経済学とはどのような学問のことを言うのでしょうか。経済学は金もうけのための学問ではありません。世の中の限られた資源をどのように有効に使えば、私たちは少しでも豊かに暮らせるのかを考える学問です。ジャーナリストの池上彰さんが、「マクロ経済学」「ミクロ経済学」「機会費用」など、経済学の基礎用語に触れながら、「経済学」の基本的な考え方について解説します。『 池上彰のやさしい経済学[令和新版] 1 しくみがわかる 』から抜粋。

経済「学」とは何だろう?

 経済というのは、あらゆる私たちの生活と関係しています。あなたが普段の生活の中で無意識に行っている経済活動を科学的に分析していこうと生まれたのが「経済学」という学問です。経済学と聞くと、金もうけのための学問というイメージを持っている人も少なくないのではないでしょうか。あるいは、やたらに難しい数式を使って、まるで数学そのもののようなイメージがあるかもしれません。ですが、経済学というのは金もうけのための学問ではないんですね。皆さんの生活にとって大変身近なものなのです。何かと言いますと、資源の最適配分を考える学問なのです。

 どういうことか。つまり、世の中のあらゆる資源に無限のものはありません。例えば天然資源でいうと、鉄鉱石であろうと石炭であろうと、石油であろうと天然ガスであろうと、資源というのはみんな限られていますね。その限られている資源をどのように有効に使えば、私たちの暮らしが少しでもよくなるんだろうか。それを考えるのが経済学です。

経済学とは資源の最適配分を考える学問(イラスト/北村人)
経済学とは資源の最適配分を考える学問(イラスト/北村人)
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経済学的なものの見方を身につけよう

 現在、近代経済学は、「マクロ経済学」と「ミクロ経済学」という大ざっぱにこの2つの分け方で考えるようになっています。マクロは、全体的なとか大きいという意味ですね。ミクロは細かいとか小さいという意味です。要するに、大きく捉えるか、小さく捉えるかの違いです。

 マクロ経済学というのは、例えば日本の景気が悪い、あるいは世界の景気が悪いときに政府はどんな対策をとればいいのだろうかという、大きな経済のメカニズムを考える学問です。一方、ミクロ経済学というのは、私たち消費者やそれぞれの家計がどんな消費行動をとるのか、また、それぞれの企業が限られた資源をどのように有効に使い、どれだけの従業員を雇って、どんな商品をどう売っていくのか、そういう細かいメカニズムや法則性、そういうものを見つけて分析する学問です。

 この講義では、マクロとミクロの両方を取り上げますが、あまり難しい概念を使うことなく、あなたがこれから日常生活でふと気づいたときに、これって私が経済活動をしているんだなとか、あるいは社会の中でどのような行動をとればいいのか、ということを考える、ある種の経済学的なものの見方を教養として身につけてもらおう、そういう趣旨で話をしていきます。

ミクロ経済学は、消費者やそれぞれの家計がどんな消費行動をとるのか、といったことを分析する学問(イラスト/北村人)
ミクロ経済学は、消費者やそれぞれの家計がどんな消費行動をとるのか、といったことを分析する学問(イラスト/北村人)
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何を選択し、何を捨てるか。それが経済学

 まず、経済学というのは、選択の学問と言っていいでしょう。ありとあらゆることを選択するんですね。そこには、あらゆる資源は必ず限られている、有限であるという「資源の希少性」という考え方があります。限られた資源をどう選択するのか、それが経済学であると言えます。

 世の中に石油がいくらでもあって、無限に石油をくみ出すことができたら、石油をどこにどう使うかなんて考えなくていいですよね。街のそこら中にケーキがいっぱいあふれていて、ただでケーキを食べられるのであれば、自分の限られたお小遣いでどのケーキを食べようか、なんて悩まなくていい。ありとあらゆるものがあふれていたら、経済学は成り立たないんですね。世の中にあるものすべてが限られている、希少性があるからこそ、それをどういうふうに使おうかと考えるところで、経済学は成立します。

 あなたが使える時間は1日24時間しかありません。24時間のうち、12時間寝るのか、8時間なのか、6時間なのか。残りの時間は勉強をするのか、アルバイトをするのか、デートをするのか。これもみんな一つひとつを選択することになります。私たちはいつも、すべてのことを無意識に選択して暮らしているのです。

 もっと大きな話で言えば、地面から鉄鉱石を掘り出し、それを石炭で燃やして溶かして鉄を作る。その鉄でマンションの鉄骨を作ろうか、あるいは運搬船を作ろうか、自動車を作ろうか、それとも農業用のトラクターを作ろうか。このように、限られた資源を何に使うのかということによって、世の中は大きく動いていくわけですね。まさにこれは選択するということです。

 そして、何かを選択しているということは、それ以外のことを捨てていることになります。あなたが何かを選択したということは、その代わりに何かを捨てているのです。その捨てているもの、これを「機会費用」と言います。何かを選択することによって、別の貴重なチャンス、すなわち「機会」を捨てている、その費用を払っている、こういう考え方もできるのです。

「私たちはいつも、すべてのことを無意識に選択して暮らしているのです」という池上さん(写真/中西裕人)
「私たちはいつも、すべてのことを無意識に選択して暮らしているのです」という池上さん(写真/中西裕人)
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池上彰著/テレビ東京報道局編/日本経済新聞出版/定価1760円(税込み)