2024年8月、日経文庫は創刊70周年を迎えました。その長い歴史の中で、日経文庫は数々のロングセラーや経済・経営・ビジネス実務の名著を生み出しています。そこで、日経文庫の平井修一編集長と編集者が、さまざまなテーマでおすすめの日経文庫を解説。今回は、20代から身につけておくと強い武器となる「ビジネス思考力」を鍛える基本の6冊を紹介。一緒に解説するのは、前・日経文庫編集長で数々の書籍を担当してきた細谷和彦と入社2年目の石純馨。

日経BOOKSユニット 第1編集部 細谷和彦(以下、細谷) 日経文庫70周年4回目は「ビジネス思考力」を鍛える基本の6冊ですね。

平井修一編集長(以下、平井) 今回紹介する本のなかには、見開き2ページで1項目を解説(左ページが解説で、右ページが図解)というスタイルの「ビジュアル版」の本がたくさん登場します。このビジュアル版は、私が入社した30年ぐらい前から始まったのですが、当初は通常版の日経文庫で売れ筋だった経済や経営、マーケティングといったテーマを「ビジュアル版」にしました。その後、「ビジュアル版」を拡大していこうということで、通常版ではIジャンル「ビジネス・ノウハウ」にあたるテーマのビジュアル版を増やしていきました(ジャンルについては「 「コミュ力」を高める人気の日経文庫9冊の読みどころを編集者が解説 」で紹介)。

今回、紹介するのは、「ビジネス思考力を鍛える」この6冊!
今回、紹介するのは、「ビジネス思考力を鍛える」この6冊!

平井 まず初めに紹介する『ビジネス・フレームワーク』も、ビジネス・ノウハウジャンルで成功した一冊で、現在12万部のベストセラーです。

12万部のベストセラー 若手が読むと武器になる

『ビジュアル ビジネス・フレームワーク 第2版』(堀公俊著、日経文庫)

『ビジュアル ビジネス・フレームワーク  第2版』(堀公俊著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
『ビジュアル ビジネス・フレームワーク 第2版』(堀公俊著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ

平井 この本の特長は、何といっても176ページで「ビジネスシーンで使える200種類のフレームワーク」が紹介されていることです。なかには「ファイブフォース」「ロジックツリー」「4P」「イノベーター理論」など、それだけで一冊の本が書けそうなテーマも。それを見開き2ページにぎゅっと凝縮し、解説文で「基本のカタチ」「応用のヒント」を説明し、図解のページで、実際にフレームワークが使えるような図表を掲載しています。

 著者の堀公俊さんとお会いした際、「担当編集者の力なしではこの本はできなかった」とおっしゃっていましたが、丁寧な編集によって成り立っている構成です。めくっていくとどのようなフレームワークかが分かり、自分の関心に沿って活用できそうなアイデアがどんどん湧いてきます。とても良い本です。

第1編集部 石純馨(以下、石) 入社2年目の私はまだ、業務のなかでフレームワークを使うわけではありませんが、初心者の私でも図解が分かりやすいと思いました。先日、X(旧Twitter)で、ある30代のインフルエンサーの方が、この本を「20代のうちに読んでおくべき」だと勧めていました。若手が読んでも仕事に役立つエッセンスが入っているんだと思います。「値付けをどうするのか」といったページも、読んでみてなるほど!と思いました。

平井 「これからフレームワークを仕事に生かしていきたい」という人にとって、最初の入口となりますね。

細谷 今すぐフレームワークを使わなくても、考えるきっかけになりますよね。さまざまな手法の考え方が頭の引き出しに入っていれば「今回はこれを使ってみようか」と思える。フレームワークは若いうちに習得しておくと、確実に武器になりますよ。そういえばこの本、現在は第2版ですが、改定した時にフルカラーにしたんですよね。

