2024年8月、日経文庫は創刊70周年を迎えました。その長い歴史の中で、日経文庫は数々のロングセラーや経済・経営・ビジネス実務の名著を生み出しています。そこで、日経文庫の平井修一編集長と編集者が、さまざまなテーマでおすすめの日経文庫を解説。今回は、カーボンニュートラルから物流まで、今ビジネスで話題の「環境・資源」ジャンルの基本と要点を押さえる日経文庫を6冊、紹介します。一緒に解説するのは、前・日経文庫編集長で数々の書籍を担当してきた細谷和彦。

日経BOOKSユニット 第1編集部 細谷和彦(以下、細谷) 日経文庫70周年企画の8回目は「環境・資源」分野ですね。

日経文庫 平井修一編集長(以下、平井) 「環境・資源」は、ここ5年ぐらいで注目が集まってきているジャンルですね。思い起こせば、京都議定書が採択されたのは1997年の国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で、COP(締約国会議)も今年で第29回を迎えました。その間、世界で環境対策が盛り上がった時期もあれば、第1次トランプ政権で米国がパリ協定から脱退したり、バイデン政権で復帰したりという紆余曲折もありましたね。2025年1月からは第2次トランプ政権が始まりますから、また波乱が起きるのではないかとも思います。

 今の環境問題はどうなっているのか。世の中の動きとこれからの課題を知るためにも、コンパクトにまとまっている日経文庫は、とても役立つと思います。まず紹介する1冊目は、10万部売れたこちらの本から。

短期間で話題になり10万部も売れた

『SDGs入門』(村上芽・渡辺珠子著、日経文庫)

『SDGs入門』(村上芽・渡辺珠子著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
『SDGs入門』(村上芽・渡辺珠子著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ

平井 この『SDGs入門』は、入社2年目ぐらいの若い編集者が企画し、短期間のうちに10万部も売れた本です。SDGsが話題になり始め、ビジネスでの対策について知りたいというニーズが高まっていたところに、うまく合致しました。日本総合研究所の村上芽さん、渡辺珠子さんがビジネスパーソンに向けて「SDGsとESGの違いとは」といったことを分かりやすく解説してくれています。ちなみに、この本では「ESGはプロセスで、SDGsはゴール」だと解説しています。

ESGとSDGsの位置付けを示す図も
ESGとSDGsの位置付けを示す図も
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細谷 村上芽さんは少子化問題についても詳しい方ですよね。

(参考記事)村上さんのインタビュー記事
出口の見えない日本の少子化問題 解決に役立つ3冊

 最初に編集者がこの企画を出したのは2018年の11月でしたが、翌年2019年6月のG20でSDGsが必ず話題になるはずだということで間に合うように急いで、かなり短期間でつくった本でしたね。今でも学校や法人でSDGsのためのハンドブックとして購入されることも多く、いち早くテーマを捉えた本が出せたのはよかったですね。

 そういえば、「いち早く」という意味では、『 5Gビジネス 』(亀井卓也著)という本を2019年6月に出しましたが、こちらも10万部を超えたんです。『 「働き方改革」まるわかり 』(北岡大介著)や『 「同一労働同一賃金」はやわかり 』(北岡大介著)の2冊も、社会で話題になるタイミングに合わせて早い時期に出して好評でした。

平井 日経文庫は、個人情報保護法や介護保険制度など、ビジネスパーソンが仕事をする上で知っておかなくてはならないことを、全体を網羅して一般向けに解説できるタイミングで本を出すことが多く、「話題の先頭を切って本を出す」ことを優先しているわけではないのですが、世の中のニーズに合わせたスピード感にチャレンジしてきた本もいくつかあります。

 「あるキーワードやテーマが話題になり始めた」「知っておかなくてはいけないけれど分厚い専門書を読む時間はない」──というときに、日経文庫は信頼できる著者が要点を押さえた解説をしてくれるので強い味方となります。

世界を俯瞰する「見取り図」としての一冊

『資源の世界地図』(飛田雅則著、日経文庫)

『資源の世界地図』(飛田雅則著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
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平井 この『資源の世界地図』の筆者の飛田さんは日経新聞の記者で、エジプトのカイロ・アメリカン大学、イスラエルのヘブライ大学に留学し、国際情勢にも詳しい方です。

 菅義偉首相(当時)が2020年の臨時国会で「2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と打ち出したことで、日本では、カーボンニュートラルの話題に火がつきました。

細谷 タイトルに「資源」とあるように、エネルギーだけではなく、レアメタル、レアアースといったテーマについても詳しく書かれています。レアメタル、レアアースは、中国による権益寡占が進んでいます。中東での駐在が長かった飛田さんはアフリカでも取材を重ねていて、アフリカ大陸のレアメタル、レアアースに中国が早々に手を出している、そうした状況への危機感も示唆しています。

 ロシア、アメリカなど世界各国の現状についても詳しく書いてあるので、この本を読むと、まさに「世界の資源地図」が分かるようになっています。地図が本の中にたくさん出てくるわけではないですが、世界を俯瞰する「見取り図」という意味合いで、このタイトルにしました。

本の中には、写真や図表、地図もあり、分かりやすい
本の中には、写真や図表、地図もあり、分かりやすい
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 ロシアとウクライナの戦争が始まったころ、「戦争を始めたロシアにはどういう事情があるのか」を知りたい人が多かったようで、書店に並べたところ、多くの方に手に取っていただきました。

類書が他にない、企業の取り組み事例が豊富

『カーボンニュートラル』(野村総合研究所編、日経文庫)

『カーボンニュートラル』(野村総合研究所編、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
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平井 今、全世界でカーボンニュートラルに向けた取り組みが起きていますが、この本は野村総合研究所の研究者が著者というだけあり、業界別にどのような影響があるのかを具体的に解説しているのが特徴です。類書はあまりないのではないかと思います。

