2024年8月、日経文庫は創刊70周年を迎えました。その長い歴史の中で、日経文庫は数々のロングセラーや経済・経営・ビジネス実務の名著を生み出しています。そこで、日経文庫の平井修一編集長と各編集担当者が、さまざまなテーマでおすすめの日経文庫を解説。今回は特別編として、新社会人に役立つ本を、平井編集長と各編集担当者が2回にわたって紹介します。前編では、データサイエンスやAI(人工知能)といった旬のテーマの本を6冊取り上げます。聞き手は、昨年、新社会人だった入社2年目の黒田琴音と茂木拓朗(どちらも日経BOOKSユニット)が務めました。
注目の職業、データサイエンティスト
『
データサイエンティスト入門
』(野村総合研究所 データサイエンスラボ編、日経文庫)
『
ビジュアル データサイエンティスト 基本スキル84
』(同)
平井修一・日経文庫編集長(以下、平井) 今回は新年度を迎えるにあたって、新社会人に役立つ日経文庫を紹介したいと思います。まずは『データサイエンティスト入門』と『ビジュアル データサイエンティスト基本スキル84』です。担当の栗野俊太郎(日経BOOKSユニット)に聞きます。
栗野俊太郎(以下、栗野) データサイエンティストはビッグデータを加工、分析して、ビジネス課題の解決に活用する職業です。『データサイエンティスト入門』では実際に求められる能力や業務内容、実際の事例に基づいたケーススタディを収録しています。『ビジュアル データサイエンティスト基本スキル84』では左ページに解説、右ページに図解や図表が入り、データサイエンティストに必要なスキルを学べるようになっています。
『データサイエンティスト入門』が出たのは2021年ですが、当時はデータサイエンティストは今ほどメジャーではありませんでした。ただ「データサイエンス入門」というタイトルにすると、ありきたりになってしまう。そこであえてデータサイエンティストという職業に注目が集まるタイトルにしました。結果的にそれが功を奏し、データサイエンティストという職業に興味がある人や学生、転職したい人に読まれています。
平井 仕事では多かれ少なかれデータを扱うと思いますが、データサイエンティストの定義とは?
栗野 この2冊ではデータサイエンティストを「データを使ってビジネスを変革できる人」としています。なぜ、この本が新社会人におすすめかというと、近年、一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部や順天堂大学健康データサイエンス学部、大妻女子大学データサイエンス学部など、多くの大学でデータサイエンスを学べる学部や学科が新設され、注目されていることがあります。今後は生成AIの普及に伴い、AIでデータを整理し、ビジネスの課題解決に役立てる場面がさらに増えるでしょう。データサイエンティストに必要な「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」という3つの能力が求められる場面が増えると思います。
ちなみにデータサイエンティストと聞くと「理系っぽい」というイメージがあるかもしれませんが、文系の出身でもデータサイエンティストになることは可能です。初期の段階では高度なプログラミングスキルは必要ありません。
黒田琴音(以下、黒田) 私は当社が2社目の新卒なのですが、前職ではデータサイエンティストに近い仕事をしていて、『データサイエンティスト 基本スキル84』に出てくるノーコード、ローコードはなじみがあります。それ以外にも前職で得た知識は今もWeb記事を制作する際に生きていて、「デジタルではプログラミングで指示したことしか動かない」という基本を学ぶのにいいと思います。また、自分がデータサイエンティストでなくても役立つでしょう。社内でエンジニアの人と関わることもあるでしょうし、『データサイエンティスト入門』はエンジニアの人がどうやって働いているかや、自分が使っているシステムがどう動いているのかを理解するのにもいい本です。
DX人材のスキルの1つがAI
『 ビジュアル AI活用基本スキル96 』(野村総合研究所編、日経文庫)平井 次は『ビジュアル AI活用基本スキル96』です。こちらはまさにAIを活用するためのスキル本ですね。担当の日経クロステック編集・島田優子に聞きます。
島田優子(以下、島田) 今はどこの企業でも「DX(デジタルトランスフォーメーション)人材」を育成しようとしています。では、企業が求めるDX人材とは何か、と考えると、その要素の1つがAIを使いこなせることではないでしょうか。この本もビジュアル版なので左ページに解説、右ページに図解や図表が入っていて分かりやすく、新社会人が読み進めるにはぴったりです。今は「OpenAIがLLM(大規模言語モデル)を使ってChatGPTの精度を上げた」といったニュースを目にする機会もよくあると思います。
では、LLMとは何か分かるでしょうか。また、ChatGPTは生成AIの一種ですが、実は生成AIにも何種類かあり、本当に仕事で使っても安全な生成AIサービスはどれなのかといったことがこの本では網羅されています。
そういえば本書をつくっている最中に中国のスタートアップが開発したAI、DeepSeek(ディープシーク)が話題になったのですが、著者の野村総合研究所の方は冷静な対応で、結局この本には詳しく書きませんでした。AI分野ではディープシークのような技術が今後も続々と登場するので、ディープシークそのものよりも、ディープシークの開発に利用された技術を解説しようという判断でした。「蒸留」という技術なのですが、それが本書では解説されています。その後、ディープシークショックが一段落したので、入れなくて正解でしたね。そのあたりの著者の見極めはさすがだと思いました。
