「『社員が感じた理不尽』は必ずたまって暴走する」「正しい決断をしないリーダーに従業員はがっかりする」――それぞれはいい人なのに、どうして組織になると、人は「倫理的」な行動ができないのだろうか。新刊『 組織は倫理をないがしろにする 戦略的に「誠実性」をデザインする 』(ロバート・チェスナット著、並木将仁監訳、松山宗彦訳)は、その理由と対策に迫った本だ。「パーパス経営」の重要性を説く京都先端科学大学ビジネススクール教授の名和高司氏が、本書の読みどころを解説する。

 パーパス経営が静かに広がっている。東京プライム上場企業の中で、パーパスを掲げている企業は2025年6月時点で、全体の約20%に上る(エスエムオー株式会社調べ)。パーパスブームの火付け役の一人として、それ自体は、大変うれしい光景である。

 しかし、残念なのは、パーパスが掛け声に終わっている企業が少なくないことだ。パーパスは実践してこそ価値がある。では、なぜ実践が難しいのか?

 経営の実際においては、難しい判断に迫られる。顧客、従業員、株主のうち、誰の利益を優先するのか。今の利益と将来の利益のどちらを優先するのか。このような簡単に答えが出せない課題に直面したとき、理想を掲げるパーパスだけでは役に立たない。

 パーパスを実践するためには、正しい判断、正しい行動に導くための価値観(バリューズ)と規範(プリンシプル)を組織内に徹底する必要がある。倫理を基軸にパーパスを実践する経営を、私は「エシックス経営」として提唱している。ではそのときのカギは何か?

 本書の著者は、それを「インテグリティ(誠実性)」と呼ぶ。「インテグリティ」は、高い倫理観と信念を持ち、言動を一致させて、一貫性を持って実践する姿勢を指す。それは決して容易なことではない。だからこそ「インテンショナル」、すなわち常に本気で取り組む必要があると、筆者は説く。

 エアビーアンドビーのチーフ倫理オフィサーとして、エシックス経営を実践した経験から紡ぎ出されるメッセージの数々は、説得力がある。

 例えば、次のような3つのメッセージは、エシックス経営を実践する上での本質に迫っている。

・誠実性はトップから始まる
・優先順位を明確にし、グレーゾーン(判断が難しい状況)においてどう行動するかを、現場に腹落ちしてもらう
・「多様性(ダイバーシティー)」が力を持つには、「包摂性(インテグリティ)」こそがカギとなる

 本書は、「誠実性」を徹底することがなぜ大切なのか(Why)、それは具体的に何を意味するのか(What)、そしてそれをいかに徹底的に実践するのか(How)を説く。それらを多くの実例を紹介しながら、丁寧に語り掛けてくれるところに、本書の醍醐味がある。

 パーパス経営を実践し、持続的な成長に向けて大きく踏み出していきたい経営者、そして、仕事を通じて自らの志を実現したい未来ビトに、ぜひ手に取っていただきたい書である。