細谷 そうですね。この本は、先ほどの『SDGs入門』とは逆で、企画から出版までじっくり時間をかけてつくった一冊です。だからこそ、カーボンニュートラルを進めるなかで出てきた各企業の取り組みを最新事情として紹介することができました。特に野村総合研究所は、個別の企業へのコンサル実績があるので、その事例を紹介することを主眼としました。

平井 企業の取り組み事例がたくさん出てきますね。

企業ごとの取り組みを一覧にして紹介
企業ごとの取り組みを一覧にして紹介
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細谷 二酸化炭素を一番多く排出するのはエネルギー関係や工場だと思いますが、自社で工場を持っていなくても、取引先にそうした企業があると、対策が必要ですよね。この本では図表やグラフを用いて、自動車、鉄鋼、化学など、業界別の事例を解説しています。日経文庫は、サイズ的にシンプルな図表じゃないと入らない。図表を分かりやすくコンパクトにする工夫もしています。

 企業でカーボンニュートラル対策の担当になった人など、「今すぐ知識を身につけたい」という人に大いに役立つと思います。

この一冊で日本のエネルギーの全体像がわかる!

『日本のエネルギーまるわかり』(塙和也著、日経文庫)

『日本のエネルギーまるわかり』(塙和也著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
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平井 この『日本のエネルギーまるわかり』を出版したのは、社会のなかで「脱炭素を始めたけれど、なかなか思い通りに進まない」という空気がまん延したタイミングでした。

細谷 この本は、資源というより、エネルギーの本といったほうがいいかもしれませんね。一冊で日本のエネルギーの見取り図が分かるようにしたいと思い、企画しました。

 日本は世界に比べると脱炭素への取り組みが遅れています。そんな日本のエネルギー展望についても書いています。著者の塙さんは日本経済新聞ではエネルギーの専門記者で、政府筋にも企業筋にも詳しく、日本のエネルギー市場も含めて解説してもらいました。

 先ほどの『カーボンニュートラル』が業界別の現状が分かる本だとすると、こちらは、日本のエネルギーの全体像が分かる本です。

物流以外の人が読んでもビジネスヒントが学べる

『ロジスティクス4.0』(小野塚征志著、日経文庫)

『ロジスティクス4.0』(小野塚征志著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
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平井 最後に紹介するのが、『ロジスティクス4.0』です。厳密にいうと、ロジスティクスは「環境」といえないかもしれませんが、物流の効率化やESG経営のG(Governance)とも密接に関係し、過剰配達に付随する問題として注目されています。著者の小野塚征志さんは、コンサルティングファームのローランド・ベルガーで、ロジスティクスやサプライチェーンを中心としたさまざまな戦略コンサルティングに携わっています。

細谷 小野塚さんは、最近、日経文庫のビジュアル版で『 ビジュアル ロジスティクスがわかる 』(日経文庫)という新刊も出しました。

自分の業界の立ち位置などを見渡せる

『ビジュアル ロジスティクスがわかる』(小野塚征志著、日経文庫)

『ビジュアル ロジスティクスがわかる』(小野塚征志著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
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細谷 まず物流について知りたい人は『ロジスティクス4.0』、自分の業界の立ち位置などを見渡したい人は『ビジュアル ロジスティクスがわかる』を読むといいと思います。

2冊そろえて、順番に読むのがおすすめ
2冊そろえて、順番に読むのがおすすめ
左ページは解説、右ページはビジュアルで分かりやすいのが、ビジュアル版の特徴
左ページは解説、右ページはビジュアルで分かりやすいのが、ビジュアル版の特徴
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 これまでモノを運んだり、フォークリフトを動かしたりという人海戦術だったロジスティクスが、IT化による自動運転で24時間モノを動かす装置産業に変わっていく様子について説明しているのが、この『ロジスティクス4.0』です。物流に携わったことのない小野塚さんに解説してもらっているのも、この本の大きな特徴なんです。

平井 あえて外の世界の人のほうが展望を語れると。

細谷 現場経験のある人だと、どうしても目の前の課題に終始してしまうかもしれません。しかし、今はトヨタがITの世界から車を変革してくように、物流の世界だけを知る人よりも外の世界の視点を持つ人が考えるほうが変革を起こせるのではないかと。そして、その変革を起こした企業が勝つのだと思います。

平井 帯には「次なる『GAFA』はどこだ?」と書かれ、成功事例なども紹介されていますね。

細谷 はい。この本はコロナ禍以前に出たのですが、コロナ禍以降は「いかにモノを届けるか」が重要になってきました。なるべく人と接触せず、しかもちゃんと届けなくてはいけないという装置産業化がより鮮明になってきた。さらに2024年問題もあり、労働時間も削減しなくてはいけない。ただモノをつくるだけではなく、きちんと届ける仕組みに重点を置く企業が勝ち残っていくのではないかと思います。

平井 日経文庫には古くから物流やロジスティクスの本はあったのですが、今後はこの本のように「経営戦略のなかに物流をうまく取り入れると企業が強くなる」というメッセージの本が注目されそうですね。

細谷 今までは「モノをつくる人が偉い」という傾向が強かったと思うんです。でもこれからは、物流を改革して、つくったモノがきちんと届かないと顧客が離れてしまう。例えば本を注文したとして「正確な冊数が決まった日に届く」というのは改めてすごいことだと思います。この本は、物流に関わっていない人も、「新しい視点からビジネスの仕組みを変える」ヒントを得られる一冊だと思います。

取材・文/三浦香代子 構成・写真/長野洋子(日経BOOKプラス編集部)