「森岡毅氏の『嫌われることを恐れない』選択は、ここシリコンバレーの文化に極めて近い」。こう語るのは、米国カリフォルニア州サンフランシスコを拠点にするジャーナリストの清水真佐子さん。長年世界中から集まるエンジニアや起業家たちを取材してきた清水さんが『 森岡毅語録 明日は今日より強くなれる 』(奥井真紀子著/日経BP)の魅力を紹介します。

 「未来に恩返しをしたい」
 「稀代のマーケターであり実業家」森岡毅氏のアフォリズム(警句)があふれる一冊。一見どこからでも読めるビジネスパーソンへの指南書のような体裁に反し、「苦手なことが多い」少年が、不得意を逆手に取って成功を目指す「物語」として、私は引き込まれ一気に読んだ。

 森岡氏は「観光業は日本の将来の食い扶持(ぶち)」(p74)と日本を元気にする「大義ある挑戦」に挑み、2025年のジャングリア沖縄開業に漕(こ)ぎ着けた。無謀とも見えた計画に取り組む森岡氏が、その成功と、あるいは「意味ある失敗」の手の内を惜しげもなく明かす。ある時は自信いっぱいに、またある時は恐ろしいまで謙虚に。

 私は米国シリコンバレーに30年余暮らし、近年(停滞する)母国を憂うことが少なくない。だからこそ、本書によって一筋の確かな希望を示された。これこそ森岡氏の語るリーダーそのものだと気がついた。

 森岡氏は、まるで開国を迫られた幕末の日本人のように国のあり方を考え抜いている。米国企業での豊富な経験に基づき、世界で生き残るには「日本人らしさを活かした」社会を実現するしかないという提言には説得力がある。「勤勉性」「一丸となる同調性」そして「相手を思いやる気持ち」(日本にいると気がつかないが、これはちっとも当たり前のことじゃない!)という良き特徴を活かすしかない。そして日本の「やりっぱなし文化」を改めたいという発言には、苦笑しつつ膝を打った。

 2016年以来、森岡氏を取材してきた著者は、ジャングリア沖縄を、森岡氏の『フィールド・オブ・ドリームス』(1990年日本公開の米国映画)だと分析する。「私はリスクを取っているのではない。悔いを残さない生き方を選んでいるんだ」と言い切る森岡氏の「まずやってみよう、嫌われることを恐れない」選択は、ここシリコンバレーの文化に極めて近い。

 「『失敗したくないから』と途中でやめてしまう日本人が増えているように感じる」とこの国の停滞を憂う(p51)のは、海外に暮らす者の実感でもある。

 大人に理解されにくい「ごん太」(手のかかるやんちゃな子ども)が、理解ある教師に認められ、ソリの合わない上司からも学び、さまざまな自らの欠点や弱みを逆手に取って、誰にもできないことに取り組む。日本社会の尺度ではなく、「規格外」(教師や森岡氏妻評)ならではの尺度を持ち、無謀とも言える夢を目指して、考え抜き、段取りよく励む森岡氏の生き方が鮮やかに描かれている。

 日本の未来を考える時、誰もが立ち止まって考えざるを得ない数々の言葉を、著者の鋭い質問が引き出している。なかでも、第5章の「森岡毅はいかにして森岡毅になったのか」は、語録の謎解きであり、ビジネスのみならず教育を含む社会への示唆に富む。疲れ切った引退間近の会社員のような(失礼!)日本を、世界で生き残るためにアップデートしようとする森岡氏の情熱を、生い立ちから見事に描き出す本書は、日本の未来を考えるヒントにあふれている。