フルカラーにして見やすくなった第2版 右ページの図解が分かりやすいビジュアル版
フルカラーにして見やすくなった第2版 右ページの図解が分かりやすいビジュアル版

平井 10万部を超えたのを機に、見やすいフルカラーとなりました。

細谷 実は編集者にとっては、2色よりもフルカラーのほうが大変なんですよね。色が増えた分、どこをどの色で強調するのか、頭を悩ませる。でも、読者にとっての分かりやすさを追求するという、編集者の努力が詰まっている一冊でもあります。

コンサルが若いうちに身に付けるロジカル・シンキングの訓練法は必読

『ビジュアル ロジカル・シンキング 第2版』(平井孝志、渡部高士著、日経文庫)

平井 著者の一人、平井孝志さんは現在は筑波大学の教授ですが、この本を書いた当時はコンサルティング会社のローランド・ベルガーのパートナーでした。共著者の渡部高士さんは当時ローランド・ベルガーの同僚で、現在はマッキンゼーの化学・農薬グループの日本地域の責任者だそうです。日経文庫70周年を記念して、著者の平井さんからこんなおすすめの言葉をいただいています――「戦略コンサルティングファームで筆者が学び、経験したことを土台としてロジカル・シンキングのエッセンスを網羅しました。シンプルであるがゆえに幅広く応用可能です!」。この本は、細谷さんが担当でしたね。

細谷 もともと通常版の日経文庫に、別の著者・茂木 秀昭さんの『 ロジカル・シンキング入門 』という本があり、とても好評で7万部くらい売れていました。ビジュアル版もつくろうということになり、著者を誰にしようか考え、若手の段階からロジカル・シンキングの研修があるコンサルティング会社で活躍しているお二人に執筆をお願いしました。コンサルタントは日々仕事でプレゼンをしているので、図表を使って説明するのも上手なんです。著者として最適でした。

『ビジュアル ロジカル・シンキング 第2版』(平井孝志、渡部高士著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
『ビジュアル ロジカル・シンキング 第2版』(平井孝志、渡部高士著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ

平井 平井孝志さんは『 本質思考 』『 武器としての図で考える習慣―「抽象化思考」のレッスン 』(いずれも東洋経済新報社)などビジネス書で名著を出されていますよね。

細谷 私がこの本のなかで特におすすめしたいのは、第7章の「ロジカル・シンキングの訓練法」です。ロジカル・シンキングって、いつでもどこでも訓練できるんですよ。

 例えばレストランに入ったら、席がどれだけ埋まっているか、どれくらいの時間でどれだけの収入が見込めるのか、一日でどれくらい儲かるのかを考える。電車に乗れば、その混雑状況から今日の鉄道収入はどれくらいかも推測できますよね。

第7章ではトレーニング法が具体的に紹介されている
第7章ではトレーニング法が具体的に紹介されている

細谷 ロジカル・シンキングの考え方として大事なのは「ダブリなく」「モレなく」考えることだと思います。これはどんな仕事のシーンでも役立ちます。私の仕事でいえば、書籍の企画書を出す際、モレがあると突っ込まれるので、企画段階からモレをなくして、かつ内容の重複を避けた構成を意識するのです。

 コンサルタントは若いうちから経営者とやり取りしています。相手の話を引き出したり、系統立てて質問したり。そのときに活用しているツールをこの本でたくさん紹介しています。また、家族の説得など、仕事以外でも使えると思いますよ。ロジカル・シンキング自体は2000年代から流行し、この本の初版は2012年と後発になりますが、後発だからこそ、いろいろな要素を盛り込み、よくまとまっていると思います。ぜひ20代、30代の若いうちに読んでもらいたいですね。

 私は大学時代によく「ロジカル・シンキングは学んでおいたほうがいい」と言われていました。働いて1年ほどたった今、そのアドバイスにとても納得感があります。短時間で膨大な仕事を片付けなくてはならないときも、ロジカル・シンキングを意識すると、優先順位など整理しやすい。

細谷 目次も工夫しました。「問題とは、あるべき姿と問題のギャップ」「なぜを5回繰り返す」など、「問題解決のテーマ」ごとに構成しています。「イシューツリー」「MECE」など、よくあるロジカル・シンキングの用語解説みたいな目次になりがちなところ、読者が活用シーンをイメージしやすいように意識してつくっています。

