PDF事業などを展開するAdobeのビジネスモデルはどのようなものなのでしょうか。シリーズ累計33万部の『 マンガ ビジネスモデル全史〔新装合本版〕 』(画・飛高翔/シナリオ・星井博文)の発売を記念し、著者である三谷宏治・KIT虎ノ門大学院教授による刊行記念講演「ビジネスモデルの本当の意味」が行われました。その内容の一部をお届けします。
ビジネスモデルは4つの要素で構成
ビジネスモデルに関する定義はいろいろとあり、世界中に、おそらく何十という定義があるでしょう。私は何事もシンプルにするのが好きなので、究極的にはビジネスは、「(1)ターゲット、(2)バリュー、(3)ケイパビリティー、(4)収益モデル」の4つのパーツで表現できると考えました。
どれもが1つとして欠けることは許されず、これらがきちんとつながっていることが必須です。こういった要素が、自社は、そして競合他社はどうなのだろうと考えることから、ビジネスモデル分析は始まります。
PDFのビジネスモデルを理解していますか
4要素を基にしたビジネスモデル分析を、具体的な例で考えてみましょう。まずはAdobeのPDF事業についてです。ほぼ毎日、皆さんはPDFを使っているでしょう。では、PDFは初期の頃、どのようなものだったか、思い出せるでしょうか。
電子的に完璧に表示できる書類を作成できるというケイパビリティーを持ったAdobeは、PDFという商品を売り出そうとしました。それはいったいどのようなビジネスモデルに支えられていたのでしょうか。
(1)ターゲットは誰でしょうか。
(2)どのような価値を提供したのでしょうか。
(3)ケイパビリティーは、表示の美しさと機器互換性を実現したポストスクリプト言語です。
そして最後に、
(4)どのようにして収益を生み出していたのでしょうか。
その各々を考えてみてください。
フリーミアムの一種
PDFでは、(1)ターゲットは2種類いますね。それは読み手と作り手です。圧倒的に多数の読み手がいます。そして、彼らにその文章を読んでもらいたいと考える相対的に少ない行政機関や企業といった作り手がいます。
読み手が求める(2)バリューは、簡便な閲覧です。そこでAdobeはReaderというソフトを作りました。昔はホームページにPDFがあると、その下に「ここからリーダーを無料でダウンロードできます」という、小さなアイコンが必ず付いていたのを覚えている方もいらっしゃるでしょう。そういったソフトさえダウンロードすれば、どのようなパソコンであろうと必ず読めるようにしたのです。
他方、作り手のほうが求める(2)バリューは、再現性とセキュリティーでした。これをAcrobatと名付けて、有料にしました。圧倒的多数の読み手にはReaderを無料でダウンロードさせ、少数の作り手にはAcrobatを有料で買ってもらうという(4)収益モデルです。これはフリーミアムの一種で、一部有料ユーザー型のもの。ただし、ゲームなどと違って、使用するプラットフォームが読み手と作り手で異なるので、2サイド・プラットフォーム型一部有料型フリーミアムモデルとも呼ばれます。
PDFにはその後、もう1つ別の(1)ターゲットが置かれました。それはソフト会社です。今はいちいちReaderをダウンロードしなくとも、ブラウザでPDFを閲覧することができます。それはブラウザメーカーがReaderを組み込んだからです。また、単にPDFを作成するだけであれば、Wordで保存する際に「PDFで保存」を選ぶと、簡単にPDFを作成できます。これはMicrosoftが、Microsoft OfficeにAcrobat機能の一部を内蔵したからです。つまり、ソフト会社というもっと少ないプレーヤーがいて、このプレーヤーがお金を払うという(4)収益モデルになったわけです。作り手ですら無料です。
現在のAdobeの収益モデル変革
Adobeが今、どうやってもうけているかといえば、もともとあったPhotoshopやIllustratorなどをすべてくっ付けて、サブスクリプションにしました。当然、一時的にAdobeの売り上げは落ちました。しかし、今の売り上げは数倍に増えました。
そして、ユーザー数は10倍になったといわれています。最初からソフト購入に数十万円も出せない人たちが、月約6000円と参入の壁が低くなったので、多く入ってきました。ユーザーが10倍、売り上げが5倍になったのですが、なんと営業利益は同じ期間で15倍になっています。なぜかといえば、クラウド型サービスのすごいところで、ワンバージョンだけ管理すればいいからです。iPhoneと同じです。
ユーザーが10倍に増えようと、ワンバージョンで済ませられる。それのクラウド化も進んだことにより、流通・管理コストもかかりません。だから、営業利益が15倍にもなったのでしょう。Adobeの収益モデル変革の挑戦は成功しました。
構成/永野裕章(日経BOOKSユニット)
シリーズ累計33万部のベストセラー『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』シリーズの新装マンガ版が発売! 14世紀イタリア・メディチ家から21世紀のテック企業まで世界の歴史を変えたビジネスモデルを一気読み。
三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画/日本経済新聞出版/2090円(税込み)


