2024年8月、日経文庫は創刊70周年を迎えました。その長い歴史の中で、日経文庫は数々のロングセラーや経済・経営・ビジネス実務の名著を生み出しています。そこで、日経文庫の平井修一編集長と各編集担当者が、さまざまなテーマでおすすめの日経文庫を解説。今回は特別編として、新社会人に役立つ本を、平井編集長と各編集担当者が2回にわたって紹介します。後編では、アンガーマネジメントやクイズで学べる戦略思考、英語の本など10冊を取り上げます。聞き手は、昨年、新社会人だった入社2年目の黒田琴音と茂木拓朗(いずれも日経BOOKSユニット)が務めました。
新社会人にも役立つアンガーマネジメント
『
アンガーマネジメント
』
『
アサーティブ・コミュニケーション
』
『
アクティブ・リスニング ビジネスに役立つ傾聴術
』(いずれも戸田久実著、日経文庫)
平井修一・日経文庫編集長(以下、平井) 今回は新社会人だけではなく、中堅層のリスキリングにも役立つ日経文庫を紹介します。最初は『アンガーマネジメント』『アサーティブ・コミュニケーション』『アクティブ・リスニング ビジネスに役立つ傾聴術』とタイトルにAがつく「3A」シリーズです。担当は日経BOOKSユニットの細谷和彦です。もともとは『アンガーマネジメント』を2020年6月にパワハラ防止法が施行されるタイミングで出版したんですよね。
細谷和彦(以下、細谷) はい。マネージャーに向けた本のつもりでしたが、若い世代や教育現場でも参考にしてくれる人が多く、幅広い層に読まれました。1冊目の怒りをコントロールする『アンガーマネジメント』に続いて、言いたいことを主張しながらもきちんと関係性を築く『アサーティブ・コミュニケーション』、その次に、怒りや衝突を避けるためには相手の話を積極的に聞く必要があるという『アクティブ・リスニング』を刊行しました。
私も自分の新人時代を思い返してみると、学生時代は自分にとって心地のいい人とだけ話していればよかったのですが、社会人になるとそういうわけにもいかず、そうしたときに怒りの感情が湧き上がりやすかったかなと。怒りの根底には「自分はこれが正しいと思っているのに」といった思い込みがあります。そんなときは『アンガーマネジメント』に書いてある「怒りを6秒我慢する」「怒りの原因をメモする」「怒りに点数をつけてみる」といった方法を試して、怒りをコントロールするといいと思います。
黒田琴音(以下、黒田) 私も入社当時のことを思い返しながら読みましたが、結構部下からの視点も盛り込まれていますよね。例えば、「上司に評価されていないと感じたらどう言えばいいか」といったことが書かれていて、参考になります。ただ、新入社員が上司に意見したり、意見をぶつけたりすることはまだ難しいと思うので、まず『アクティブ・リスニング』から読むのがいいのではないでしょうか。本の中で「人の話に素直に耳を傾ける人のことはみんな助けたくなる」と書かれていて、私もそこから始めようと思いました。
平井 「アンガーマネジメント」「傾聴」は仕事をするうえで、どの世代にも大事なことです。春から部下を持つ人、チームリーダーになる人にも読んでもらいたいですね。
細谷 ちなみに我が家ではあまり役立っていません…。
平井 細谷さんの永遠のテーマ、「家庭」では役に立ちませんでしたか…。
細谷 いや、正確に言うと私にはすごく役立っています。でも、読んでほしい人には刺さらないという(笑)。難しいですね。ちなみにこのシリーズは子どもとの向き合い方も学べるので、おすすめです。
クイズで戦略を学ぶ
『
戦略思考トレーニング
』
『
戦略思考トレーニング2
』
『
戦略思考トレーニング3 柔軟発想力
』(いずれも鈴木貴博著、日経文庫)
平井 続いては『戦略思考トレーニング』です。日経文庫が70周年を迎えた2024年から、過去の名著を復刊する試みを始めています。そこでまずは『戦略思考トレーニング』を紹介します。こちらは私が担当した本で、思い入れとこだわりがあるので自分で解説しますね。
『戦略思考トレーニング』はクイズ本で、1ページに問題とイラスト、次のページに解答と解説が書かれています。このような形式の本として、古くは多湖輝(たご・あきら)さんの『 頭の体操 』シリーズ(光文社。リンクは「第1集 パズル・クイズで脳ミソを鍛えよう」の文庫版)や、逢沢明さんの『 論理力が身につく 大人のクイズ 』(PHP文庫)といったものがありました。私もクイズ形式の日経文庫をつくってみたいと思っていたのですが、仕事でお付き合いのあった戦略コンサルタントの鈴木貴博さんが実はクイズ作家の顔も持っていた方だったんです。それでお願いしたら予想以上に素晴らしい原稿をいただいて、イラストも面白く、松田行正さんの装丁も素晴らしくて、いい本ができました。『頭の体操』は有名ですから、みなさんも読んだことがあるのでは。
一同 いえ…知らないです。
