世界金融危機を予見した「破滅博士」が迫りくる世界大混乱を警告した『 MEGATHREATS(メガスレット) 世界経済を破滅させる10の巨大な脅威 』(ヌリエル・ルービニ著/村井章子訳/日本経済新聞出版)。この本の魅力を、『 世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか 』(レイ・ダリオ著)の翻訳者であり、ジェイ・ボンド東短証券の代表取締役である斎藤聖美さんが解説します。

平和と繁栄の時代は終わった

 ロシアのウクライナ侵攻に続き、ハマスとイスラエルの凄惨な応酬。いったい世界はどうなってしまうのか。世界は破滅に向かっているのか。そんな危機感が募るなか、1年前に出版された本書は読みごたえがある。

 著者は、長く続いた平和と繁栄の時代は終わり、紛争と混乱の時代に大転換していると警告し、人類を脅かす10の巨大な脅威について解説する。

 それは、(1)過剰債務、(2)誤った戦略・政策、(3)人口問題、(4)金融緩和とバブル、(5)スタグフレーション、(6)金融の不安定化、(7)脱グローバル化、(8)AI(人工知能)、(9)米中新冷戦、そして(10)気候変動だ。

 過剰債務による財政問題がのっけから取り上げられると、小難しい国際経済の解説かと敬遠したくなるかもしれないが、彼の語り口は実に分かりやすい。

 アルゼンチンやメキシコの例、中国の借金依存の経済成長など、具体的な事例がうまく整理されて書かれており、そうだったのかと振り返って理解することができる。

米中新冷戦を「破滅博士」はこう見る

 まず興味を引いたのが中国とアメリカの新冷戦状態を解説した第9章だ。著者はユニークな角度からこの緊張関係を分析しており、1971年のニクソン訪中発表以来の米中関係の歴史を振り返って中国との距離感を描いている。生き生きとした近代史を学べて面白かった。習近平の娘がハーバード大学の卒業生ということも本書で知った。

 新興国が成長して覇権国家を脅かすと戦争が起きる。著者によると例外は二つあり、一つはロシア。結局ロシアは経済がたちゆかなくなり自滅した。もう一つは大英帝国。同じ英語を使う仲だし、二つの大戦でアメリカの支援が不可欠だったことが理由だった。著者は、米中の覇権争いも必ずしも戦争に至らないのではないかと楽観論を述べている。

 脱グローバル化を扱った第7章も内容は至極真面目だが、すごく面白い。ある企業家が既存品よりもはるかに低いコストでよりよい製品を開発したとする。50ドルのトースターが10ドルになれば消費者にとってはありがたい。だが、トースターの需要は急増しないから工場労働者は職を失う。それでも、その技術開発をした企業家は、イノベーターとして英雄扱いされるだろう。

 だが、中国から安く輸入したトースターを10ドルで売ると、中国に雇用を奪われたといって、アメリカ人は大騒ぎする。

 貿易もテクノロジーももたらす効果(トースターが10ドルになった)は共通しているのだが……。と、こんな調子なので、深刻な危機を扱っているはずなのに、楽しく読めてしまう。

AIへのラッダイト運動は正しいのかも

 しかし、AIを扱った第8章と気候変動を扱った第10章は読んでいて背筋が寒くなる。

 これまでの産業革命は、生産性を向上させ、消えていった仕事を上回る雇用を生み出してきた。かつては農村部から都市の工場に、そして、製造業からサービス業へと人が移動していった。しかし、2021年末のメタ(旧フェイスブック)の時価総額は9420億ドルだが、社員数は6万人ほど。フォードは、時価総額は770億ドルだが、18万6000人を雇用する。

 この比較を見れば、職を失っても行くところのない人が増えることがよく分かる。AIは人間に取って代わって単純作業をこなすと言われていたが、今や創造性を必要とする分野すらAIが取って代われるようになってきた。

 理論物理学者の故スティーブン・ホーキングは、AIが「人類の終末をもたらす可能性がある」と警告したそうだ。かつてのラッダイト運動は過ちだったが、AIに対するラッダイト運動は正しいのかもしれないという指摘には半信半疑ながら、恐怖を感じる。

 温暖化が進むと、氷が解けて陸が水に覆われ、食料が確保できなくなる。ツンドラが解けると、長く凍結していた微生物が目を覚まし、新型コロナウイルスのような病気がまん延する。この章では気が休まることは何も取り上げられていない。

 様々な脅威に取り囲まれた人類は、今後20年間を生き延びられるのか。著者の問いかけを笑い飛ばすことはできない。かといって何ができるのか。「シートベルトをしっかり締めておくように」という著者の最後の言葉が空恐ろしい。