黒田 デジタル関連の本は変化が速いので、見極めが難しいですね。古くなる情報もあるかもしれません。特にどこを重点的に読めばいいですか。
島田 プロンプトの作成など基本的なスキルは変わりません。おそらく生成AI登場後のイノベーションは連続的になるでしょうし、この本では基本的なポイントを押さえています。今は第5次AIブームですが、これまでの流れを知っておくと次のスキルの習得にも役立つはずです。
栗野 読み方のポイントを1つ伝えると、DALL-E、Stable Diffusionなど英語で書かれている固有名詞は名前が変わる可能性があります。でも、もう日本語として根づいている「電子透かし」「アライメント」といった言葉はそんなに変わらないでしょう。
エクセルを使えるのが社会人の基本
『
ビジュアル 仕事が10倍速くなるエクセルワザ事典
』(日経PC21編、日経文庫)
『
ビジュアル ショートカットキー 時短ワザ事典
』(同)
平井 続いては『ビジュアル 仕事が10倍速くなるエクセルワザ事典』『ビジュアル ショートカットキー 時短ワザ事典』です。エクセルは新社会人はもちろん、中堅にも役立ちますね。これらの担当は、技術プロダクツユニット クロスメディア編集部長の田村規雄です。
田村規雄(以下、田村) 新社会人はエクセルを使えるようになるのが基本中の基本ですが、いわゆるエクセルのマニュアル本の場合、エクセルの機能を1から10まで説明するものが多いと思います。それに対して『ビジュアル 仕事が10倍速くなるエクセルワザ事典』では、とにかく日頃の実務で役立つテクニックや機能を紹介することに主眼を置いています。「こういうワークシートを処理したいときは、このテクニックが使えますよ」と利用シーンを示したうえで解決策を解説するという、「日経PC21」の誌面づくりで培ってきたノウハウを生かしました。「ヘルプ機能を見てもよく分からないな」というときに役立ててほしいですね。
平井 「これは使える」というワザはありますか。
田村 個人的にはデータ整理に役立つテクニックをおすすめしたいです。例えば、何百件とある住所データを都道府県と市区町村以下に分けたいとき、手作業だと丸1日かかってしまいます。ところが、関数の組み合わせワザを使えば一瞬です。しかも、難しい関数式を覚える必要はありません。この本を開けば書いてありますから、それをまねするだけでOKです。
茂木拓朗(以下、茂木) 私たちZ世代はタイパ・コスパを重視しがちなので、最初は「ChatGPTで調べれば出てくるのでは?」と考えていました。しかし、この本を読むと知らないワザがいろいろ紹介されていました。知らないワザは調べることもできないので、網羅的に学んでおくことに意義があるのではないでしょうか。それに、この本を机に置いておくと、上司に話しかけてもらえるチャンスを演出できそうです(笑)。
田村 私自身も入社してからエクセルを学び、最初は先輩に「オートフィルを覚えると仕事が速くなるよ」などと教えてもらいました。まずは入力、次に表作成、慣れてくると計算、データ整理のようにレベルアップしてきたので、その順番通りに本を構成しました。エクセルを初めて使う人にも分かりやすいと思います。
もう1冊の『ビジュアル ショートカットキー 時短ワザ事典』はワンランク上の時短を目指すなら覚えておくべきワザを紹介しています。今はノートパソコンを使う人が多いですし、マウスがないときにもショートカットキーを使うと便利です。ショートカットキーには似た系統があり、だいたいコピー関連はCtrlキーと何かのキーを組み合わせて使います。そうした概念的なことと実際の使い方がこの1冊で分かります。
茂木 こちらも机に置いておいて、辞書的な使い方ができそうです。ちなみに私が一番便利だと思ったワザは、経費精算の際に日付を入力するショートカットキーでした。
新社会人に一番必要な書く技術
『 ロジカル・ライティング 』(清水久三子著、日経文庫)
平井 最後は『ロジカル・ライティング』です。新社会人には「書く技術」も必要ですね。担当は日経BOOKSユニットの小谷雅俊です。
小谷雅俊(以下、小谷) 今はメールにチャットと、電話や対面で話すよりも文書を書いて連絡する機会が増えています。そのときにきちんと伝わる文書を書くのは大事ですよね。どんなに優れたことを言っていても、文書が間違っていたり読みづらかったりすると、「仕事ができない」と思われかねません。逆もまたしかりです。この本では「目的を明確にする」「ターゲットを知る」「メッセージを構成する」というステップを踏まえて、論理的な文書を書くにはどうすればいいかを解説しています。文例集も載っているので、便利な1冊だと思います。
黒田 高校生のときにロジカル・シンキング、デザイン思考といった言葉がはやって、興味がある人は本を買って読んでいた印象があります。
小谷 高校生で読むとは素晴らしいですね!
茂木 最近では『 まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書 』(阿部幸大著/光文社)といった本も人気ですが、「物事を正しく論じるための本」が多いように思います。その点、この本は「どう相手に納得してもらうか」に重点を置いていると感じました。
私も新卒で入社して以来、毎日何通もメールをやりとりしていますが、相手とのやりとりで齟齬(そご)が起きていると感じることがあります。でも、この本を読んで、「相手が理解してくれている」と勝手に思い込んでメールを書いているのが原因だと気づけました。本の帯に「企画提案も、報告書も、自由自在!」とありますが、新社会人が一番必要なスキルだと思います。
(後編に続く)

取材・文/三浦香代子