平井 えっ!? 私が小学生の時は、五島勉さんの『ノストラダムスの大予言』と並ぶ、誰もが知ってる大ベストセラーだったのに…みなさんが知らないとはショックです…。ちなみに『戦略思考トレーニング』の帯文句にある「『まさか?』『なるほど!』のクイズ満載!」という文言は、楠木建さんをはじめ数多くの経営学者たちが絶賛した『 「バカな」と「なるほど」 』(吉原英樹著、PHP研究所)という名著へのオマージュなんですが、これもみなさん、気づいていないでしょうか…。
茂木拓朗(以下、茂木) 私は最初、『戦略思考トレーニング』はケーススタディの本だと思っていたのですが、思考力を問うクイズ本で事例がたくさん紹介されているので面白かったです。コンサル系の戦略思考本だとケーススタディで「どうやって売り上げを伸ばすか」といった内容が多いのですが、この本は柔軟な発想が問われるのもいいですね。事例としてリクルートで「とらばーゆ」「フロム・エー」「じゃらん」などを創刊したくらたまなぶさんが紹介されていて、「右手にロマン、左手にそろばん、心にジョーダン」という言葉が印象的でした。
それからディズニーの戦略もなるほど、と思いました。ディズニーは1970年代以降、映画のヒット作が減り、業績が悪化していたそうですが、1984年にCEOに就任したマイケル・アイズナーは、ディズニーのブランドに合わないような映画会社まで積極的に買収して傘下に収めました。その意図は才能のある映画人たちを増やすためだった、というクイズです。クエンティン・タランティーノ監督を抱えていたミラマックスもその一つだそうです。
平井 このクイズには、タランティーノ監督の出世作「レザボア・ドッグス」にいかにも出てきそうな悪者が、ねずみの着ぐるみを持った人に手招きされているイラストがついています(笑)。
茂木 それから「仕事後の楽しみは居酒屋で1杯、という人もいるはずです。さて、ビール会社の社員たちは自社のビールを飲食店に置いてもらうため、地道な普及活動をしています。それは何でしょう?」という問題も面白かったです。答えは「飲食店で自社のビールを注文することで、消費を増やし販路を拡大する」「もし置いてなかったら一言文句を言う」ということなのですが、確かに居酒屋では1社のビールしか取り扱っていないところがあるので、腑(ふ)に落ちました。
そういえば先日、編集部員同士で「書店で日経文庫を大量に買えば、たくさん置いてもらえるんじゃないか」と半ば冗談で話していて、みんな考えることは同じなんだなあと笑ってしまいました(笑)。
平井 なるほど(笑)。この本は1時間ぐらいで読むこともできますし、じっくり1日1問ずつ解いて脳のトレーニングをしてもいいと思います。ぜひ、楽しんで読んでください。
ビジネス英語の適切な表現が分かる
『
チームリーダーの英語表現
』(デイビッド・セイン著、日経文庫[以下同じ])
『
ネゴシエーションの英語表現
』(デイビッド・セイン、マーク・スプーン著)
『
ミーティングの英語表現
』(同)
『
プレゼンテーションの英語表現
』(同)
平井 続いて、こちらも復刊したデイビッド・セインさんの『英語表現』シリーズ」です。この本はプレゼンテーションやミーティングなどの目的別、さらに「ミーティングで否定的な表現をするにはどう話したらいいか」「完全に納得したことを示すには」といった具体的なシーン別の英語表現を紹介しています。出張前や移動中に読む人が多く、駅や空港の書店で人気でした。ただ、今は英語学習アプリやオンライン英会話といった勉強法もあるので、競合が多いジャンルではあります。
黒田 私は前職では業務の半分ぐらいは英語を使っていましたが、よく使っていた表現が本書に載っていました。例えば、「would like to」です。「want to」を使うと子どもっぽく聞こえるので「would like to」を使いなさい、と留学中に習ったのですが、そういった点を踏まえた表現がしっかり掲載されています。それから「trouble」と「difficulty」は日本語ではどちらも似たようなイメージですが、英語だとtroubleはネガティブな意味合いが強く、difficultyは「ちょっと難しいよね」といったニュアンスだと解説されています。英語が母語ではない人からすると「どっちでもいいのでは?」と思うかもしれませんが、知らないがゆえに相手をいら立たせることがあるかもしれず、事前に知っておくときっと役立つと思います。
確かに今は英語学習アプリやオンライン英会話もありますが、きちんと文法を理解したい、折に触れて見返したいという人には日経文庫をすすめたいです。
平井 本には本の良さがあるということですね。
黒田 はい。『ミーティングの英語表現』は資料作成からファシリテーション、次回のミーティングの設定まで、この本の表現が使えると思います。ただ、『チームリーダーの英語表現』は2010年の刊行なので、当時の表現を今そのまま使うと聞こえ方などがちょっと強すぎるものがあるかもしれません。
平井 なるほど。そのあたりは注意しつつ活用してほしいですね。前回、今回で紹介した日経文庫をみなさんの仕事のお役に立ててもらえれば幸いです。

取材・文/三浦香代子







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