成績が良い子には、気づかずに他の子よりも「できている」ことがある。自分や周囲をモニターする力が身に付いているのだ。彼らはどんな習慣を身に付けて、自分を向上させているのか? 日経プレミアシリーズ『 勉強できる子は○○がすごい 』(日本経済新聞出版)から抜粋して紹介する。
自己モニタリングの習慣
人間関係で失敗しないためには、自分の言動とそれに対する相手あるいは周囲の反応をモニターすることが必要となる。それができていないと、場違いなことを言ったり、人を傷つけるような無神経なことを言ったり、ずうずうしいことを平気で言ったりして、周囲から敬遠されることになったりする。
同様に、学習活動で失敗しないためには、自分の理解度や学習計画や学習姿勢の適切さをモニターすることが必要となる。それができていないと、わからないことが積み重なり、いつの間にか授業についていけなくなっていたりする。
さらには、自分がちゃんとわかっているかどうかをモニターしながら授業を聴いたり、ちゃんと理解できているかどうかをモニターしながら宿題をやったりする習慣をつけることも大切だ。
授業中にわからないことが多いと自覚できれば、どこがわからないのか、何ができないのかをさらにモニターしたり、授業中の姿勢や宿題など家での学習姿勢に問題はないかモニターしたりすることが大切だ。
わからないことをそのままにせず、自分で調べたり、先生や友だちに確認したりして、解決できているかどうか、自分の日ごろの姿勢をモニターすることも必要だろう。
教科書や参考書を読むときも、ちゃんと理解できているかどうか、頭に入っているかどうかをモニターし、よくわからないところにはしるしをつけたりしながら読み進める習慣をつけることも必要だ。
子どもの学習姿勢は友だち関係にも影響される。その意味でも、友だちを傷つけたり嫌な気持ちにさせたりする言動を取っていないかモニターすることも大切となる。
なぜ忘れ物をするのかをとことん考える
自己モニタリングを強化するために、自分の行動や言葉について、なぜそうなってしまうのか、なぜそんなことを言ってしまうのかをモニターする習慣を身につけることが大切となる。
自分の日ごろの様子をモニターした結果、授業に集中していない自分に気づいたら、なぜ授業に集中できないのかを考える。
そのときの自分の心理をモニターしてみると、ゲームのことが頭から離れないとか、空想に耽(ふけ)っていることが多いとか、わからないことが多くてつまらないとか、先生が好きじゃないからやる気になれないとか、仲の良い友だちが隣にいるからついしゃべってしまうなどといった事情がわかってくる。
宿題を忘れることが多いことに気づいたら、なぜ宿題をやらないことが多いのか、家にいるときの自分の様子をモニターしてみる。
すると、ついゲームを始めてしまい、ゲームに集中しすぎて宿題をする時間がなくなってしまうとか、SNSに忙しくて気が散って宿題のことをつい忘れてしまうとか、友だちと遊んで家に帰ると疲れてしまい宿題をやる気力がないなどといった事情がわかってくる。
忘れ物が多いことに気づいたら、なぜ忘れ物が多くなってしまうのか、日ごろの自分の様子をモニターしてみる。
すると、前の日に翌日の持ち物の用意をせずに朝慌てて用意しているとか、持っていく物をメモしないため思い出せないこともあるなどといった事情がわかってくる。
友だちと比べて自分はあまりやる気がないことに気づいたら、なぜやる気になれないのか、勉強に対する自分の思いをモニターしてみる。
すると、どうもわからないことが多くて難しいからやる気になれないとか、面白くない勉強を何のためにやるのかわからないからやる気になれないとか、自分のためだと言われてもどういうふうに自分のためになるのかわからないからやる気になれないなどといった事情がわかってくる。
問題点の背景にある事情がわかれば、有効な対処法もみえてくる。
現実から目を背けても状況は好転しない
学力向上のためには、わからないことをわかるようにすることが欠かせない。そのためには、何がわからないのかを明確につかむ必要がある。
授業中の練習問題や定期試験で間違ったところは、まさにそうした弱点補強のヒントとなる。なぜ間違ったのかを検討するとともに、間違ったところにはしるしをつけておき、できるようになったかどうか、後でまたやり直してみることも大切だ。
失敗を気にすると落ち込むし、モチベーションが下がるから、できなくても間違っても気にしないようにといったアドバイスをしばしば見かけるが、それではせっかくの実力向上のヒントを見過ごすことになる。
できなかったことや間違ったことから目を背けることでポジティブ気分を保ったとして、今は気分が良いかもしれないが、後で痛い目にあって嫌な気分に浸ることにならざるを得ないし、長い目で見れば大損をする。
現実から目を背けても、状況は好転しない。気にしなければ何も改善されない。気にするのが悪いのではなく、反応の仕方が問題なのだ。感情反応ばかりして認知反応を疎(おろそ)かにするのが悪いのである。
授業でみんながわかっていることがわからなかったり、テストで悪い成績を取ったりすれば、だれだって良い気持ちはしない。そんなときに大事なのは、感情の渦にのみ込まれないようにすることだ。
落ち込んだり、「もう、嫌だ」などと感情的になるのではなく、「何がわからないんだろう」「どこができていないんだろう」というように、わからないことやできないことをつかむべく冷静に反応することが大事である。
しっかりと間違いと向き合い、なぜ間違ったかを検討して弱点を補強する。そこをきちんと対処すれば力がついていき、状況の好転が望める。
そのためにも、失敗のとらえ方を前向きにしておく必要がある。つまり、失敗を後ろ向きにとらえるのではなく、今後に生かすための貴重な材料になるととらえるのだ。失敗を糧にするとらえ方と言ってもよい。
読書によって視野を広げる
読書によって学力の基礎となる言語能力が磨かれ、読解力や思考力、想像力が高まるということはよく指摘されることだし、研究データの蓄積もある。だが、読書を通して多様な生き方や考え方に触れることも、大切だ。
自分をモニターして何らかの気づきを得る際に、自分を相対化することが、きっかけを与えてくれることがある。
たとえば、先ほどの「失敗を糧にする」といった発想が自分の中になかった場合、読書を通して、失敗にめげずにそれをバネにしてやる気を燃やす物語の登場人物を知ったり、そのようにして力をつけていった偉人の伝記を読んだり、失敗を糧にする発想の大切さを説く評論を読んだりしたことがきっかけとなり、それまで失敗をネガティブにしかとらえられず、失敗と向き合うことができなかった自分から脱却するというようなことも起こってくる。
読書によって、「こんな考え方もあるんだ」「こんなふうに思えばいいんだ」「そんなふうに感じる人もいるんだ」などと、自分の中になかった視点を得ることで、自分の視野を広げることができるのだ。
「間違った問題の見直しが苦手」「何でも丸暗記する」「いつも感情的だ」――。勉強してもなかなか結果が出ない子どもには、それなりの理由があった。教育界でひそかに浸透しつつある「メタ認知」をテーマに、その真相に迫る。
榎本博明(著)/日本経済新聞出版/990円(税込み)