日本のFinTech企業として、ユニコーンクラスの成長を見せているのがマネーフォワードだ。創業は2012年。当初は家計簿アプリ「マネーフォワード ME」としてスタート。現在は、法人・個人事業者向けサービスとして「マネーフォワードクラウド」が躍進中。パンデミック期に、経理業務のIT化が大きく前進したことも追い風となった。
CTOを務める中出匠哉氏が入社した2015年ごろに約60人だった社員は、2025年8月現在、連結で2916人。エンジニア組織の英語化を推進しており、世界中から集まった優秀なエンジニア組織を統括するCTOの中出氏に、組織人、エンジニアに読んでほしい本を選んでもらった。
10年で何十倍もの規模に成長。その過程で参考にした本
マネーフォワードは2012年に創業した会社ですが、時代の流れもあって急速に成長してきました。私が入った2015年からでも何十倍という大きさになっています。マネーフォワードでは、経営合宿でテーマを決めて本を読む機会があるのですが、今回はその過程で参考にした本を選んできました。「先人の立ち上げてきたスタートアップが何を経験し、どう考えて成長してきたのか」ということはやっぱり参考になります。
私自身、もともと創業メンバーの一人がCTOを務めている会社に入社したので、自分がCTOになるとは思っていませんでした。ですから、途中で学んでいく必要がありましたし、いろいろな本を読んで学んだことも多かったです。
入社したころも今も、だいたい社員の3分の1ぐらいがエンジニアです。入社当時は社員数が60人くらいでしたから、20人ぐらいでしょうか。今は、東京だけではなく、名古屋、京都、大阪、福岡に加えて、ベトナムとインドに合計で1000人近いエンジニアがいます。
創業のころから、ちょうどDXでさまざまなものの電子化、クラウド化が始まって、会社はそれとともに成長してきました。経理は専門知識もいるし、もともとは「手作業でなければできない」という個別の事情もあるので、電子化が進みづらい領域でした。それがパンデミックで一気に電子化しなければいけない事態になり、大きく進みました。今は「紙にハンコを押さなきゃいけない」というようなことはだいぶ減りましたよね。
でも、実際は「請求書をPDFにして、それを受け取ってOCRで読み込んでいる」なんてことをやっているわけですから、まだまだ非効率です。紙がPDFに変わっただけで、PDFの内容を再度人が手で入力しているケースも少なくありません。それよりも、ちゃんとデータを連携して、システム上で請求を立てれば、相手のシステムに正確な数値が入るようにしたいですよね。現在は、デジタル庁も推進している「Peppol(ペポル)」という電子インボイスの国際的な標準仕様への対応が進んでいます。
もちろん、将来的にはもっとAIの活用が進み、紙とデータの請求書を渡して「経費精算して」というと処理してくれるといったエージェント的なものになっていくと思いますし、開発も進めています。
そうした成長の中で、私たちが参考にしてきた本をご紹介します。
Amazonの独自ルールをアレンジして取り入れる
ジェフが小さなチームに対して強調したもう1つの重要な方針は、「常に約束は控えめに、成果においては顧客の期待を超えるべし」というものだった。
その例の1つが商品の配送方法だ。ウェブサイトには普通郵便で配送しますと明記した。だが実際には、すべての出荷について、費用は高くつくが、アメリカ国内ならどこでも2、3日以内に到着する優先扱い郵便を採用した。そして出荷確認のメールで、配送を無償で優先扱い郵便にアップグレードしましたと伝えた。
マネーフォワードの経営合宿では、前もって課題図書というのが設定されて、それに関して合宿中にディスカッションを行うことがよくあるんです。そこで題材として取り上げるのは「私たちよりも先を行っている会社の成功の秘密」とか「どういう仕組みで会社を経営しているか」といった本たちです。
マネーフォワードでは、独自に何かを生み出すというよりは「うまくいっている会社のやり方を学んで、アレンジして取り入れる」ことが多いです。そういう意味で本を読むのは大切なのですが、この本もそうやって取り上げられた一冊です。
Amazonは本当にいろんな仕組みを作っていますよね。例えば有名なものでは「2ピッツア・ルール」。「チームは2枚のピザでおなかがいっぱいになるぐらいの人数にしたほうがいい」ということですね。それより多いと、指示が行き渡らなかったり、互いの意思疎通が困難になったりするのでしょう。
「ワーキング・バックワーズ」もそうですね。「仕事は逆から考えろ」という意味で、最終結果から逆算して仕事をするということです。例えば、サービスを作るときに、まず発表会のプレスリリースから書くような形ですね。プレスリリースを書くと、どういうことが必要とされていて、それをどのような形にすればいいかが見えてくる。そこから逆算してサービスを開発していくわけです。
彼らの作った仕組みはたくさんあって、そのうちの一部はマネーフォワードでも取り入れて活用しています。
例えば「社内のミーティングにはパワポ資料禁止」というもの。パワーポイントの資料は、作るのに時間がかかるわりに情報量は少なめです。そして、テキスト情報よりも、印象的なグラフやキャッチフレーズで埋め合わせようとしがちです。Amazonの会議資料は、A4サイズで6ページの文字だけの資料だといいます。文章で提案を行うので、ごまかしは利きません。
マネーフォワードでもこの方式を採用しているのですが、会議が始まったら、まずこの資料を全員がじっくりと読みます。ドキュメントの提出者が説明をするのではなく、黙ってじっくり読むのです。事前に資料を共有して「読んでおいてください」という方法もあるかもしれませんが、全員忙しいですし、どうせ全員が等しく読む時間を取るならば、それが会議の冒頭の5~10分でもいいはずです。
この6ページの書類に「なぜ必要なのか」「どういう手順で導入するのか」「何が得られるのか」を文章としてしっかり書きます。もちろん、書く過程で十分に検討し、洗練しておく必要があります。会議では、このドキュメントに書かれたことをもとに、実行すべきか、問題はないかを議論します。
他社のやり方を、そのままでなくても、うまくアレンジして取り入れられるといいですね。
「ルールがない」というルールの前提にあるものは?