儲けのしくみが「ピクト図解」によってひと目で理解できる

『ビジュアル ビジネスモデルがわかる』(井上達彦著、日経文庫)

平井 著者の井上達彦さんは、『 ブラックスワンの経営学 通説をくつがえした世界最優秀ケーススタディ 』、『 模倣の経営学 』(いずれも日経BP)といった経営学のベストセラーを出している方です。

細谷 そもそも「ビジネスモデルとは何か?」というと、「儲ける仕組み」のことです。例えばイメージしやすいのは、サブスクリプション、Googleなどのフリーミアム(基本のサービスや商品を無料で提供する「フリー」と、より高度なサービスや商品を有料で提供する「プレミアム」を合わせて収益を確保するモデル)、Airbnbなどのシェアリングエコノミーといったサービスでしょうか。そうした儲けの仕組みをピクト図解(シンボル記号を使って関係性を示す手法)を使いながら分かりやすく解説しています。

『ビジュアル ビジネスモデルがわかる』(井上達彦著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
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平井 ピクト図解はビジネスプロデューサーの板橋悟さんが考案したメソッドですね。

細谷 はい、モノとお金の流れをピクトで図解しています。複雑なお金の流れを図解するのは大変だったと思います。われわれが無料で使っているGoogleが広告やニュース配信で収入を得ているなど、どうやって収益を上げているのかが一目で分かる。直感的に理解できるのがピクト図解のいいところです。

Googleはどうやって収益を上げているのか。右ページのピクト図解でその仕組みが分かる
Googleはどうやって収益を上げているのか。右ページのピクト図解でその仕組みが分かる

平井 右ページの図解から学べるのはビジュアル版シリーズの特長ですね。フリーミアムなどは、複雑で面白い世界です。

 最初に紹介したフレームワークとビジネスモデルはどう違うんでしょうか。タイトルだけ見ると似ていますよね。

細谷 フレームワークは「考えるツール」、ビジネスモデルは「儲ける仕組み」です。さらに言うとフレームワークは個人が考える際に活用できるもの、ビジネスモデルは大きな視点で会社や事業全体を考える際に必要なものだと思います。

平井 先ほど石さんも言っていましたが、学生時代のうちにロジカル・シンキングを学び、社会人になったらフレームワークで思考の引き出しを増やし、中堅以上になって事業や経営視点でビジネスモデルについて考える──という段階を踏むとよいのかもしれませんね。

まさに「考える力を鍛える」ビジネスパーソンのためのクイズ

『ビジネス思考力を鍛える クイズで特訓50問』(細谷功著、日経文庫)

平井 著者の細谷功さんは、『 地頭力を鍛える 』(東洋経済新報社)や、『 「具体⇄抽象」トレーニング 』(PHPビジネス新書)など、まさに思考力を鍛える本を書かれている方です。この本はクイズ形式なのですが「正解がパッと分かる」「記憶していれば答えられる」といった問題ではないのがポイント。

 例えば「自分の収入を上げるために、本業で頑張るのがいいのか、それとも転職や副業をするのか」「20年後になくなる職業・新しく生まれる職業は?」など、すぐに答えが出せない問題が並んでいます。若手から中堅社員まで、地頭力や思考力を高めたい人におすすめです。

細谷 クイズ形式ですが、かなり考えさせられますよね。

 軽いゲーム感覚で答えるクイズかと思ったら、かなり頭を使いました。クリティカル・シンキングに近いのでしょうか。例えば人と何か議論していて、いい着地ができなかったり、共通の認識を得られなかったりしたときに、簡単に諦めずもう一歩踏み込んで「考える」ことの大切さを感じました。

平井 確かにクリティカル・シンキングのように物事を多面的に捉える力が鍛えられそうです。仕事の現場で「自分はこういう思いがあって、こういうゴールに到達したい」と思っているのに横やりが入ったり、疑問をぶつけられたりしたとき、「どう返すのか」というトレーニングにもなると思います。

