正しい判断をするためには、情報を整理し因果関係を把握するノウハウが不可欠です。米経営学者のピーター・センゲは「システム思考革命」の必要性を唱えました。センゲの『 最強組織の法則 新時代のチームワークとは何か 』(ピーター・M・センゲ著/守部信之訳/徳間書店)をPwC Japanグループの森下幸典さんが読み解きます。『 ビジネスの名著を読む〔マネジメント編〕 』(日本経済新聞出版)から抜粋。

全体の構造を見る「システム思考革命」

 社会現象の因果関係は複雑化し、ビジネスパーソンが意思決定するために必要な情報量も急増しています。正しい判断をするためには、情報を整理し因果関係を把握するノウハウが不可欠です。米経営学者のピーター・センゲは著書『最強組織の法則』で「システム思考革命」の必要性を唱え、学習する組織(ラーニングオーガニゼーション)の中核的な考え方として位置づけます。

 システム思考とは、物事の依存関係を確認し、全体の構造を見いだすことです。センゲは「木を見て森も見る」ことが必要だと主張し、ある個別の事象の原因を特定するだけではすまないと指摘します。様々な事象の相互の関連性と全体の中での重要性を理解し、どの部分に働きかければ最も効果的に問題を解決できるのかを見いだすことが重要とみるのです。これを「レバレッジの原則」と定義します。

 ただ、効果的な作用点は通常見えづらいものです。また、経営管理における多くの施策は、それを実施すれば一度は業績が好転しますが、後に悪化しがちです。短期的に状況を好転させる方法はたくさんありますが、それだけで問題自体が消えたと錯覚してはならないのです。

どの部分に働きかければ最も効果的に問題を解決できるのかを見いだす(写真:shutterstock)
どの部分に働きかければ最も効果的に問題を解決できるのかを見いだす(写真:shutterstock)

 例えば、需要があるからと増産すれば、いずれ在庫や設備などの余剰に悩む可能性もあります。低価格で良いサービスを提供しているつもりでも、人材確保や教育を怠れば、価格も質も維持できなくなります。こうした点について、センゲは「スナップショットとしての出来事よりも、プロセスや構造を見ることが必要」と指摘します。

 このように、システム思考は全体を見るための考え方ですが、事象を正しく捉えるためには、戦略の結果をフィードバックする仕組みが重要となります。フィードバックを通じて、現場の最前線で発生する「遅れ」を適切に把握します。戦略を実行する場合、的確なフィードバックがタイムリーでなければ、致命傷になりかねないのです。

ある行政機関の変革プラン

 A国のある行政機関では、10年後のあるべき姿を見据えた変革プランの策定に取り組みました。組織の上位職層から中堅層、現場のリーダークラスまでを対象として、ビジョン策定のためのワークショップを開催しました。

 この行政機関が目指したのは、中央集権型で早急に課題を解決することではなく、組織全体あるいはチームとして業務の全体構造を見つめ直すことです。その観点から、どのように変革すべきかの4つの着眼点を見つけ出しました。それが「効率」「俊敏性」「説明責任」「統合」の4点です。

 この行政機関では、「効率」は日々の業務のやり方を改善しながら向上させるべきものと位置づけて、いくつかの具体的な目標を定義しました。その1つ目が「組織、部署間での業務の重複を解消する」ことです。プロセスの見直しと同時に、システム化により可能な限りの自動化を目指します。組織の機能やシステムを最大限活用することは、限られた人的資源を活用して成果をあげるために重要なポイントになります。

 また、長期的にコスト低減効果を享受するために、シェアードサービス(間接業務などの集約)の導入やアウトソーシング(業務の外部委託)、契約単位の集約化、サプライヤーに対する費用対効果の明確な説明なども実施します。

管理職の意識を変える取り組み

 さらに、組織で働く人材そのものにも変革が必要です。特に管理職が人的資源を「自分だけのもの」と思って使う傾向が見られたため、その意識を変える取り組みが必要でした。生産性を向上し、継続的に改善活動やトレーニングをするためには、十分な作業環境を提供することも必要です。

 これらの目指すところは、無駄を最小化し価値を最大化するための革新的なソリューション(問題解決)の導入と、仕事に対する主体性と意欲の高い人材を活用し、生産性を向上させることです。

 次は「俊敏性」についてです。外部および各部門からの要求に迅速に応えるためには、個人からチームまですべてのレベルにおいて、能力が高く、柔軟性を持った人材が必要です。また、様々なニーズに対応するためには多様性も持たなければなりません。

 外部関係者との強固な協力関係も重要です。さらに、この行政機関では、継続的な改善、改革をもたらす組織文化の醸成も目標に掲げ、具体策に取り組むことにしました。

 「説明責任」に関しては、組織内外ともに透明性を確保することを重視しました。例えば、投資に関する情報について、コストや選択肢を含めて、タイムリーに共有することを目指します。

 また、パフォーマンスの評価に関する首尾一貫性、個人と組織の責任範囲のバランス調整にも取り組みました。職員一人ひとりに、仕事に対するオーナーシップを持たせることを目指して、日々の仕事の意思決定を任せるようにしました。

個人の成果だけで評価しない

 最後の「統合」に関しては、「共通の目標に向かって、様々なスキルを持った人材が1つのチームとして協力し合う」ことを目標としました。人的資源がすべての機能や部署を通じて統合的に管理され、統合されたプロセス、システムおよびナレッジシェア(知識共有)の仕組みによってサポートされている形をあるべき姿として定義しています。そして、部門間での連携を促すとともに、成果は個人および全体の両面で評価します。

 これらの改革にあたって、この行政機関では特に「変革のポイントは人である」と認識しました。当事者である各職員に変革の必要性と意義を十分に浸透させ、それを理解してもらうために、客観的なデータやシステマティックなアプローチ、定期的なモニタリングとフィードバックの仕組みが重要と考えたのです。

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