台湾有事は起きるのでしょうか。起きるとしたらいつでしょうか。ウクライナ侵攻が始まる前は、2030~35年にならなければ、米中の軍事力は拮抗せず、中国軍の準備が整わないだろうというのが大方の見方でした。最近はもっと時期が早まるのではないかという懸念があります。元・国家安全保障局次長の兼原信克氏の著書、日経ビジネス人文庫『日本人のための安全保障入門【増補版】』から抜粋・再構成します。

米国離れが進む欧州、隙をうかがう中国

 今日、日本の安全を考える上で最大の問題は、台湾有事の可能性です。今すぐにロシアや北朝鮮と戦争になるとは考えにくいですが、中国と台湾の戦争に巻き込まれる可能性は否定できません。

 台湾に限った話ではありませんが、域内最強の日米同盟がきちんと構えを取ることができるかが、巨大化した中国が冒険主義に踏み出すことを止め得るか否かの分かれ目になります。

 現在、中国の経済力は日本の4倍以上まで伸びてきています。軍事費は米国の約9540億ドルには届きませんが、約3360億ドル(購買力平価を用いたドル換算)で日本の5倍程度(2025年、ストックホルム国際平和研究所)です。軍民融合下の不透明な開発費を足すともっと巨額になるのではないかと推測しています。これではもはや、「米国を除くG7」(日本・イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・カナダ)の軍事費を全部合わせても、中国の軍事予算規模に追いつきません。

 米国は、史上初めて、自国と対等の大きさの国と戦争になるかもしれないと思い始めています。ヒトラー時代のナチス・ドイツでさえ、米国の3分の1くらいの経済力でした。

 台湾有事は起きるのでしょうか。起きるとしたらいつでしょうか。ウクライナ侵攻が始まる前は、習近平が引退する頃、2030~35年にならなければ、米中の軍事力は拮抗せず、中国軍の準備が整わないだろうというのが大方の見方でした。最近はもっと時期が早まるのではないかという懸念が根強くあります。

 トランプ米大統領自身のモンロー主義的な性向がウクライナ戦争を巡るNATO(北大西洋条約機構)内の亀裂を深めており、欧州の米国離れが表面化しています。さらに2026年に始まったイラン戦争は、米国の関心を中東にくぎ付けにしました。中国から見れば、西側は分裂しかかっており、逆にウクライナ戦争への対応を巡り、中露朝の結束は固くなりつつありますから、時の利は我にありと考えていることでしょう。

 ウクライナでの戦争が終わったとしても、ウクライナの完勝で終わることはありません。ロシアをウクライナ領の一部から追い出したところで終戦になるでしょうし、下手をするとロシア軍がウクライナ領の一部を押さえたまま停戦になるので、西側としてもすぐにウクライナから手を引けない状態になります。

 米国を主力とするNATO諸国は、プーチン・ロシア大統領が停戦後もいつ攻め返してくるかもしれませんから、戦後もウクライナを支援しなければなりません。米国は、ウクライナへの武力介入を拒否しており、欧州諸国の自助努力を慫慂(しょうよう)していますが、実のところ、停戦後も、米国の関心は、相当にウクライナに割かれることになります。

 イラン戦争では、米国、イラン共に長期戦や大規模な全面戦争は忌避しました。イランのホルムズ海峡封鎖に対抗して、米国もイラン関係船舶を対象とした逆封鎖を実施しました。ホルムズ海峡は二重封鎖のようになり、海峡開放へと進んでいますが、400kgあると言われている濃縮ウランの取り扱いや、イランの将来のウラン濃縮活動の取り扱いなど、難しい問題が残っています。

習近平に残された時間は短い

 米国の戦略的関心は、今後一定程度、欧州や中東に向かわざるを得ないでしょうが、中国にとっても、実は、時間は決して中国の味方ではありません。

 人口減少が始まり、国力の衰退が始まっています。中国の国力増進中は、「待てば待つほど有利になる」という判断に説得力がありましたが、中国の衰退が始まっているとすれば、習近平の頭の中で、「今、台湾侵攻をやっておくべし」という考えに切り替わる恐れがあります。米国のバーンズCIA長官は、習近平が「2027年、自分の任期が終わるまでに台湾侵攻の準備をしておけ」と指令したという情報を得たと証言しています。

 1953年生まれの習近平は、2026年で73歳です。今の任期が終わる2027年には75歳近く、次の任期切れの2032年には80歳近くになります。そこまで待つでしょうか。今の中国人男性の平均寿命が75歳だと考えると、習近平に残された時間は少ないのです。

中国の軍事費は、判明しているだけで日本の5倍程度(写真:tanaonte/stock.adobe.com)
中国の軍事費は、判明しているだけで日本の5倍程度(写真:tanaonte/stock.adobe.com)
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米国はなぜイランを攻撃したのか。台湾有事の際に日本はどうなるのか。現行の憲法の課題とは?──歴史的背景に始まり、近隣諸国との領土問題、最新の戦争のかたち、経済安全保障まで、元・国家安全保障局次長がやさしく語る。

兼原信克著/日本経済新聞出版/1210円(税込み)