細谷 今の平井さんの言葉で思い出しましたが、「ロジカル・シンキング」の弱点は「現状だけで答えを出そうとしてしまう」ことです。現状の延長線上にはない、いわゆる非常事態には対応できない。そこで、先ほど紹介した『ビジュアル ロジカル・シンキング 第2版』では「多面的に考えることの重要性」について補足を入れています。ロジカル・シンキングとビジネス思考力、どちらも身に付けておくといいですね。

経営本の名手が具体的な事例をユーモアを交えて紹介

『PDCAマネジメント』(稲田将人著、日経文庫)

『PDCAマネジメント』(稲田将人著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
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平井 著者の稲田将人さんはマッキンゼーのコンサルタントとして活躍し、『 経営参謀 戦略プロフェッショナルの教科書 』 (日経ビジネス人文庫)などを書かれてきた経営書の名手です。この本では、フレームワークの1つであるPDCAについて、とても分かりやすくまとめられています。

 今回読み返して改めて気づいたのですが、PDCAはもともと品質管理で使われていたTQC(Total Quality Control)から生まれたものだったんですね。TQCブームは以前ほどではありませんが、PDCAに関する本は引き続き、読まれています。

細谷 『PDCAマネジメント』というタイトルだと、マネジメントや管理職向けだと思われてしまうかもしれませんが、どんな立場の人にも役立つ内容だと思います。

 一見難しそうだと思いましたが、意外とスルスル読めました。著者の稲田さんが具体的な事例を紹介しながら時々皮肉っていたりして、ユーモアを感じられる説明が面白く、読みものとしても楽しめます。

 例えば、「頑張ってプランを実行しても、本当に効果があったかどうか検証しないままあいまいになってしまう」とか、どこの企業も同じ現象が起きがちなんだなと思いました。会社の偉い人に読んでもらいたいです(笑)。

平井 そうですね。読んで、ぜひ活用してもらいたいです(笑)。

理論から応用まで網羅 すぐに使える職種別のKPI

『KPIマネジメント』(佐々木一寿著、日経文庫)

平井 著者の佐々木一寿さんは、社会人向け大学院で教科書の執筆・編集に携わり、経営や経済に深い知見のある方です。この本ではさまざまな職種ごとにどんなKPI(Key Performance Indicator)があるかを説明しています。石さんが本書の編集担当ですが、石さんはこの本を担当する前からKPIという言葉は知っていたんですね。

 はい、ただ、KPIというと「数字に縛られる」イメージがありました。でも、著者の佐々木さんとお話しするうちに「漠然と頑張ります」がなぜダメなのか、「指標がないとゴールを目指せない」ということが理解できました。

『KPIマネジメント』(佐々木一寿著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
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 また、部署を超えての共通の指標があるからこそ、会社全体で具体的なゴールを目指せるんだということや、最初に決めたKPIに縛られるのではなく、状況に応じてKPIを増やしたり、減らしたりもできることも分かり、とても勉強になりました。

平井 著者の佐々木さんと話して、勉強になった部分が大きかったと。

 はい。例えば、自分自身の「いい本をつくりたい」という思いだけではなく、どうやって届けるのかといったマーケティングの視点、どんな方針でこれから本をつくっていくのかといった経営の視点を持つと、今まで気づかなかったことが見えてくるんだな、と。編集者という仕事を、KPIを通じて客観的に理解するきっかけにもなりました。

営業部、制作部、マーケティング部…各職種のKPIが並んでいる。目次を字引として使えるのも特長
営業部、制作部、マーケティング部…各職種のKPIが並んでいる。目次を字引として使えるのも特長
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細谷 「KPIを途中で変更することもある」というのは実践的ですよね。視野を広げるというか、いろんな部署からの視点を理解したうえでKPIを定める必要もあると。

 さまざまな職種のKPIについて解説しているので、自分とは違う職種について知るきっかけにもなります。私も、これが「人事の視点なら」とか「営業の視点なら」とか、一歩引いて考えるようになりました。

取材・文/三浦香代子 構成・写真/長野洋子(日経BOOKプラス編集部)