前回は、私の最新刊 『ビジネススクール意思決定入門』 から、人間の思考の限界を知るためのゲームを紹介しました。意思決定をするうえでは、「理屈」で考えた合理的な判断が欠かせませんが、かといって理屈だけでは「正解」が得られないことがお分かりいただけたと思います。今回は「数字」の捉え方に関する演習問題を紹介しましょう。利益を増やす、成功確率を高めるためには、数字に惑わされてはいけません。
まずは次の問題を考えてください。この問題は『行動経済学 経済は「感情」で動いている』(友野典男、光文社)を参考にしたものです。
<問題1>白黒に塗られたサイコロ
ちょっと変わったサイコロがあります。6面のうち、4面が白、2面が黒く塗られています。このサイコロを何回か振ったときに、次の3つのうちのどの系列が最も生じやすいでしょうか?
① 黒、白、黒、黒、黒
② 白、黒、白、黒、黒、黒
③ 白、黒、黒、黒、黒、黒
<解答1>白が出る確率が高いから…
[授業参加者の答え]
①が一番多いと思う人:16人
②が一番多いと思う人:30人
③が一番多い人:1人
(内田):②を選んだ人が一番多いですね、その理由は?
(A):このサイコロは4面が白で2面が黒ですから、白が多く出るはずです。そうすると白の比率が最も多いのが②です。
(内田):なるほどね。本来ならば白が4つで、黒が2つくらいが正しいはずだと。3つの系列は、どれも黒が多いけれど、その中で白が一番多いのが②だということですね。②を選んだ人は、だいたいそういう考えでしょうか。
では、①を選んだ人は、何を根拠にしていますか?
(B):①の並びは、②の2つ目以降と同じです。だから、白が一番多いのは②ですけれど、それよりも①の並びのほうが出やすい。
(内田):はい、正解です。②の場合は「白黒白黒黒黒」だけが当てはまりますが、①の場合は、「白黒白黒黒黒」と「黒黒白黒黒黒」の2つが当てはまります。つまり①の並びになる確率は、②の並びになる確率より高い。だから正解は①です。
この問題は集合で考えると分かりやすいと思います。②は①の部分集合なので、②が①より多くなることはあり得ません。「黒黒白黒黒黒」という系列があれば、それも①の部分集合ということになります。
ギャンブラーの誤謬
こういう確率の問題というのは、惑わされることが多いのです。例えば「ギャンブラーの誤謬」という話があります。ギャンブラーは、ルーレットで6回続けて赤が出たら、「次は黒が出るに違いない」と思う。しかし、次に赤が出るか、黒が出るかというのは、過去に何が出たかとはまったく関係がない。それなのに人間は、10回続けて赤が出ると、「そろそろ黒が出るんじゃないか」と思いたくなる。
次に何が出るかということは、前に何が出たかということに影響されません。しかし、同時に「大数の法則」が働くから、長い目で見ると平均に回帰します。

プロ野球では、シーズンが開幕した直後の4月には、4割バッターが山ほどいるけれど、9月、10月には4割バッターはゼロになる。4月に絶好調だったバッターでも、ずっと4割を維持するとか、5割まで打率を伸ばすということは、まず起こらないのです。
ビジネスの意思決定をするときには、確率をよく考えると同時に、「利益をどのくらい上げることができるのか」という視点を欠くことはできません。どういう選択をすれば一番利益が大きくなるのかを見極めるには、計算が必要です。その基本を紹介しましょう。
では次の問題を考えてみてください。この問題は『新版 経済性工学の基礎―意思決定のための経済性分析』(千住鎮雄・伏見多美雄、日本能率協会マネジメントセンター)を参考にしました。
<問題2>友人にお金を貸すべきか?
それぞれ別々のスタートアップ企業を経営している根来君と山田君と谷口さんがやってきて、運転資金を貸してほしいと頼んできました。3人とも仲の良い友人です。3人が貸してほしいと言ってきた金額はいずれも200万円ですが、条件は根来君が年利10%、山田君が年利15%、谷口さんが年利20%です。いずれも返済期間は1年で同じです。
3人とも一流のビジネススクール出身で、健全経営を心掛けているようなので、貸し倒れの心配はなさそうです。しかし、あなたの手元には400万円しかないので、2人にしか貸せません。
どうしようか悩んでいるところに、金融業を営む内田君がやってきて、「お金が不足しているのなら融通するよ」と言ってきました。ただし、内田君は「自分も商売なので17%の金利をいただく」ということです。さてあなたならどうしますか?
<解答2>根来君には泣いてもらう
内田君から200万円を借りて、3人全員に貸してあげるという人は、とても友人思いだと思いますが、ビジネスパーソンとしては不正解です。間違えた人は、次のように考えたのではないでしょうか。
「内田君から借りた金利17%のお金を谷口さんに貸せば3%の利ざやが取れる。もともと持っていた400万円を山田君と根来君に貸せば、そこでも利ざやが取れる。3人からそれぞれ利益を得ることができる」
確かに、この問題では、内田君からお金を借りて、3人全員に融資しても、損失は出ません。しかし、あなたの利益を最大にするためには、3人全員に貸すのは正解ではない。利率が高い山田君と谷口さんに手元の400万円を貸したら、それで終わりにする。根来君には泣いてもらう。それが一番もうかるのです。
正解を得る考え方
この問題の正解を得るには、2つのステップで考えるといいでしょう。
まずは最初のステップでは、自分の手元にある400万円で最大の利益を上げる選択を考えます。これは簡単で、利率の高い相手から順番に貸していけばいいのです。つまり一番リターンが大きい年利20%の谷口さんに200万円を貸す。すると200万円が残るので、これを2番目にリターンの大きい山田君に貸す。これで400万円を使い切ってしまうので、根来君には貸せなくなります。
では、内田君からお金を借りてまで根来君に資金提供するのが得かどうか。それを見極めるのが第2ステップです。内田君から200万円を借りて、根来君に貸したら、もっと利益が増えるかどうか。内田君から借りる金利は17%で、根来君に貸したときの利率は10%ですから、逆ざやになって、損をします。つまり根来君に貸さないほうが利益は大きいのです。
内田和成(著)/日経BP/1870円(税込み)