ひげそりのジレットやネスプレッソを展開するネスレ。成功の秘訣はビジネスモデルのどこにあるのか。シリーズ累計33万部の『 マンガ ビジネスモデル全史〔新装合本版〕 』(画・飛高翔/シナリオ・星井博文)の発売を記念し、著者の三谷宏治・KIT虎ノ門大学院教授による刊行記念講演「ビジネスモデルの本当の意味」が行われました。その内容の一部をお届けします。

替え刃モデルを生み出したジレット

 ジレットの創業者、キング・キャンプ・ジレットは、親が実業家で裕福な家庭に育ちましたが、シカゴの大火で全財産を失い、16歳から働くことになりました。しかし、事業家への夢は諦めませんでした。瓶のフタである王冠のメーカーで働いていたある日、その会社の創業者に言われます。「ジレット君、このようなものを作らなければいけないのだ。瓶メーカーはリサイクルという仕組みを作ってしまったので、市場が全然伸びない。しかし、王冠は消耗品だからリサイクルなどない。こういう消耗品ビジネスを考えなさい」。

 それ以来、彼は常に「消耗品」のビジネスアイデアについて考え続け、ついに天啓が訪れます。40歳のとき、出張先でひげをそろうとしたところ、非常に面倒くさい。そこで、簡単にひげがそれるように、使い捨ての刃を作ってビジネスにしようとしたのです。

ジレットのビジネス史

 現在、ジレットは「替え刃モデル」で知られています。ジレットの替え刃モデルは、ひげそりビジネスの収益モデルを大きく変化させました。しかし、替え刃を作ったから成功したわけではありません。収益モデルを変えただけで、ビジネスが成功するわけではありません。ビジネスモデル全体の革新が必要なのです。

 まず何が大変だったかというと、そもそも替え刃が作れませんでした。当時、薄い金属の刃というものがこの世には存在しませんでした。そして、誰も作ってくれません。MIT(マサチューセッツ工科大学)のエンジニアが協力してくれて、薄い刃を製造できる鋼板の作り方、そしてそれを刃として研ぐやり方、そういったことが6年もかけてようやく実現しました。

 しかし、発売してみたら全然売れません。初めてのシステムのものは、売りづらいのです。当時はマスメディアが誕生した頃だったので、新聞広告に大々的に宣伝を打って、少し成功すると、今度はあっという間に特許紛争が起きます。「このようなものはうちでも出している」と、どんどん訴訟を起こされました。しかし、頑張って裁判を勝ち抜くか、和解に持ち込むか、それでもダメであれば買収するということを繰り返しました。そして、爆発的な成長が訪れます。

 1904年には、本体が9万本売れ、そして替え刃が12万枚売れたそうです。もちろん本体より替え刃のほうがたくさん売れて当然です。そして、それから14年後、本体は毎年100万本、替え刃は1億2000万枚売れるようになりました。倍率で言えば、本体は11倍ですが、替え刃は1000倍売れるようになったのです。

ジレットは替え刃モデルで成功した(写真/Shutterstock)
ジレットは替え刃モデルで成功した(写真/Shutterstock)
画像のクリックで拡大表示

ジレットの特許の秘密

 私が知っているなかで、一番面白い特許は「刃の間隔」です。複数の刃の間隔自体が特許なのです。刃の間隔が広いと、皮膚をつまんでしまうため肌が荒れるという苦情がありました。でも、狭くすると今度は排出性が落ち、きちんと隙間から抜けなくなります。このベストな間隔をジレットは見つけ出しました。その間隔は、ずばり1.1ミリです。これがそり心地と排出性を両立させるベストなものでした。

 しかし、1.1ミリで特許を取ってはダメなのです。なぜなら、1.15ミリが出てきたらどうする、などという話になるからです。そこで、なんと頭のいいことに、1.25ミリ以下ということで特許を取りました。ただ出願したのではなく、この間隔に価値があるというデータを併せて提出し、特許を取得したのです。ちなみに、競合のシックは1.5ミリのものを出しています。

互換品との戦い

 替え刃モデルはとても大変です。本体は安く、そして替え刃は高いため、当然のことながら互換品が出てきます。安い互換品が出ると、このビジネスモデルは崩壊してしまいます。ジレットはどのように互換品を排除したかというと、本体と刃の接合部分の研究開発に力を入れました。接合部分を毎回変え、そこで特許を取ることにより、互換性の替え刃を排除するようにしたのです。

 この替え刃モデルのビジネスは、その後も様々なものが出ています。携帯電話を安く売り、通話データや通信量でもうけるというモデルもあるでしょう。ゲーム機とゲームソフトというモデルもあるでしょう。ゲーム機を安く売り、ゲームソフトでもうけるということも一種の替え刃モデルです。その他、ブラウンの電動歯ブラシの替えブラシ、ネスプレッソのインスタントコーヒーも成功しています。

ネスレのインスタントコーヒーの成功

 ここで、ネスレとネスプレッソについてお話ししましょう。ネスレはコーヒービジネスにおける第1のカギといわれるインスタントコーヒーを成功させ、ネスプレッソという第2の革新を起こしました。コーヒーを作るマシンは無料で、カプセルでもうけるという収益モデルです。カプセルは1個100円程度しかしないため、ユーザーからすると、おいしいコーヒーが飲めるならお得でしょう。けれども、1つの小さなオフィスで1日に2人が2杯ずつ飲む。そういったことをずっと続けたら、1個100円でも年間では高額になります。カプセルは粗利が非常に高いので、マシンを無料で提供しても何の問題もありません。

 ネスプレッソのターゲットの基本は法人のオフィスです。オフィスの他には、ホテルのロビーや部屋に置いたり、レストランで使ってもらったりということを考えました。

(作成)三谷宏治
(作成)三谷宏治
画像のクリックで拡大表示

環境に悪いと指摘されてどうしたか

 このビジネスで障壁となったのが、使用後のカプセルの廃棄が環境の敵だとドイツから言われたことです。特殊なカプセルで燃えるゴミにならないので、ゴミ処理場に埋め立てることになってしまいます。そのようなゴミがどんどん出るようになり、ドイツでは公共施設からネスプレッソを排除しようという動きが始まりました。これでは、事業はうまくいきません。

 そこで、ネスレはどうしたのか。使用済みカプセルを直接回収し、完全なリサイクルをする工場を作り、ゼロエミッションでゴミが出ないというシステムを作り上げました。

 ネスレは、このようにネスプレッソ事業のビジネスモデル全体を変えつつ優位性を維持し、市場の中でシェア50%、2021年度の年間売上が約7700億円(64億フランを当時のレートで計算した金額)に達しています。手軽においしいだけではなくて、環境にも配慮したビジネスモデルの革新を成し遂げたのです。

構成/永野裕章(日経BOOKSユニット)

『経営戦略全史』に続く第2弾

シリーズ累計33万部のベストセラー『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』シリーズの新装マンガ版が発売! 14世紀イタリア・メディチ家から21世紀のテック企業まで世界の歴史を変えたビジネスモデルを一気読み。

三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画/日本経済新聞出版/2090円(税込み)