午前9時から午後5時まで(8時間)働く社員もいれば、午前5時から午後9時まで(16時間)働く者もいるかもしれない。後者は前者の2倍の労働時間だが、誰もそれを管理していない。ならばなぜ、ある社員が年に50週働いたか、48週働いたかを気にする必要があるのか。その差はわずか4%なのに。パティ・マッコードはネットフリックスの休暇規程を完全に廃止しよう、と提案してきた。「休暇規程は『たまには休め』ということにしましょう」と。
次は『ノー・ルールズ』です。このNETFLIXに関する本には結構衝撃を受けました。ノー・ルールズというタイトルのとおり、「優秀な社員で構成されているなら、余計なルールはいらない」という発想の本です。
会社が大きくなるに従って、いろいろとルールを整備していくのが普通ですよね。マネーフォワードもそうです。そうした「普通」を真っ向から否定している本です。
この本には「能力密度」という話があって、それも興味深かったですね。NETFLIXも成長の過程で組織が大きくなったものの業績が悪化し、やむを得ず解雇をしなければならないというフェーズがあったそうです。その過程で、すごく悩みながら解雇した人たちがいたんだけれども、残った人の能力が高いレベルでそろったので、結果的に大いに全体のパフォーマンスが向上した……という話です。
能力が低い、モチベーションが低い、妥協をするような人がいて、自分と同等の扱いを受けていたら、周りも「あれでいいんだ」と妥協してしまう。これが良くないという話ですね。その後、NETFLIXでは本当に採用で妥協せず、そのポストに必要なパフォーマンスの高い人を採用することを徹底したそうです。
結局それも「ルールはいらない」というカルチャー作りの一環だと思います。ダラダラとした人がいなくなり、筋肉質な組織にしたほうがパフォーマンスが出る。そういう優秀な人たちだけを集めて会社運営できれば、高い水準で経営できる可能性があるということですね。
もちろん、NETFLIXは極端な例だと思います。しかし、部活動やサークルでも「全国優勝を目指します」という活動と「楽しくできればいい」という活動がありますよね。そこで、入部する側の期待と実際が違うと不幸だと思うんです。「全国優勝したい」という人が全国優勝を目指す部活に入るのであれば、ハードな練習は期待に沿っているはずですし、その逆もあります。異なるモチベーションの人は入らないほうが、お互い幸せですよね。だから、企業カルチャーをはっきりさせてパブリックにしておくのは大事なのだと思います。
超一流の経営者とは、どういう人達なのか?
そもそも企業の業績は、CEOにはどうにもできない要因に大きく左右されるのではないだろうか?(中略)だが裏を返せば、これは、結果に影響を与える要因のおよそ45パーセントは、CEOという一人の人物の手に委ねられていることも意味している。私たちは、トップリーダーが影響を及ぼせる領域で目立った変革を起こしたCEOが誰なのかを突き止めたかった。
この本も経営合宿で読んだものです。成功しているCEOの行動特性をマッキンゼーが分析して、「成功している人は、こういうことをしている」というのをまとめた本ですね。500ページ弱あって、心が折れそうなくらいに長いのですが、自分が今悩んでいる、興味のあるポイントにフォーカスして読めばいいと思います。
200人のCEOの中から誰の話を読むか選ぶのですが、その200人がもう普通の人じゃないですよね。一貫して大成功を収めていて、株主総利回り(TSR)で他社を大きく上回り、倫理的ふるまい、従業員満足度で他社を上回り……という、ほとんどスーパーマンのような人たちばかりです。
ところどころ事例もあって、例えば「自分のバリューが一番出るところに時間を使おう」というのは、多くの人が当然だと感じると思いますが、実際は「やれと言われたこと」や「自分がやりたいだけのこと」に時間を使ってしまいがちです。彼らの行動特性を読んでいると視点が客観的になり、自身のそうしたことにも気付かされます。
タイトルには「CEO」と付けられていますが、CEOでなくても、マネジメントレイヤーの方であれば参考になることがあると思います。
取材・文:村上タクタ/写真:尾関祐治(人物)、スタジオキャスパー(書籍)/構成:西 倫英=日経BOOKSユニット第2編集部







