同じ言葉でも、人それぞれ違う意味で使っている。ぶつかり合いに見えても、実は思いが同じことも多い。大切なのは、相手の言葉の奥にある「本音」をきちんと受け取り、伝え返して確かめ合うこと。NVC(非暴力コミュニケーション)理論を軸に、コミュニケーション・コンサルタントが信頼関係を深める聞き方のコツを解説。日経ビジネス人文庫『自分と相手の「本音」がわかる会話術』(西任暁子著)から抜粋・再構成してお届けする。

「言葉の意味」に耳を傾ける

 ある会社の役員研修でのことです。
 会社が求める人材について話し合っていると、AさんとBさんの意見がぶつかりました。

 A「バランスのいい社員が欲しい」
 B「バランスのいい社員なんていらない」

 言葉だけを聞いていると、ふたりは真っ向から対立しているように見えますね。

 でも、言葉の奥に意識を向けていると、ふたりは「バランスのいい社員」という言葉を、違う意味で使っていることがわかりました。

「バランスのいい社員」が意味するもの

 私「お話の途中にすみません。Aさんのおっしゃるバランスのいい社員とは、“いろんな人とバランスよくコミュニケーションができる社員”という意味でしょうか」
 A「そうです」
 私「しっかりコミュニケーションをとって協力しながら働ける、そんな社員さんを求めていらっしゃるのですね」
 A「そうです」
 私「そんなAさんの考えに、反対の方はいらっしゃいますか?」
 (全員首を横に振る)

 私「それでは、Bさんがおっしゃるバランスのいい社員とは、“国数社理英、全教科平均点を取るタイプの社員”のことで、そんなバランスのいい社員よりは、何か突出した特技や専門性を持つ社員が欲しい、そうお考えなのでしょうか」
 B「そうです」
 私「では、Bさんの意見に反対の方はいらっしゃいますか?」
 (全員顔を見合わせて、そんなことないよねと確認している)

 私「いませんね。ということは、AさんとBさんの意見はぶつかっておらず、全員同じ考えをお持ちのようですね」
 (全員きょとんとする)

違う内容が同じ言葉になっただけ

 ふたりは、「バランスのいい社員」という言葉を違う意味で使っていることに気づかないまま、自分たちが対立していると信じていました
 でも実際は、違う内容が同じ言葉になっただけなのです

 言葉は、思考や感情に貼りつけたラベルのようなものですから、同じ言葉でも人によって意味が異なることはよくあります。

 そこで話を聞くときには、相手のラベル(=言葉)が、自分のラベルとは違うかもしれないと意識することが大切です。
 相手が使う言葉の奥にある思いに、耳を傾けたいですね。

相手に伝え返す3つの理由

 聞いて受け取った話は、相手に伝え返します。その理由は3つあります。

  • 【理由1】言わないと、受け取ったかどうかがわからない
  • 【理由2】話し手が自分の発言を確認できる
  • 【理由3】伝え返すことで、相手は冷静になれる

 それぞれ説明していきましょう。

伝え返して理解を共有する

【理由1】言わないと、受け取ったかどうかがわからない
 話を聞いて受け取るという行為は、聞き手の内側で行われるので、話し手は目で見て確認することができません。

 そこで、受け取ったことを言葉にして伝えると理解を共有できますし、話し手はちゃんと聞いてもらえたことがわかって安心できるでしょう。

【理由2】話し手が自分の発言を確認できる
 話をするとき、人は話すことに集中します。
 つまり、自分の中にあるものを「出す」ことに一生懸命なので、自分が何をどのように話しているのか、そして相手にはどう届いたのかということにまで意識を配ることがむずかしくなるのです。

 そこで、話した内容を伝え返してもらうと、今度は聞いて「受け取る」ことに集中できますから、話し手は自分の発言を落ち着いて確認できるでしょう。

短く「相手が使った言葉」で返す

【理由3】伝え返すことで、相手は冷静になれる
 感情的になってしまうと、自分が何を言っているのか、わからなくなることがありますね。そんなときに伝え返してもらうと、自分を客観視できて落ち着きを取り戻しやすくなります

 伝え返すと言っても、聞いた話をすべて伝え返す必要はありません。
 これが言いたかったのかなと感じたことを、短い言葉で伝えます。

 そのときもし余裕があれば、相手が使った言葉を尊重し、同じ言葉を使うといいでしょう。相手が「セールス」と言ったなら、営業と言わずにセールスという言葉を使う、といった具合です。

 このような「伝え返し」は信頼関係を築く助けとなってくれます。
 「しっかり話を聞いてもらえた」と思うと、安心できて心が開きます。

話が途切れないときの切り出し方

 伝え返すタイミングは、相手がある程度話し終えた区切りのいいところにします。
 もし話が途切れないときは、こんなふうに切り出すのもいいでしょう。

 「◯◯さんの話をちゃんと受け取れているか確認したいから、ここで一度私に聞こえてきたことを話してみてもいいですか?」
 「話の途中にごめんね。いろんな話を聞かせてもらって、ちょっと私のキャパを超えそうなの。ここまで聞かせてもらった内容を一度話してみてもいいかな?」

 話を途中でさえぎってはいけないと思うかもしれませんが、案外、相手もどこで話を終えていいのか困っていることもあります。

 それに我慢して聞いていると、そのうちに疲れてきて、結局は聞けなくなってしまうでしょう。そんなときは、自分が感じていることを正直に伝えられたらいいですね。

■主要参考文献
『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』マーシャル・B・ローゼンバーグ(安納献監訳・小川敏子訳/日本経済新聞出版、2012年)
対立しているようで、実は同じことを言っている場合も多い(写真 beeboys/stock.adobe.com)
対立しているようで、実は同じことを言っている場合も多い(写真 beeboys/stock.adobe.com)
画像のクリックで拡大表示
日経ビジネス人文庫
自分と相手の「本音」がわかる会話術
「本音」を言葉にすれば、人間関係はもっとラクになる!

「自分も相手も大切にするコミュニケーション術」を、①自分の本音に気づく→②相手の本音を聞く→③自分の本音を伝える、の3つのステップで解説。心の奥に隠された「本当に言いたかったこと」とその上手な伝え方がわかります。ビジネス・日常のあらゆるシーンで応用可能です。

西任暁子著/日本経済新聞出版/880円(税込み)