すほどだという。目立つ色でまずいことを示し、自らを守っているのだ。植物の毒キノコも赤や黄などの鮮やかな色をしているが、それにより毒があることを示し、食べられないようにしているのである。

 ハチも、とても目立つ黒と黄の縞(しま)模様をしている。黒と黄の組み合わせはよく目立ち、見ている人に注意の感情を引き起こすことから、道路標識などによく用いられている。ハチも「近寄ると危険だ」ということを色によって示していると考えられる。

ハチの黒と黄の縞模様は「近寄ると危険だ」ということを色によって示していると考えられる(写真:shutterstock)
ハチの黒と黄の縞模様は「近寄ると危険だ」ということを色によって示していると考えられる(写真:shutterstock)
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哺乳類は緑と黄色の識別がうまくできない

 動物の色はさまざまだ。そして、いくつかの色名が動物の色をもとにつけられている。鼠(ねずみ)色、象牙色、海老(えび)茶、サーモンピンク、鳶(とび)色、駱駝(らくだ)色……。

 動物の色のなかで少ないのが青と緑である。青い動物は数が少なく、モルフォチョウ、ヤドクガエル、オウム、ルリスズメダイなど昆虫、両生類、鳥類、魚類で、青色をした哺乳類はいない。緑色をした動物としては、キリギリス、カエル、ヘビなど、昆虫、両生類、爬虫(はちゅう)類にいる。

 キリギリス、カエル、ヘビなどの主な捕食動物は鳥類や爬虫類だ。鳥類や爬虫類は色覚が発達していて色の識別がよくできる。そのため目立たないように体色を緑にすることは、生存上有利に働くと考えられる。草原に棲む動物は緑色をしていると保護色となり、天敵である捕食動物から見つかりにくいというメリットがあり、また、見つからずに獲物に近づくことができる。

 しかし、緑色をした哺乳類はいない。草食動物の哺乳類の捕食動物は、多くが同じ哺乳類の肉食動物だ。これらの動物は色覚があまり発達していないため、緑と黄色の識別がうまくできないのだ。そのため体の色をあえて緑色にしてもあまりメリットがないのである。また、哺乳類は、そもそも緑色の色素を作る遺伝子をもっていないためとも考えられている。

 哺乳類は、他の脊椎動物や昆虫に比べて体色の種類が多くない。特に、鮮やかな色をした動物はほとんどいない。すでに述べたように、毒をもっている動物は警告色と呼ばれる鮮やかな目立つ色にすることで、毒があることをアピールしている。しかし、哺乳類で毒をもつものはほとんどいないのだ。

 一部のサルとヒトは色覚が発達しており、他の哺乳類に比べて多くの色を識別できる。アフリカの熱帯雨林に住むサルの仲間のマンドリル。鼻は赤く、その両側は鮮やかな水色をしている。メスのマンドリルが鮮やかな色の顔をしたオスを好む傾向があるからだという。また、ニホンザルのおしりは赤い色をしている。繁殖期になると、おしりがますます赤くなり、メスをひきつけるのだ。

(参考文献)V・B・マイヤーロホ『動物たちの奇行には理由がある』技術評論社(2009)

マンドリル。鼻は赤く、頬は鮮やかな青色をしている(写真:shutterstock)
マンドリル。鼻は赤く、頬は鮮やかな青色をしている(写真:shutterstock)
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スイカのシマシマには深い理由が

 スイカは、その成分の90%が水分であるといわれ、夏の水分補給にちょうどいい食べものだ。キュウリやメロンと同じウリ科の植物で、原産はアフリカの乾燥地帯。種類によって形が球に近いものや、やや細長いもの、縞のあるものとないものがある。

 スイカの縞は黒く見えるが、近くでよく見ると濃い緑色をしている。緑色の部分との対比で実際以上に黒く見えているだけなのだ。スイカはピーマンなどと同じように葉だけでなく実でも光合成をしており、そのため緑色をしているのである。縞の部分が濃い緑色をしているのは、葉緑素、つまりクロロフィルがたくさんさんあるからだ。縞の部分は緑の部分の約2倍の密度でクロロフィルがあり、光合成が盛んに行われている。

 表面に縞がある果実はそれほど多くはないが、同じウリ科のマクワウリやカラスウリにも縞がある。イチジクにも薄い縞があるのをご存じかと思う。しかし、黒くてごつごつとしたスイカの縞は特別なのだ。なぜスイカにはこのような縞があるのか。スイカが独特な縞をもつようになったのには、きっとメリットがあるからに違いない。

 スイカは主に鳥に食べてもらって、種が別の場所で糞と一緒に排泄(はいせつ)されることによって分布を広げることができる。黒い縞には、空を飛んでいる鳥がスイカの実があることを見つけやすくする効果があると考えられている。特に、スイカが熟してくるとウリと同じように黄色くなり、目立ちやすくなる。この黄色に黒い縞があるとより目立ち、スイカであることが一目でわかるのだ。

 なお、スイカにはカロテンとリコピンという色素が含まれていて、これらによって実の中が赤く色づいている。カロテンは身体の調子を整え、リコピンは若い身体を保つ働きがある。実が割れると中の赤い部分が見え、さらに目立ちやすくなる。また、スイカに含まれるたくさんの水分は、原産地である乾燥地帯に生きる動物にとっては魅力的である。鳥に食べてもらい種を遠くに運んでもらえるよう、スイカはいろいろな工夫をしているのだ。

スイカのシマシマは実は黒ではない。そして、種の保存のための知恵が詰まっている(写真:shutterstock)
スイカのシマシマは実は黒ではない。そして、種の保存のための知恵が詰まっている(写真:shutterstock)
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入倉隆著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)